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将棋史上最も重要なマンガ5選+α

「●●史上最も重要なマンガ●●選」というお題が「はてな匿名ダイアリー」で流行っている。読んでいて納得させられるセレクトが多い。
週刊少年ジャンプ史上最も重要なマンガ20選 
週刊ビッグコミックスピリッツ史上最も重要なマンガ5選
週刊ヤングマガジン史上、最重要な漫画10選 
月刊アフタヌーン史上、最重要な漫画10選 
月刊コロコロコミック史上、最も重要な漫画10選 
漫画アクション史上、最も重要な漫画10選
週刊少年サンデー史上、最も重要なマンガ10選
モーニング史上最も重要なマンガ10選

私は人並み程度にしかマンガを読まないが、得意ジャンルがひとつある。将棋マンガだ。いつかまとめたいと思っていたオールタイムベストをこの流れに乗ってご紹介したい。

【おことわり】
平成以降は多数の将棋マンガが制作されており、ファン歴の長い私にしても全作品を把握できるわけではない。本稿ではメジャーな作品を中心に、私個人のおすすめを取り混ぜて紹介する。

泣く子も黙るオールタイムベスト5

1.『5五の龍』つのだじろう(1978-1980)

将棋マンガの原点にして頂点。昭和生まれの圧倒的支持を集めるのが本作である。作者つのだじろうは有段者で「5五龍中飛車」など作中の戦法は十分成立する程度に整理されている。私も作中に登場した「ヒラメ」戦法を習得し、だいぶ星を稼がせてもらった。主人公は真剣師(賭け将棋指し)の息子で、やがてプロを目指すことになる。ストーリーの軸は主人公とライバルたちの努力と上達だが、人気エピソードは「飛騨の中飛車」編であろう。「飛騨の中飛車」の異名を持つ真剣師がプロ相手に連勝を重ね、負けた棋士は宣言どおり剃髪するなど屈辱の事態に。主人公の師匠である芹川八段がストッパーとして立つが、この対局で飛騨の中飛車は、離れ駒が一つもない究極の駒組み「飛騨の中飛車合掌造り」を披露する。週刊少年キング連載。なお、連載終了から数年後、当時大学生の小林庸俊氏がアマプロ戦で中田功四段・富岡英作五段・島朗六段・田丸昇七段を連破。A級棋士の南芳一八段に挑むという、まさに飛騨の中飛車をなぞるような出来事が起きた。

2.『オレたち将棋ん族』バトルロイヤル風間(1984-2024)

将棋界「正史」が『将棋年鑑』ならば、将棋界「演義」ともいうべき存在が本作。連載開始の1984年はすなわち昭和59年。週刊少年ジャンプが覇権を握り『ドラゴンボール』の連載が始まった年でもある。そんな時代に将棋界4コマ。渋い・コア・マニアック! 大山康晴が頭突きをかまし、羽生善治は目からビーム、米長邦雄は裸踊り。本作を読めば将棋界の歴史をすべて追体験できる。将棋専門の週刊新聞『週刊将棋』に連載されていたが、同紙の休刊に伴い、月刊誌『将棋世界』の同種連載『月刊バトルロイヤル』のみが残った。こちらは2024年に終了。合わせて40年にわたる長期連載であった。なおタイトルは「オレたちひょうきん族」のもじりだが、いまや知らない人も多いだろう。2005年以降の作品は双峰社から刊行中。連載前半の作品は旧・毎日コミュニケーションズ版の『オレたち将棋ん族』及びマイナビ出版の『天才将棋帝国』を中古で入手しないと読めない。

3.『月下の棋士』能條純一(1993-2001)

迫力顔の登場人物が将棋盤を挟み、常識外の言動を繰り広げる怪作。「滝川幸次」なんて名前の人物にあんなことやこんなことをさせて許されるのか!? 持ち駒を使わない「チェス式将棋」でA級から落ちないってどういうこと!? など数々の疑問を「ピースはまだかって言ってんだよ!」「本日のラッキーカラーはピンク!」といった勢い・オーラ・顔芸で不問に付し、独特の乾いた空気感を演出する本作。信念と情念で挑んでこいや!と叱咤されるような読後感がある。ビッグコミックスピリッツ連載。主演森田剛でドラマ化もされた。作者能條純一は麻雀マンガ『哭きの竜』や『昭和天皇物語』でも有名。私がいた将棋部では「あンた、背中が煤(すす)けてるぜ」を真似する部員がいた。

4.『ハチワンダイバー』柴田ヨクサル(2006-2014)

『月下の棋士』と並ぶ怪作にしてこれまた賛否両論を免れない。冒頭から登場する強キャラ「アキバの受け師」は出張メイドにして真剣師である。このメイドに導かれて様々な強豪と対局を重ねる主人公。やがて地下組織「鬼将会」との対決へ至るというのがあらすじ。下品なギャグも多く、ラスボスの谷生(たにお)も表情に乏しい割にゲスなやり口で困るのだが、対局描写は緊迫感があり、棋譜も練られている。週刊ヤングジャンプ連載。本作もドラマ化された。主演溝端淳平で「アキバの受け師」に仲里依紗。大杉漣・劇団ひとり・京本政樹といった各回の対局相手がなかなかのはまり役である。なお現役棋士である木村一基九段の異名「千駄ヶ谷の受け師」は「アキバの受け師」が元ネタだ。

5.『3月のライオン』羽海野チカ(2007-)

昭和生まれのベストが『5五の龍』なら、平成生まれが選ぶベストは本作で堅い。『ハチミツとクローバー』でデビューした羽海野チカが次の題材として選んだのが将棋界。幼いころに家族を失い孤独を抱えた若手棋士が、三姉妹との出会いと交流を通じて人間的に成長していく物語。主人公が居候していた幸田家の乾いた空気と川本家の温かい空気との対比から始まり、将棋界・学校・川本家に身を置く主人公が少しずつ変化していく。最近なかなか話が進まないのと、連載初期のいいスパイスであった香子を見かけないのが惜しい。人気キャラクターはおそらく島田八段。宗谷名人に挑むシリーズで見せた覚悟は読者の心をぐっとつかんだ。ヤングアニマル連載。本作はアニメ化のほか実写映画化もされている。主演神木隆之介。

いまの読者を魅了する3作品

『将棋の渡辺くん』伊奈めぐみ(2013-)

現役選手を題材とするマンガとしては『がんばれ!!タブチくん!!』『かっとばせ!キヨハラくん』といった野球作品が有名だが、本作の主人公は数多のタイトルを獲得した棋士・渡辺明。作者はその妻であり、天才棋士のちょっとズレた日常生活を描いている。主人公は将棋こそめっぽう強いが常識面にところどころ穴がある。棋士らしく日常生活でも合理的な割り切りを徹底するが、時には強引な言い訳や開き直りにしかかなっておらず、うまく笑いにつながっている。別冊少年マガジンで連載中。同誌の作品としてはかなりロングランの連載となっており、人気の高さをうかがわせる。

『龍と苺』柳本光晴(2020-)

あの週刊少年サンデーで4年も連載が続いている将棋マンガ。それだけで快挙だ。女子中学生藍田苺はスクールカウンセラーからの指導をきっかけに将棋に触れ、その才能をたちまち開花させる。アマ竜王戦からプロ竜王戦へ、そして将棋界の頂点・竜王位を争う七番勝負まで駆け上がっていく。隙のない将棋監修はいまどき当然。本作の見どころは、素っ気ない描写の中に屹立する主人公の闘争心である。若い女性主人公に中高年男性の趣味をあてがえば人気が出るぞ~などという甘っちょろい狙いではない。藍田苺はまさに勝負師。そしていよいよ区切りがついたと思いきや、まさかの展開で始まる第二章。いま読者は混乱の極みである(褒めている)。

『バンオウ』綿引智也(2022-2024)

最初から熱く、最後まで熱く。短い連載期間を一気に駆け抜けた佳作。今をときめく少年ジャンプ+で連載。麒麟の川島もイチオシである。美点は、棋士と将棋の歴史に対する深いリスペクト。主人公月山元は永遠の命を持つヴァンパイア。江戸時代に将棋に出会い、以来300年にわたって将棋にのめりこんでいる。月山は決して将棋の天才ではない。しかし人間の寿命をはるかに超える時間を将棋と共に過ごし、ネット将棋では最強の実力を誇るまでになった。その月山が通っている将棋教室が存続の危機に陥り、月山は資金を稼ぐためにアマ竜王戦、そしてプロ竜王戦へと挑むことになる。その過程では、かつて憧れた大棋士や、これからの将棋界を担う天才たちと盤を挟むことになる。月山は、彼らに対し深い敬意を抱き、真剣勝負できることに大きな喜びをおぼえるのだった。本作は緩みのない展開、そしてマンガとしての見せ方が秀逸。主人公月山が竜王戦を勝ち上がる過程でも、描写するまでもない対局は、ラーメンのCMをかぶせてスキップしてしまう。

また、作中でヴァンパイアハンターのアンナが発したセリフは、将棋ファンにぐっさりと突き刺さった。これこそ2024年将棋界流行語大賞の最有力候補。曰く

AIを見てカンニングしながら講釈を垂れる
これが真の将棋ファンの姿

私の偏愛3作品

『ヤンケの香介』村祭まこと(1989-1995)

主人公は真剣師(真剣師設定ほんと多いな)。明治期以降の将棋界重要人物も登場する。『週刊将棋』で連載され、作中に現れる局面は本格的。次の一手問題で次回に引っ張る形式は本紙ならではといえる。こちらのサイトにあるあらすじが詳しい。

『up・set ぼ~いず』柳葉あきら(1997-2000)

同じく『週刊将棋』の連載で、高校の将棋部を描く作品。連載時のタイトルは英字とひらがなだが、単行本はなぜかカタカナ。将棋マンガの中では珍しく「友情・努力・勝利」の要素がもれなく揃っており、当時の学生将棋プレイヤーには人気が高かった。学生将棋の特徴である団体戦を取り上げており、描写もリアルで熱い。私が好きなシーンは、北川まどかが強敵の佐野に一発入れるため横歩取りの激しい戦いを仕掛けるものの、そちらも研究万全で正面から受け止められ、敗れる流れだ。強敵とはそうでなくては!

『ひらけ駒!』南Q太(2011-2019)

「息子が将棋にはまった」から始まる親子マンガ。日々道場に通い、将棋の本を読みながら寝落ちする小学生の息子。それをクールに見守る母親。息子の熱中ぶりに半ばあきれ、少し喜び、大会で勝つ様子を見れば思わず拳を握る。ちょっと将棋にミーハーになってみたり、誘われるまま初心者大会に出てみたり。自分が戯れている間に息子は成長し、真剣味が増してくる。悔しさをかみしめる姿を見ていると、ただ楽しむだけの将棋には戻れず、無邪気なあの頃にも戻れないことに気づく。それでも彼は、新たに目標と希望というものを手にした。中年以上の人であれば、本作品に流れるしみじみとした喜びに同調することができるだろう。私は自分の少年時代を思い出さずにいられない。1巻の表紙となっている千駄ヶ谷駅ホームの「王将」水飲み場もいまはない。モーニング連載の本編8巻のほかに、WEB連載による続編「ひらけ駒! return」が2巻出ている。なお本作、伝え聞くところによると、わりと実話ベースらしい。

あえて選ぶベスト1

多くの作品を挙げてきたが、私がカバーできていない作品にも多くのファンがいる。『聖―天才・羽生が恐れた男』『リボーンの棋士』『それでも歩は寄せてくる』『盤上のオリオン』などなど。作品リストとしては以下のサイトが見やすい。

それにしても「君のベスト1は何なの?」と問われると本当に迷ってしまう。うーん。無理やりにでも1つ選べと言われたら、やはりこれになってしまうのかなあ……










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