反ワクチン団体が仕掛けるスマホビジネス
いつの間にか社団法人の傘下に入っていた反ワクチン団体
6月の終わり頃、ウォッチャー仲間から「陰謀論界隈で謎のスマホが発売されている」という情報が入った。
この「ノーシープフォン」(これ自体については後述する)について調べていた筆者は、とある反ワクチン団体が思わぬ展開を迎えていたことを知った。いつの間にか、「日本と子どもの未来を考える会」(ニコミ会)が、「一般社団法人ノーシープ」の傘下に入っていたのである。
ニコミ会といえば、新型コロナワクチンや感染対策に反対する世界同日デモの日本開催を行うことで有名な反ワクチン団体で、かつての活動報告もデモが中心だった。
※世界同日デモの発起人はドイツの団体で、ニコミ会はそれに同調して日本版を開催している。
ところが最近では、ノーシープフォンや「チップチェッカー」(後述)の活動が目立つ。これらは一体何なのだろうか。
ノーシープフォンの正体
一般社団法人ノーシープのサイトには、「ノーシープフォンのできるまで」という記事がある。
この目次からも推測できる通り、ノーシープフォンとは特定の製品ではなく、「一般社団法人ノーシープが」カスタムROMをインストールしたスマホやタブレットを指している。カスタムROMとは、主にAOSP(Android Open Source Project)のソースコードから各種の団体・プロジェクトが作り出したOSで、世の中には数多く存在する。
特にGrapheneOSはプライバシーやセキュリティの確保を謳っており、「監視を逃れる」という目的で選ぶこと(GrapheneOSはオープンソースのプロジェクトで、ノーシープが開発しているわけではない)自体は不自然ではない(ただし、実用性を考えれば、結局はGoogleのサービスを使ってしまうことが推測され、どれ程効果があるのかは不明だ)。
カスタムROMのインストールやQ&A掲示板のアカウント提供がこの社団法人のサービスであり、その価格は3万円である。
疑似科学に走るのではなく、テクノロジーで課題を解決しようとする姿勢は他の反ワクチン団体には見られないもので、(GrapheneOS側からすれば不本意だろうが)それ自体には好感が持てる。
しかし、次の「チップチェッカー」はどうだろうか。
チップチェッカーが検出するもの
ノーシープは、「チップチェッカー」なるアプリケーションも提供している。
ここでチェックされるチップとは何か?反ワクチン陰謀論に関心のある方ならすぐに答えが思い浮かぶだろう。
そう、これは新型コロナワクチンと共に注入されてしまったナノチップを検出するためのアプリなのである。
その仕組みについては、「コロナワクチン接種者から発信されるBluetooth信号を、スマホやイヤホンなどから発せられる通常の信号と区別して検出」すると説明されている。
チップチェッカーについては、Twitterを検索すると実際に利用したツイートが投稿されており、一時ウォッチャーの間でも話題になっていた。適当な条件で表示の色分けをしており、(赤がワクチンチップ、黒が通常の機器、緑がCOCOAだという)根拠は全くの不明ではあるが、使ってみての楽しさはありそうだ。
ゴム人間陰謀論における画像の検証と同じく、「検証手段」(それが怪しいものであっても構わない。本物らしく感じられれば良いのである)を実際に使ってみることで、荒唐無稽ながらもある種魅力的な陰謀論の世界が現実に起きている、という実感が得られ、強烈な快楽に結びつくからである。
ニコミ会はチップチェッカーに関する講演会を行っていたが、最近は検出数が激減しているらしく、直近では下火になっているように見受けられる。
ノーシープフォンの先にある壮大な計画
実は、社団法人ノーシープは壮大なビジョンを見据えて設立されている。立ち上げ人のブログに掲載されていた資料に掲載されていたのは、下記のような計画だった。
「真実を広める」活動家が、寄付金に頼らず生活できる(=収入を得られる)仕組みを作って仲間を増やす。すなわち事業で収入を得るということであり、ノーシープフォン事業はその代表である。
支配者に対抗するための、目覚めた者たちの経済圏を作る。既に京都・大阪・兵庫・広島で活動家が事業参入している(業態は飲食店、結婚相談所など)。
日本国憲法を超えた生得権による法論理を整備し、活動の裏付けとする。
憲法の超越まで飛び出す壮大な計画であるが、ビジネスさえうまくいけば、「真実を広める」活動で生きていく(これがつまり、この団体にとっての「好きなことで、生きていく」である)体制を作ることは不可能ではない。果たしてノーシープは、活動家の楽園を実現できるのだろうか。
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