【全文無料】イエロー・マネー ~「調査報道」初心者が追う、国民民主党の巨額献金元の正体~
※この記事は、無料で全部読めます。
はじめに
この記事は、政府や民間主体により公開された情報をもとに、初心者が「調査報道」に挑んだ結果を共有するものです。
お示しする情報は、正確を期していますが、誤りなどがありましたらご指摘をお願いいたします。
なお、本記事は、NHK岡山放送局記者の 安井 俊樹 記者が執筆された『政治資⾦の不正を公開情報から解き明かしてみませんか?あなたもできる調査報道マニュアル』(現在は掲載終了)を参考にさせていただきました。
お詫び(2025年10月25日 追記)
本記事に添付した相関図に一部誤りがありました。
訂正前の相関図では、rYojibaba社と「首都圏青年ユニオン」が連携しているように表現されておりましたが、正しくは、rYojibaba社と「首都圏青年ユニオン連合会」の間で連携がなされている疑いがある、ということでした。
現在、当該図は、既に正しい表現のものに差替えております。
心よりお詫び申し上げ、訂正させていただきます。
「調査報道」の端緒
今をときめく中規模政党、国民民主党
Twitter(現X)のタイムラインを眺めていたら、今話題の政党に関する話題に目が留まった。
その政党の名は、国民民主党。
今年の参議院選挙では、改選議席の4倍である16議席を獲得して「躍進」したと報じられる、今をときめく野党第3党である。特に、同党の 玉木 雄一郎 代表は、次の国会の首班指名において野党統一候補に名前を挙げられ、当人は断固拒否するなど、メディアもその一挙手一投足に注目する、時の人である。
そして、今回、私が注目したのは、国民民主党の『政治資金収支報告書』である。
冒頭に挙げた『あなたもできる調査報道マニュアル』で紹介されていた、“Follow the money.”(カネの流れを追え)の言葉の通り、同党の政治資金を追ってみることとした。
謎の大口献金企業
さて、私が、同党の令和5年度分の『政治資金収支報告書』に着目したのは、気になる記載事項があったからである。
収支報告書には、政治資金パーティーの対価に係る収入の内訳が記載されているのだが、国民民主党は、いわゆる民間労働組合(旧同盟系組合)の支持を受けているため、大口の献金者は、労働組合やその連合体である。
一方で、個人や民間企業と思わしき献金者も、数は多くないが散見される。
ただ、その中で、全国規模の産別組合と並ぶ、100万円を献金した企業がある。

「株式会社GHRT」。
寡聞ながら、このような企業は全く聞いたことがない。福岡市に本社を置くようだが、社名からして何の事業をやっているかも検討もつかない。
気になる。
というわけで、謎の企業、「株式会社GHRT」(以下「GHRT社」)について、初心者ながら調査してみることとした。
公開情報から、謎の献金企業に迫る!!
調査開始!
手始めに、公表された政治資金収支報告書の内容を検索することができる、「政治資金収支報告書データベース」というWebサイトで、この会社が今までに政治献金を行ってきたか、を調べることとしよう。

このデータベースで調べると、GHRT社は、検索できる範囲で、国民民主党本部主催の政治資金パーティーへの献金1回のみを行っていることが分かる。
いよいよ、この会社の素性が気になってくる。
そこで、まずは、誰でも思いつく調べ方。
とりあえず会社名でググる。

GHRT社の公式HPなどは、特にないようで、事業の内容などはさっぱりわからない。
住所の“ズレ”
検索結果の一番上には、経済産業省が、基本的な企業のプロフィールを掲載している、「gBizINFO」のページがあった。
gBizINFOのページには、法人番号、法人名、本店所在地といった法人基本情報が載っている。
これっぽっちの情報では、『政治資金収支報告書』に記載された情報から何の進展もないように思えるかもしれない。

ただ、ここで目を引くのが本店所在地の住所である。なんと、『政治資金収支報告書』に書かれた団体の主たる事務所の所在地の住所と、番地の「号」がズレている。
法人基本情報の所在地は「福岡県福岡市南区大橋4丁目3番5号」であるのに対し、収支報告書では、「福岡県福岡市南区大橋4丁目3番1号」となっているのだ。
ただの書き間違いとも思うかもしれないが、念のため、調べてみることとする。

Googleマップで住所を入れると、法人基本情報の所在地には、年季の入った雑居ビルがあった。

ただ、失礼ながら、政治資金パーティーで100万円をポンと出せるような会社が入っているような佇まいとはいえない。
(ちなみに、このビルの正面には、なぜか今回の献金とは関係のない、立憲民主党の 稲富 修二 代議士のポスターが貼ってある。)

他方で、収支報告書に記載された住所には……整骨院が立地していた。
そして、この「堺整骨院」の概観からも、会社の事務所が置かれている様子は見受けられない。

ただ、Googleストリートビューに切り替えると、あのウサギがいた。この接骨院は、国民民主党福岡県連の代表も務める、大田 京子 県議会議員の後援会の連絡所となっているようである。

つまり、国民民主党の拠点としての機能は、どちらかというと、法人登記がなされたビルではなく、その3軒北隣に立地する整骨院側にあるようだった。勿論、(政治資金規正法の細かい規定はよく分からないが)登記上の事務所と実際の活動の拠点が異なる、ということはあるかもしれないし、単に両方とも事務所として使っている可能性はあるため、この“ズレ”が直ちに疑惑を生むものとはいえないだろう。

しかし、謎の企業・GHRT社を追うに当たって、この接骨院はキーとなる可能性がある。というのも、『政治資金収支報告書』に記載されたGHRT社の代表者は 堺 正孝 氏であり、関係が窺われるのだ。
手がかりは“整骨院”
さて、例のごとく「堺整骨院」の名前でググると、公式HPが出てきた。

公式HPによると、「堺整骨院グループ」は、収支報告書に記載された住所に立地する本院を中心に、佐賀、熊本、長崎、沖縄に26店舗(会社概要ページに記載)を展開する、九州を営業範囲とする大規模なグループ企業とのことだった。

そして、堺整骨院が「後援会連絡所」となっていた 大田 県議も、当選前は鍼灸師として働いていたようである。

また、収支報告書上の名義人であった堺 正孝 氏は、堺整骨院グループの創設者とのことだった。
2つの運営会社
堺整骨院のHPに戻ると、気になる情報があった。

会社概要を見ると、「堺整骨院グループ」の運営会社の名称が、「株式会社堺整骨院西」となっている。
突然現れる「西」。ということは「東」や「北」もあるのか。もしくは「西」が付かないものもあるのか。
「西」の存在が気になって、夜しか眠れなくなった私は、法人基本情報の変更履歴を確認することができる国税庁の「法人番号公表サイト」で、「株式会社堺整骨院」と検索した。
このWebサイトでは、各法人に対応する「法人番号」の指定日から、その法人の設立登記の時期を調べることができる。ただし、2015年10月5日以前から存続する企業には、同日に一括で指定されている。
また、法人番号の指定日を含む変更履歴は、原則としてその変更の登記があった日から原則2営業日後に反映されるため、数日程度のタイムラグがあることだけご理解いただきたい。

そうすると、「堺整骨院」が2つ出てきた。
正確に言えば、「株式会社堺整骨院」(以下「堺整骨院社」)と「株式会社堺整骨院西」(以下「堺整骨院西社」)が存在するようである。
加えて、注目すべき点が2つ。


まず、両社の所在地が異なる。堺整骨院西社は、堺整骨院の本院と同じだが、堺整骨院社の所在地は、GHRT社の登記上の本社所在地と同じである。
さらに、堺整骨院社の法人登記は閉鎖されており、法人格が消滅している。

事態が込み入ってきた。
少なくとも、2社の名称や住所から、両者に関係があることは明らかである。とはいえ、単にこの2社の間で事業承継なりがあった、という可能性も、現時点では捨てきれない。
それでは、GHRT社との関係は ─── 真相に迫るべく、より詳しく法人情報を見てみることとした。
次々と現れる企業
さて、問題の堺整骨院社の法人情報の履歴を見ると……

また知らない会社が!!!!!!
なんと、堺整骨院社は、「株式会社GLOBAL HR TECHNOLOGY」(以下「GLO-TECH社」)に吸収合併されていたのだ。
何社出てくるんだ……(ちなみに、まだ出てきます)

そういえば、先ほどの検索結果にも、GLO-TECH社があった!!
てか、「株式会社GLOBAL HR TECHNOLOGY」って「株式会社GHRT」と関係あるのがバレバレじゃないか!!
なお、堺整骨院社が吸収合併により解散した際の決算データが官報に記載されていた。

決算公告を見ると、資本金 100万円に対し、当期純損失は40万円となっており、堺整骨院社は、間もなく債務超過に陥ることが予想される状態であったと思われる。
つまり、GLO-TECH社による堺整骨院社の吸収合併は、事実上の救済合併であったといえる。
そして、GLO-TECH社の登記情報もまた、気になる点がある。


先ほどの決算公告からすれば、相応の規模がある企業のように見える。
しかし、GLO-TECH社の本社所在地を、Googleマップで確認すると、何の変哲もない普通のアパートであった。
さらに、法人基本情報の変更履歴を見てみよう。

まず、GLO-TECH社は2019年7月に東京都港区三田で設立され、在京のまま福岡市の堺整骨院社を救済合併した。その後、2021年2月に同じ新宿区西新宿に移転した後、2023年5月に一点、はるばる鹿児島市まで再移転している。

そして、移転前の本社所在地を確認すると、麻布十番駅徒歩3分の立派なタワーマンションだった。
都内一等地のタワーマンションに本拠を構えながら、福岡の地場企業を救済合併。その後、突然に鹿児島市のアパートの一室に移転。何か事情があったのかと勘ぐってしまう。
さて、ここまでの内容を整理しよう。
国民民主党の政治資金パーティーに献金した株式会社GHRT(GHRT社)は、福岡県福岡市に本社を置く企業だが、登記以外の情報がほとんど出てこない。
『政治資金収支報告書』に記載されたGHRT社の本社所在地には堺整骨院が立地しており、国民民主党の県議と関係が深い。
「堺整骨院」を冠する株式会社は今まで2社存在し、そのうち株式会社堺整骨院西(堺整骨院西社)は存続しているが、株式会社堺整骨院(堺整骨院社)は、株式会社GLOBAL HR TECHNOLOGY(GLO-TECH社)に救済合併された。
株式会社GLOBAL HR TECHNOLOGYは、東京都内で設立されたが、株式会社堺整骨院を吸収合併した後に、最終的に、本社所在地を鹿児島市のアパートに移転した。
まだ現れる企業、そしてもう一人のキーパーソン
現れるもう一つの企業
さて、いつものごとく「株式会社GLOBAL HR TECHNOLOGY」でググってみた。

しかし、出てくるのは簡単な情報ばかり。
今度こそ手詰まりか……
ただ、ここで引き下がるのもつまらないので、ヒットしたページを順にみていくこととした。
そこで、開いたのが、企業情報を掲載するサイトの一つである、NIKKEI COMPASSのページである。

GLO-TECH社の公式HP、発見!!!!
それも、ドメインは「ghrt.co.jp」ということで、GHRT社との関係性を推認させる度合いが強まった。
では、アクセスしてみよう!!!

……何やら、意識高い系ベンチャーみたいな公式HPに行き着いた。

ただ、よくみると、左上の会社名がまた違っている。「rYojbaba」??
よく見ると、URLも「ryojbaba.co.jp」に変わっており、どうやらリダイレクトされていた模様。
ここで、重要な情報が2つ現れてくる。
まず、トップページの下部に、会社の概要が記載されている。

会社名は、「株式会社rYojbaba」(以下「rYojbaba社」)とある。
労務や経営に関するコンサルティングを行っているらしい。
そして驚くべきはその所在地。「福岡県福岡市南区大橋4丁目3番1号」、つまり、堺整骨院西社(=堺整骨院の本院)と同じである。
福岡発の「ワールドワイド企業」
rYojbaba社の公式HPは、モダンであり、ところによっては英語表記となっている。


極めつけは、rYojbaba社の「Investor」のページ。
「Stock Information」のところから、株価チャートが見られるらしい。あれ、上場企業なのか……?ん……?

驚くなかれ、同社は、アメリカの株式市場であるNASDAQ上場企業($RYOJ)とのことであった。
話がデカくなってきた。
rYojbaba社の現在の株価チャートは下記の通り。
また、「rYojbaba社」で調べてみると、こんな記事を見つけた。

なんと、rYojbaba社は、堺整骨院グループの「母体」とまで公言している。つまり、rYojbaba社と 堺 氏 は、かなり密接な関係にあることが分かる。
はて、いくら店舗数が多いとはいえ、今も地場の整骨院の建物に本社を構える会社が、どうやって財務状況や内部統制システムの審査が厳しいNASDAQに上場できたのかは謎である。
もう一人のキーパーソン
さて、rYojbaba社のCEOには、新たな人物の名前が記載されていた。

馬塲 亮治 氏。
彼はいったいどんな人物なのか。
「馬塲 亮治」でググると、馬塲氏本人またはその関係者が作成したと思わしき、本人の氏名を冠したHPが出てくる。
このHPによると、馬塲 氏の人物像が浮かび上がってくる。

馬塲 氏は、元警察官であり、そこから社会保険労務士や行政書士の資格をとって事務所を立ち上げるとともに、労務全般にわたるコンサルタント業務を展開してきたという。

馬塲 氏には、よほど手腕があるのだろう。
労務コンサルタントとして月額30万円の高額な顧問契約を締結したり、12日間で講演料1億円程度を稼いだ、という。
また、士業の傍ら、rYojbaba社をはじめとする、多数の企業の経営を行っているようである。
そして私は、本人の詳しい経歴を見て、目を疑った。

馬塲 氏は、GLO-TECH社の現任の代表取締役であり、かつ、GHRT社の元代表取締役でもあったというのだ。
なお、このプロフィールは、馬塲 氏が取締役を務める会社「株式会社ラストワンマイル」(この企業自体は今回の件とは無関係と思われる)が、金融商品取引法に基づいて政府に提出した『有価証券報告書 - 第12期』にも同じ記載があるため、正確性が担保されたとみなすこととする。

ここで、改めて、GHRT社の登記情報を法人番号公表サイトと照合すると……

同社の法人番号の指定は2021年5月になされているから、馬塲 氏は、同社の設立時から代表取締役を務めていたことになる。
ちなみに、馬塲 氏の経歴によれば、「グローバルHRテクノロジー株式会社」(以下「グロテク社」)という、聞き覚えしかない名前の別会社の名前もある。
加えて、「社会保険労務士法人グローバルコンテンツジャパン」(以下「社労法人GCJ」)(現在は解散済み)、「行政書士法人グローバルコンテンツジャパン」(以下「行書法人GCJ」)といった士業法人の設立の実績もあるという。
とにかく「グローバル」という語に強いこだわりを感じる。
「法人交換スキーム」
また、調査を進めていくうちに、地元の経済メディアである『NetIB-News』の 東城 洋平 記者が、堺 正孝 氏と、その弟である 堺 研二 氏の関係性について報じた連載を発見した。
関連記事のリストを以下に示す。
これらの記事によると、堺兄弟は、正孝 氏が「堺整骨院グループ」を、研二 氏が「堺整形外科医院」を中心とする医療法人を、それぞれ経営しており、両者の連携により西洋医学と東洋医学とを融合させたケアを実現し、「医療界のゴールデンコンビ」と言われていた。
そして、堺兄弟は、2007年から2009年にかけて、経営基盤の強化のため両グループの統合を行ったものの、正孝 氏とその知人女性が経営に参画させたコンサルタントが推進した人事制度改革を巡って激しく対立し、2018年6月頃、正孝 氏側がグループから完全に離脱した、とのことである。
なお、堺兄弟の対立の原因には、正孝 氏が新たに設立した企業「株式会社堺エンタープライズ」(以下「堺EP社」)に絡み、資金の流出があった、とも報じられている。
ここで、rYojbaba社の法人情報も見てみよう。

ビンゴ!
堺 正孝 が設立した堺EP社は、2度の社名変更を経て、馬塲 氏が代表取締役を務める、rYojbaba社になっていた。
また、先ほど示した堺接骨院社の決算公告にも、設立後まもないGLO-TECH社の代表取締役として馬塲 氏の氏名がある。

3つの企業を介した堺 氏と 馬塲 氏のつながりを整理すると、次の通りである。
馬塲 氏が代表取締役を務める株式会社GLOBAL HR TECHNOLOGY(GLO-TECH社)は、堺 氏が代表取締役を務めていた株式会社堺整骨院(堺整骨院社)を救済合併している。
馬塲 氏が設立したGHRT社は、同氏の代表取締役の退任後に、堺 氏が入れ替わって代表取締役に着任している。
堺 氏が設立した株式会社堺エンタープライズ社を前身とするrYojbaba社は、現在、馬塲 氏が代表取締役を務めている。
要するに、堺 氏と馬塲 氏の間で、吸収合併や代表取締役の交代を通じた、法人の交換スキームが構築されていた、ということである。
「ワールドワイド企業」経営者の素性
NASDAQ上場企業に問われる遵法意識
では、多数の法人に関与する 馬塲 氏の事業とは、いったいどのようなものなのか。
彼の法人群の中核と思われる、rYojbaba社の公式サイトには、同社が関与するプロジェクトが列挙されている。

ただ、これらのプロジェクトの中には、その内容に眉を顰めざるを得ないものがある。

例えば、同社のプロジェクト「用心棒」もその一つである。
名前からして、いかがなものと思わなくもないが。


前掲の 馬塲 氏の経歴には、鹿児島県警の警察官としての在職経験が含まれていることからすると、 馬塲 氏自身または同じ警察OBの協力者が有する経験や威圧を用いた事件の解決、ということなのだろうが、……これ以上何も言うまい。
このように、rYojbaba社の関与するプロジェクトには、弁護士法などの法令に抵触すると思わざるを得ないものが複数含まれている。
ここで、警察OBにして士業者である人物が経営するNASDAQ上場企業に問われているのは、遵法意識、コンプライアンスかもしれない。
企業の次は、労働組合?
また、rYojbaba社のプロジェクトの一つに「FREE NEW UNION」というサービスが挙げられている。

「FREE NEW UNION」は、個人の労働者が、労働問題について企業と交渉をするために必要な書式を無料で提供するWEBサービス、とのことだが、FAQによると、サービスの利用に際しては、労働組合への加入を求められる、という。

企業のビジネスとして、労働組合と絡む、というのはあまり聞いたことがない。むしろ、労働組合は使用者である企業と対決し、労働者の権利保護のために活動する団体ではないか。

さて、そんな疑問を胸に抱きながらスクロールすると、関連リンクが表示される。
このリンクの一番上には、「Global Union」の文字。
先ほどの「FREE NEW UNION」と同じく、労働組合を表す“Union”が含まれており、とても気になる。

リンクにアクセスすると、なんだか壮大な話になってきた。

スクロールしていくと、「Global Union」の活動の紹介が出てきた。
だが、「法定『超』労働組合」や「使用委員会」など、聞きなれぬワードに溢れていた。
Webサイトを根気強く読み解いていくと、「Global Union」とは、Free New Unionを含む、馬塲 氏が関係する“労働組合”の統括組織のようだった。
ただ、その実態は、他の労働組合とはかけ離れている。

まず、Global Unionは、普通の労働組合なら手始めに行う団体交渉や、不当労働行為に対する労働委員会への救済申立てを行わない、という特異な戦術を採用しているようである。


また、中でも意味不明な存在が、「使用委員会」である。
民間団体に過ぎないGlobal Unionが、企業と労働組合の間に立って裁定を行う、と謳っているのだ。
これには、全く度肝を抜かれた。
なお、労働委員会は、労働組合法及び労働関係調整法、地方自治法などの法令に基づき設置される行政委員会であり、使用者委員・労働者委員・公益委員により構成される公的な裁定機関である。
このように、Global Unionはかなり怪しい組織である。その一方で、この団体には、複数の加盟団体が掲載されている。

そして、その中でも、トップページで複数の記事のリンクが貼られていた、「労働者のミカタ」というページにアクセスしてみた。

どうやら、「労働者のミカタ」というWebサイトは、合同労働組合(企業別でなく、横断的に組織される労働組合)を標榜する、「首都圏青年ユニオン連合会」(以下「ユニオン連合会」)が運営しているようだ。
しかし、この団体、実に怪しい団体であった。
このWebサイトには、ユニオン連合会に関する「よくある質問」のページがあったのだが、はっきりいって、何を言っているかわからない。

特に、「UAゼンセンから、すべての組合員が脱退し、法定超労働組合である当組合に加入しました」との記述に、目を疑った。
当然ながら、いわずと知れた国内最大規模の産別、「全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟」(通称:UAゼンセン)から、全組合員が脱退し、無名の団体に大移動したというのは全くの事実無根、荒唐無稽なデマである。

万が一それが事実であれば、日本の労働界だけでなく、政界や経済界に、ゲルマン民族大移動並みの大激震をもたらしているはずである。
なお、UAゼンセンは、この記事で話題としている国民民主党の主な支持母体の一つであり、組織内議員を複数人送り込んでいる。そこで大変動が起きたのだとすれば、悠長に献金などしている場合ではないと思われる。
労働組合の資格が問われた2つの事件
さて、荒唐無稽なデマを書き立てるユニオン連合会であるが、この団体について詳しく調べると、2つの事件に行き着く。
「首都圏青年ユニオン執行委員長ほか事件」(馬塲亮治特定社会保険労務士事件)と「グランティア事件」である。
まず、「首都圏青年ユニオン執行委員長ほか事件」(東京地判令和2年11月13日労判1246号64頁)は、2015年頃、飲食店事業を営むP社と、従業員らの団体交渉において起きた事件である。(光陽国際特許法律事務所の 中井 英登 弁護士が本事件についてまとめているので、そちらを参照。)
同事件の判決によると、P社の経営する飲食店の従業員らは、賃金未払いに耐えかねて退職を望んだが、店長は、勤務中の不正行為等を理由に自主退社ではなくなると主張したため、合同労働組合である東京公務公共一般労働組合青年一般支部(通称:首都圏青年ユニオン)に加入して、同労組の幹部とともにP分社との団体交渉に臨んだ。
これに対し、グローバルコンテンツジャパン社労士事務所(社労法人GCJの前身)を経営しており、P社の執行役員に迎えられていた 馬塲 氏も団体交渉に出席したが、従業員や首都圏青年ユニオンの幹部の間でトラブルが発生した。
最終的には、P社と従業員の間で合意書が取り結ばれ、団体交渉が終了した後で、馬塲 氏は、団体交渉において威迫や誹謗中傷などを行ったとして、首都圏青年ユニオンの幹部らを提訴したが、敗訴した。
そして、同判決文中では、馬塲 氏は、ユニオン連合会を設立するとともに、商標登録を出願して却下された、と認定されている。
すなわち、P社の交渉担当者であった馬塲 氏は、首都圏青年ユニオンに対抗するために、ユニオン連合会を立ち上げたことになる。
また、もう一つの「グランティア事件」は、ユニオン連合会のFAQでも言及があるが、この事件で、東京都労働委員会が、ユニオン連合会に対する命令で認定した事実関係と全く異なる。
(詳細は省くが)同事件において、東京都労働委員会は、ユニオン連合会(決定書では「X1組合」)の救済申立てに対し、同組合は労働組合法の規定に適合しないとして、却下命令を下している。
すなわち、ユニオン連合会は適法な労働組合としての資格を有さないものと認定されたのである。
それにもかかわらず、ユニオン連合会は、「労働委員会史上初めて、その形式基準を斬新に超えている法定超労働組合であることの認定を受けることができました。」といった、牽強付会としか思えない主張を披露している。
「黄色組合」ビジネス
労働運動の業界用語には、「黄色組合」(yellow union)という言葉がある。
「黄色組合」は、より一般的には「御用組合」というが、使用者が実権を握る労働組合のことを指す。
この定義からすると、馬塲 氏が「首都圏青年ユニオン執行委員長ほか事件」において、社会保険労務士にして使用者側の執行役員の立場にありながら、正規の労働組合である首都圏青年ユニオンに対抗するために立ち上げたという経緯を持ち、労働組合法上の資格を持たず、救済申立てなどの正当な救済手段を講じない(または、講じることができない)ユニオン連合会は、まさしく「黄色組合」といえるかもしれない。

なお、ユニオン連合会などの団体の元締めであるGlobal Unionにも、馬塲 氏が「外部メンター」に就任している。
そして、Global Unionは、香港に本部を置き、カンボジアにも支部を置くなど、あろうことか、海外への「黄色組合」ビジネスモデルを輸出しようとしている。

これまで述べたことからみるに、UAゼンセンを含む労働組合から支持を受ける国民民主党は、自らのビジネスの手段として「黄色組合」を結成し、指導している疑いのある人物に深く関係する企業から献金を受けていた、ということになるのではないかか。
残された謎
謎の法人群に“住所”から迫る
ここまで述べた通り、国民民主党に献金を行ったGHRT社を手掛かりに、会社や労働組合、士業法人などから構成される「堺・馬塲法人群」の存在が明らかになってきた。しかし、結局のところ、公開情報からは、一部の法人の活動の実態が掴めていない。
そこで、ここからは各法人の所在地にスポットを当てることとする。

手始めに、GLO-TECH社と見分けがつきにくいグロテク社は、現在、鹿児島市の鹿児島中央駅近くに本社を構えている。

ただ、グロテク社は、つい最近まではGLO-TECH社と同じタワーマンションを拠点としていたが、そこから一度、堺整骨院の本院に移り、今年8月になって鹿児島市中心部に再移転した。
馬塲 氏の事業の軸足が、東京から福岡に移り、最近では若い頃に警察官を務めた鹿児島に回帰してきている、そんな印象を受ける動きである。

また、馬塲 氏の行政書士としての業務の拠点であろう、行書法人GCJは、GLO-TECH社の入居するアパートの隣の建物に入居していた。
ちなみに、日本行政書士会連合会が提供する行政書士の検索サイトでも、馬塲 氏の行政書士としての情報を見つけることができる。
そこでは、馬塲 氏は、鹿児島県行政書士会に所属しており、GLO-TECH社が入る鹿児島市のアパートに、個人の事務所を置いていることになっている。
そうすると、やはり、馬塲 氏の行政書士としての業務は、鹿児島市を中心に展開されている、といえる。
一方、ユニオン連合会は、「首都圏」と名前に入っているが、GHRT社と同じく、例の雑居ビルを所在地としている。

ただ、ユニオン連合会も、元はGLO-TECH社と同じ東京のタワーマンションに事務所を構えていたが、福岡市の博多駅近くに移転したのち、例の雑居ビルに落ち着いている。
こちらは、ユニオン連合会とrYojbaba社の事業との関連性を重視した結果だろうか。
これまで見てきた法人の所在地と法人番号の指定日、代表者の氏名を分かる範囲でまとめたのが、次の表である。

ここで見えてくるのが、「堺・馬塲法人群」には、福岡市で設立された「福岡系」(青色網掛け)と、東京で設立され鹿児島に移転してきたか、鹿児島で設立された「東京・鹿児島系」(黄色網掛け)の2系統があるように思える。
まず、福岡系の法人は、堺 氏が設立に関与した企業を、 馬塲 氏が引き取ったものであり、実質的には、堺 氏と 馬塲 氏の共同事業体という側面が見受けられる。
一方で、東京・鹿児島系の法人は、行政書士事務所のほか、“グローバル”という単語を冠し、馬塲 氏が完全なイニシアティブをとっている会社が含まれる。そして、全体的に、東京・鹿児島系の会社の方が、事業の実態がはっきりしないものが多い。
また、唯一の例外が、 馬塲 氏がはじめから福岡市で設立し、堺 氏 が引き継いだ、GHRT社(緑色網掛け)である。
同社は、名称からすれば東京・鹿児島系だが、堺 氏が代表取締役となっている点からすると、他の法人とは異なる特別な目的があって設立されたように思えるのは、邪推であろうか。
最大の疑問:GHRT社の正体
上記の通り、GHRT社の特異性は分かったが、それではGHRT社の正体は何なのか。未だに謎は解けていない。
今度は手法を変えて、現実の住所だけでなく、インターネット上の住所である、ドメインからのアプローチを試みる。
ドメインサーチというサイトで、「GHTR」の文字列を含む、「NIKKEI COMPASS」において、GLO-TECH社のものとされていたドメイン(ghrt.co.jp)のWHOIS情報(ドメイン所有者に関する情報)を調べた。

WHOIS情報によると、「ghrt.co.jp」の取得者は、GLO-TECH社となっている。
他方で、ドメインの取得の時期は、同社の設立から2年経った、2021年1月12日となっており、タイムラグが生じている。
また、インターネット上のWebサイトのアーカイブを保存している「Wayback Machine」を用いて、「https://ghrt.co.jp」の過去の状態を確認してみよう。

そうすると、今度は、2022年9月時点のGLO-TECH社のものと思わしきWebサイトが表示された。
保存されていたのはこのトップページだけであり、同社の活動の詳細は確認できなかったが、同時点において、コンサルタント企業としてのGLO-TECH社が存在しており、「GHRT」はその略称であったことが推察できる。
これらの事情を総合すると、他社の略称を会社名とし、その会社名のドメインは当該企業が使用しており、また、所在地のビルも閑散としているGHRT社は、そもそも実体のない企業、ペーパーカンパニーである、との疑いが生じるのではないか。
そして、現時点で最大の疑問は、堺 氏はなぜ、わざわざGHRT社から献金しなければならなかったのか、ということである。
堺氏は、このような実体の怪しい企業ではなく、堺 氏の個人名義で献金すればよかったのではないか。ちなみに、政治資金規正法では、政治資金パーティーの対価としての献金は、個人・企業ともに150万円が上限となっている(同法22条の8第3項)から、献金できる額に差異はない。
なお、仮にGHRT社がペーパーカンパニーであった場合は、「本人の名義以外の名義」による献金(同法22条の6第1項)として政治資金規正法に違反する可能性も否定できないことになる。
残されたもう一つの疑問:国民民主党とキーパーソンたちの接点
もう一つの疑問は、2人のキーパーソンが国民民主党本部に献金をした動機である。
ここで手がかりになるのが、『NetIB-News』 東城 記者の別の記事である。
この記事は、堺 氏 が、2014年、15年と続けて、ある女性政治家の資金管理団体に、政治資金規正法に定める上限目一杯の150万円を寄附した、と報じるものである。
このA氏は当該記事で伏せられているが、これまでの経緯から察するに、大田 県議を思い浮かべるのが自然であろう。
では、大田県議の資金管理団体である「大田京子後援会」の『政治資金収支報告書』(令和5年分)を確認する。
……しかし、GHRT社や 堺 氏に関係する献金は確認できなかった。
また、国民民主党本部の『政治資金収支報告書』(令和4年度版)を確認しても、少なくとも書類上は、大田 県議の周辺の人物からの献金はなかった。
堺 氏が数年前まで熱心に支援していた 大田 県議への献金は行わず、2024年になって突然、党本体が主催する政治資金パーティーのみに献金を行ったのはなぜなのか。
とにかく、献金の動機については、まだまだ謎は深まるばかりである。
ただ、兄弟仲違いをしてもなお、事業の拡大や政治活動に勤しむ整骨院グループ創業者と、「黄色組合」を中心としたビジネスを世界規模で展開する労務コンサルタント兼経営者、この「野心」に溢れる2人が、これまた「野心」に溢れる政党にシンパシーを感じたのだとしたら、理解できなくもない、ということだろうか。
その一方で、コンプライアンスの問題を多く抱える 馬塲 氏の関与が疑われ得る政治献金に対し、疑義を呈する者は周囲にいなかったのであろうか。
そして、本来その役割を期待されていたのは、堺整骨院で6年程度の勤務経験があり、堺兄弟の対立から 馬塲 氏が堺整骨院を舞台に繰り広げるビジネスの一片を把握できる立場にもあった、現在は国民民主党福岡県連代表を務める 大田 県議その人ではなかっただろうか。
しかしながら、大田 県議も、必ずしもクリーンな政治家とは断定し切れない。
福岡市を拠点とし、鹿児島県警の不祥事などのスクープで名を馳せる、調査報道専門のニュースサイト『HUNTER』によると、大田 県議には、刑事期限切れのポスターや証票のない看板の使用といった選挙違反や、政治資金を夫の経営する会社の事務所費に流用していたという疑惑が取りざたされている。
謎は深まるばかりであるが、手元の資料から分かる部分はひとまずこの当たりで、今回の調査は終了とさせていただく。
おわりに
今回の記事で出てきた主な人物や法人を相関図に表すと、下記の図のようになります。(複雑だったのでかなり見づらくなりました。)

※ お詫び(2025年10月25日 追記)(再掲)
本記事に添付した相関図に一部誤りがありました。
訂正前の相関図では、rYojibaba社と「首都圏青年ユニオン」が連携しているように表現されておりましたが、正しくは、rYojibaba社と「首都圏青年ユニオン連合会」の間で連携がなされている疑いがある、ということでした。
現在、当該図は、既に正しい表現のものに差替えております。
心よりお詫び申し上げ、訂正させていただきます。
また、この記事で紹介したできごとを、分かる範囲で時系列にまとめてみました。

なお、年表は、堺 氏に関係する事柄は黄色網掛け、馬塲 氏に関係する事柄は青色網掛け、GHRT社に関する事項は緑色網掛け、大田 議員に関係する事柄はピンク色網掛けで、それぞれ色分けしました。
この記事では、(一部はフルオープンではありませんが)公開情報に基づき、国民民主党に献金をした企業とその関係者の、ベールに包まれた姿を垣間見ることができました。
“Follow the money.”(カネの流れを追え)の言葉通りとはいかず、むしろ法人情報に頼った感じではありますが、一応「調査報道」っぽい仕上がりにはなったんじゃないかと思います。
なお、ここまで収集した情報については、現地での取材や調査を行っていない「こたつ記事」ですから、手に届く資料の範囲という限界があります。ただ、限られた手段でもかなり興味深い結果を得ることができました。
もし、これ以上の情報を期待される方は、ご自分でお調べいただくというのも、楽しいのではないか、と思っております。
最後に、ここまで長ったらしい駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
また、記事を参考にさせていただきいた 『NetIB-News』 東城 記者、『HUNTER』の記者の皆様、また、NHK岡山放送局記者の 安井 記者にも感謝申し上げます。
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