”YouTubeなどで注目を集め、パット・メセニーが絶賛していることで大きく話題になった新鋭ギタリスト”というメディアに書かれている新しさを強調された側面と、”エフェクターもルーパーも使わずにギター1本でバド・パウエルやチャーリー・パーカー、セロニアス・モンク由来のスタンダードを演奏する”というオーセンティックというよりはなんなら保守的にさえ見えてしまう側面は相反するものにも思えてしまいそうだが、パスクァーレ・グラッソの演奏を実際に聴けば、そのどちらも納得できるうえに、きわめて保守的でありながら、同時に極めて進歩的で革新的であることが両立している驚異的な才能が現れたこともわかるだろう。
こんな得体がしれないし、意味の分からない演奏をしているにもかかわらず表面的には超保守的で懐古趣味にさえ聴こえかねないギタリストを僕は他に知らない。
イタリア出身でNYで活動するジャズ・ギタリストのパスクァーレ・グラッソはジャズ・ギターのシーンに衝撃と戸惑いを与えた逸材だ。
いきなり断言するが、パスクァーレのギターはすでに唯一無二だ。そもそも上手いとか新しいとかというよりも、ギターを演奏するためのコンセプトがこれまでの常識とは異なっているので、過去のジャズギタリストとの比較自体が成り立たないとさえ言える。パット・メセニーが絶賛した理由はそこに繋がるのだが、既存のジャズ・ギタリストのスタイルの延長線上でアップデートしていくというよりは、新たなスタイルを創造しようとしていると言った方がふさわしいものなのだ。
ジム・ホールやビル・フリゼール、パット・メセニーやアラン・ホールズワースからカート・ローゼンウィンケルに至る流れとも異なるし、ジュリアン・ラージが切り開こうとしているラインでもない。どんな流れにも位置付けられないのだ。
これまでにソロギター作品を何枚か発表していて、その中で演奏しているのはバド・パウエルやアート・テイタム、もしくはセロニアス・モンクの愛奏曲が圧倒的に多い。ギターの演奏に関してもまるでビバップのピアニストが二本の手でソロを演奏しているかのようなサウンドがギターの音色で聴こえてくる。つまり、左右の手の役割などのコンセプトからして、ジャズギターの常識とは完全に異なっている。(強いてあげるならビル・エヴァンスの影響をギターに置き換えようとしたラルフ・タウナーやレニー・ブロウや、クラシック寄りのエグベルト・ジスモンチなどの異端との比較は可能かもしれない)
ここではパスクァーレのその独自のスタイルに関して、その技術やコンセプトはどこから来たのか、ジャズ史のどこに紐づいているのか、そして、なぜそんなことをやろうと思ったのか、など、基本的な情報を語ってもらった。
ちなみに「今だったら多重録音もルーパーもハーモナイザーもあるのにテクノロジーを使うってことは考えたことないのか」って質問をしたら、なんでそんなことを聞くのかって顔をして笑っていた。
彼の奏法があまりに特殊過ぎることもあり、新たな可能性が提示されたこと、技術的なアップデートがなされたことなどを含め、なんらかの刺激を与える可能性はあるだろうが、彼がジャズ・シーンに直接的な影響を与えたり、新たな潮流が生まれるなんてことはおそらくないだろう。こんなわけのわからないギタリストが出てきたことに僕はとてもワクワクしている。
取材・構成・編集:柳樂光隆 通訳:染谷和美 協力:ソニー・ミュージック
◎アゴスティーノ・ディ・ジョルジオとバリー・ハリス
――なぜギターを選んだのか覚えていますか?
――あなたのバイオグラフィにによると最初にイタリアのギタリストのアゴスティーノ・ディ・ジョルジオ(Agostino Di Giorgio)からギターを学んだそうですね。
――アゴスティーノ経由であなたの中にチャック・ウェインの影響があったり、みたいなことはありますか?
――あなたにとってバリー・ハリスのワークショップに参加した経験も大きなものだと思います。バリー・ハリスは彼が生み出した独自のビバップ理論をもとに世界中でワークショップを行い、ジャズの普及と発展に貢献しています。彼の話も聞かせてください。
――バリー・ハリスはどんな先生でしたか?
◎クラシック音楽からの影響
――その後、クラシックを学ばれていると思いますが、あなたにとってのクラシック・ギターについても聞かせてください。
――クラシックのギターを学んだ後も、クラシックをやるのではなく、ジャズをやるのは最初から決めていたんですか?
◎ジャズ・ギタリストからの影響
――まずはあなたが特に研究した大好きなギタリストについて教えてください。
◎バド・パウエルとアート・テイタム
――あなたはバド・パウエル愛奏曲集『Solo Bud Powell』をリリースしてますし、『Solo Masterpiece』でも12曲中10曲はバド・パウエルが過去に録音している曲を演奏していました。そこまでバド・パウエルに入れ込む理由は?
――あと、あなたにとってピアニストのアート・テイタムもすごく大きな存在だと思います。あなたは『Solo Masterpiece』で12曲中7曲でテイタムも録音していた曲を選んでいます。バド・パウエルもチャーリー・パーカーもみんなアート・テイタムの影響を受けているくらいには偉大過ぎる存在です。アート・テイタムについても話を聞かせてください。
――ちなみにバド・パウエルもアート・テイタムもピアニストで、彼らがピアノでしかもあんな高速で弾いているフレーズをギターで弾くだけでもめちゃくちゃ大変ですよね。そもそもギターとピアノって全く違う楽器で置き換えるのはすごく難しいですし。
――今のところほぼソロ・ギター・アルバムしか出していません。しかも、スタンダード集。これはどういった意図が?
――ということは今後はバンドでアルバムを出すプランもあるってことですか?
――ちなみにソロでやるときはクラシックギターの奏法も取り入れた演奏はやりやすいわけですが、バンドでやるときもその個性的な奏法を使うんですか?
※パスクァーレ・グラッソ『ソロ・マスターピース』は日本のみでCD化。
◎プレイリスト for "Solo Masterpieces" Pasquale Grasso plays Art Tatum & Bud Powell
この記事のオマケとして以下のプレイリスト《for "Solo Masterpieces" Pasquale Grasso plays Art Tatum & Bud Powell》を作りました。
パスクァーレ・グラッソ『Solo Masterpieces』に収録されてる曲がアート・テイタムもしくはバド・パウエルが録音してる曲ばかりだったので、それを交互に並べてみました。このアルバムが2人のピアニストからいかに影響を受けているかが聴き取れるかと思います。ぜひ聴き比べてみてください。
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