1on1の普及と「とりあえず1on1」問題
1on1ミーティングの普及
1on1ミーティングが多くの現場に浸透してずいぶん経ちます。1on1という仕組みの普及に大きく貢献したのは「ヤフーの1on1―――部下を成長させるコミュニケーションの技法」でしょうか。
本書の帯に「部下のための時間」と書かれていることからわかるように、1on1はその普及段階においては「上司と部下の間で定期的に行われるミーティング」という意味合いでした。
ここ最近では1on1という言葉が指す範囲がもっと広がっていると感じます。同僚同士でのコミュニケーションだったり、定期的ではなく突発的に設けられた場だったり。
物事が普及していく過程でもともと持っていた意味合いが変化していくのはよくあることで、こういった意味の広がり自体が1on1が広く普及しているという事実を物語っています。
同僚同士の1on1
上司ー部下という関係性ではなくフラットな関係性での1on1は、上下関係があると話しづらい話題について話したり、協働関係を深めるためのアイデアを出しあったりと、その関係性ならではの効果が期待できます。
リモートワーク環境下でのコミュニケーションパス形成技術としての1on1
リモートワーク中心の現場では信頼関係に基づいたコミュニケーションパスを形成することに工夫が必要です。
これはオフラインで直接顔をつきあわせていると自然に得られる情報(表情や立ち居振る舞い、仕事机の上におかれた小物からわかる個人的嗜好)がオンラインでは得られないからです。
対処法として、偏愛マップなど個人の人となりを可視化するワークが考えられます。
中でも「お互いの経歴、価値観を深く知る」という目的で行われる1on1は、お互いをよく知るというゴールに向かって双方向にコミュニケーションをとるため、信頼関係を構築するうえで有効な手段のひとつです。
とりあえず1on1
このように1on1の意味合いが広がり、多くの現場で活用されるようになったことは喜ばしいことです。
ですが、普及したがゆえに効果的ではない1on1も目立つようになってきました。
目的を明確にせず、とりあえず「1on1」という名前でミーティングを設定する。雑談自体が目的であることもあるのでそれが明確ならいいのですが、なんのためにやるのか判然としないためなし崩し的に雑談になってしまった1on1のあとには、「この時間、無駄だったんじゃないかな…」という徒労感が残ります。
そして、なんでもかんでも「とりあえず1on1しよう」となってしまうと、いくつかの問題を引き起こします。
本来チームで共有したほうがいいこと(チームでの働き方、改善提案、気になっていること)も1on1のみで話すようになりチームとしての学習プロセスが機能しない
カジュアルに1on1が設定されていきカレンダーが1on1の予定で埋め尽くされてゆく
なんでも1on1として扱うことで意味が希薄化し多くのメンバーにとって優先度の低い予定として認識される
なかでも2と3は以下のような相乗効果を生みやすいので要注意です。
予定を入れようとした相手の予定が1on1で埋め尽くされている
1on1ならいいだろう、と1on1の時間に割り込みで別の予定を入れる
その様子を観測した人たちが「この組織では1on1の優先度は低いんだ」と学習してしまう
「1on1はスキップされがち」と言われたときに「よくあることだよね」と感じたのなら、すでに1on1が機能不全を起こしている可能性があります。
その1on1はなんのため?
仕事をするときにはそれの目的を明らかにする。開発ならそのプロダクトで生み出したい価値を定義する。ミーティングであればアジェンダを定めておく。文字にすると当たり前ですが、日常的なルーティンになると目的を確認するタイミングがなかなかなく見失いやすいものです。
そもそもその1on1はなんのためにあるか。なぜその頻度でやっているのか。これは常に問いかけ続ける価値のある問いです。
私はチームの開発メンバーとは週次で1on1しています。チームには私より経験豊かなメンバーが複数在籍しているので、1on1は上司が部下の能力を引き出すという意味合いではありません。1対1の関係性だからこそ深く掘り下げられるお互いの思考を開示しあい、信頼関係を高める場になっています。
その目的であれば、ある程度相互理解が進むと話すことが減っていく可能性があります。「大半が雑談になったり、ガンダムの話ばかりになったら隔週にしましょう」というチェックポイントを設けています。幸いまだそのときは訪れていません。信頼関係は構築されてきていますが、そうすると信頼関係に基づいて話したいことがたくさんでてきており、まだまだしばらくはガンダムについて話す余裕はなさそうです。
その1on1はなんのため?常に問いかけてみましょう。