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盛り上がりに欠けた9.28有明集会、運動は「デモバイト」に敗北した

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参加者5万人が目指されていた有明集会

ようやく残暑も弱まりを見せ始めた9月28日朝、涼しい朝の空気を感じながら筆者は臨海副都心の一角、江東区有明へと向かっていた。5,000人規模だった4月の池袋集会、1万人規模だった5月の日比谷集会に続く、主催が5万人規模と意気込む第3次集会・デモが予定されていたためである。
※この集会については黒猫ドラネコさんもレポートを書かれているので、是非ご覧いただきたい。


場所が都心から遠い有明に設定されたのも、主催が投稿している通り、日比谷公園を超える人数を収容できる会場が、東京では有明防災公園くらいしか存在しないためだ。

この日は開場が朝8時、終了が夕方18時と日比谷集会を超える長丁場であり、なるせゆうせい監督(監督作品に『縁の下のイミグレ』『威風堂々~奨学金って言い方やめてもらっていいですか?~』、映画脚本作品に『アクエリアンエイジ』『東京無印女子物語』など)によるドキュメンタリー撮影やキッチンカー、海外反ワクチンインフルエンサーの招聘など企画にも力が入っていた。集会の登壇者リストを記載しておく。

第一部

  • 井上正康:大阪市立大学名誉教授。反マスク・反ワクチン言説を発信する参政党のアドバイザー。今回の集会を主催した「WHOから命をまもる国民運動」共同代表。

  • 林千勝:近現代史研究家。保守系メディアに登場することが多く、反ワクチン活動で知られるRFKジュニアの翻訳書で解説を務めるなど、保守と反ワクチンの両方に親和性が高く、参政党との関係も深い。「2025年、疾病Xによるプランデミックが起こる」と主張している。「WHOから命をまもる国民運動」共同代表。

  • 水島総:日本文化チャンネル桜代表取締役社長、新党くにもり代表

  • 堤未果:ジャーナリスト。著作に『デジタル・ファシズム: 日本の資産と主権が消える』、『ルポ 食が壊れる』など。

  • 川田龍平:立憲民主党所属の参院議員。薬害エイズ事件原告。堤未果氏の配偶者。

  • 山口敬之:ジャーナリスト。元TBSテレビ報道局記者

  • 饗庭浩明:一般社団法人JCU(日本保守連合)議長。幸福実現党初代党首。

  • 原口一博:立憲民主党所属の衆院議員(佐賀1区)。ゆうこく連合代表。

  • 石井希尚:牧師、ミュージシャン。ゴスペルバンド『HEAVENESE』を主宰し、反ワクチン・反マスク派の人々が多く利用するKICK BACK CAFEを経営。

  • 内海聡:Tokyo DD Clinic院長。代替医療界の有名人であり、「令和の一向一揆」をスローガンに運動した2024年の都知事選では12万票以上を獲得した

第二部

  • 山中泉:「世界の反グローバリストの愛国者たちと連携しつつ、国内では私たちの主張に沿う政党や政治家、各種団体を支援し、共に行動するために」設立された一般社団法人IFAの代表。次期衆院選にて参政党から比例東北ブロックで出馬予定

  • 茂木誠:駿台予備校・ZEN Study(旧N予備校)世界史講師

  • 松田学:参政党元代表

  • 深田萌絵:ITビジネスアナリスト。全世界の監視と言論統制を巡って米中が争っている、という世界観で5G、AI、量子コンピューターといった技術を表題にした書籍を発行している。かつては株式投資アイドルとして活動していた。

  • 佐藤和夫:元自衛官で、様々な保守系団体の代表を務める活動家。様々な団体が入り乱れる大規模反ワクチン集会の形成過程における佐藤氏の重要性についてはウォッチャー山崎氏の論考をご覧いただきたい(なぜ日比谷公園に一万人の陰謀論者が集まったのか)。

※鵜川和久氏(タイ王宮式マッサージバーン・ハナグループ代表)はビラに掲載されていたものの、登壇しなかった模様

20台ほどが出店し、思ったよりも充実していたキッチンカーエリア。チュロスやロングポテトが多かった。

と、ここまで書いてきたが、登壇者の顔ぶれはいつもの界隈で、スピーチ内容も反ワクチン派としてはごく普通のものに留まっていたため特筆すべき点はない。強いて言えば、内海聡氏が衆院選で神奈川15区から出馬する意向を明かした程度である。

芝生に座って演説を聞く参加者たち

参加人数も前回を下回るように見受けられ、反ワクチンイベントとしてはあまり見どころのないものに終わってしまうのか…と一抹の寂しさを感じたものの、筆者には思わぬ角度から飛び込んできた関心対象が存在した。既に報道もされている「デモバイト」の件である。

急速に拡がったデモバイト情報

有明デモの参加者が、1万円の即金手渡しで募集されているらしい…という話は2日前の時点で筆者にも届いていた。最初に得た情報は「特定のLINEグループで募集されている」というもので、非公開グループとなると潜入しての事実確認は難しいため、筆者も情報の取り扱いには慎重になっていた。ところがその後、Xを検索してみると公開投稿で堂々とバイトが募集されていることが分かった。

同様の投稿はInstagramでも出回っていた他、noteでも募集が行われていた。

ちなみにバイトではないと思うが、ジモティーで同行者を募集している投稿も見られた。

このようにデモバイトの情報は多数のサイトで拡散され、昼過ぎに筆者が有明駅に様子を見に行ったところ、普段の反ワクチンデモ参加者層(50代以上が多く、女性比率がやや高い)とは明らかに異なる、柄の悪そうな10代後半~20代の若者が大集結していた。

防災公園内とは明らかに層の異なる若者で埋め尽くされた有明駅下
改札前に密集する若者たち

特に改札前には若者たちが密集していたために通行が難しいほどで、駅からは「防災公園に行く方は出て右に進んでください!」と繰り返し注意する放送が行われていた。

そんな若者たちの傍で耳をすませると「最後まで歩かないと金もらえないの?」「俺が誘った奴らで集まって歩いてもらうから」「最後に集合写真撮るから」といった声が飛び交っており、いずれも1万円前後の即金支払を求めて集まったものと推察された。

主催側の人物から謝罪投稿が行われ、認めざるを得ない事態に

やがて若者たちは防災公園内に押し寄せることとなり、柄の悪い若者と、大人しそうな中高年が入り混じるカオス状態となった。ウォッチャーの中には、何故か若者から陰部を露出して良いか許可を求められるという珍事を経験した者もおり、危うく反ワクチン派に加えて陰部露出派が防災公園を闊歩する事態になりかけていた。この日の界隈は、実に危険な状態だったのである。

このデモバイトについて、主催からはデマという声明が出され、「バイトデモはデマです」という旨のプラカードを掲げて歩くスタッフも見られたが、午後の早い段階でデモ隊列の1つ、桜響明隊を率いる巻田隆之氏から謝罪投稿が行われていた。主催側の巻田氏からこのような謝罪文が出たということは、少なくとも荒唐無稽なデマではないと考えられた。

巻田氏はホストグループ「groupdandy」のCOOで、売掛金問題の際にはホストクラブ側の代表として新宿区長と会見を行っていた人物である。


WHOから命を守る国民運動、トップページに掲載されている声明文

さらに、現在は上記のように、実質的にデモバイトの存在を認める声明文が主催団体のウェブサイトに掲示されている。つまり、デモバイトはデマではなかったのである。「個人の友人の行為であり、団体としては拒否する」という内容になっているが、果たしてその存在を主催側は本当に知らなかったのだろうか。部外者の筆者ですら2日前には得られていた情報である。全く知らなかったのなら情報収集力があまりに欠如しているし、知っていて何もしなかったのなら黙認したようなものである。このような団体に従っていて良いのか、参加者・支持者の諸氏にはよく考えていただきたい。

予算の使い方を誤っているのではないか

デモバイトの件については反ワクチン派のインフルエンサーとして知られる松田エリザベス玲子氏が「2,000人以上の若者の参加があり、1人1万円としても2,000万円以上の自腹を切って動員してくれている」と肯定的に投稿していたが、筆者の目にはそれ以上の若者が来ていたように見えた。さらに言えば、後述の通り末端が1万円ということは、バイトを集める人物にはそれ以上の1人あたり報酬が支払われていたはずであり、これを2万円とすれば4,000万円、単価設定と人数によってはそれ以上の金額がこの日のために動いたことになる。

それだけの額を使ってあの盛り下がりようというのは、いくら人を集められたとはいえ使い道を誤っている(しかも早々にバイトが発覚し強烈なマイナスイメージが付いてしまった)だろう。一方、その前の週に行われた「トランプ大統領必勝祈願デモ」では豪華な作りのトランプ神輿が登場し、参加者だけではなくウォッチャーも沸かせる熱い1日となっていた。

「トランプ大統領必勝祈願デモ」は人数では大きく劣るものの、熱量で言えば有明集会よりも上だったのではないだろうか。何故か。そこにはトランプというカリスマへの信仰があるからだ。トランプ神輿という偶像を媒介にして人々の熱意が集結した時にこそ、個人が集団に溶け込み、アイデンティティが融合する。集団としての「熱さ」が生まれるのである(勿論筆者はその主張には全く同意しない。あくまで集団としてのあり方の話である)。

一方の有明集会では、刺激に欠ける説話を集会で続けることが中心であり、盛り上がりに欠けていた。その上、豊洲側では保守系団体の代表がニコニコと金目当ての若者と握手していたという。思想団体がそんな体たらくで良いのだろうか。これでは「我々の思想は、日給1万円に負ける程度のものです」と言っているようなものではないか。

陰謀論用語に、「3S政策」というものがある。これは「戦後GHQが日本を占領する際に、スポーツ、スクリーン、セックスを柱とした愚民政策を実行したため、メディアにはエンタメばかりが溢れている」というものだ。その検証は置いておくとして、そこには「マス向けのコンテンツが3Sばかりで、政治や思想に関心を持った際に手軽に触れられるコンテンツがない、気軽に話せる相手もいない」という不満が反映されているのではないだろうか。

昨今の陰謀論では新世界秩序陰謀論の変奏である「グローバルエリートによる世界支配」への対抗が基本構造となっているが、ここにも身近な環境が、ビジネスの論理に占拠されてしまうことへの不満が見え隠れしている。であればこそ、思想団体には「ビジネスや金を超える魅力が、思想にはある。金はなくとも、時間をかけて思想を追及すれば人生を変えられるのだ」と、夢を見せてもらいたいものである。

トランプ神輿にもう一度触れておくと、この神輿は福岡県の元美術教師が、予算100万円で作り上げたものだという。

数千万円も予算があれば、神輿を大量に投入することでメディアも報じざるをえない巨大な非日常領域を展開でき、視聴者にまでそれを広げられたのかもしれないのに、実にもったいないことである。

といっても金があれば良いというものではなく、これを実現するためには職人と技術が必要だ。筆者も工学系出身であり、思想の違いに関係なく技術の高さ、ものづくりへの情熱は素直に尊敬するスタンスだ。物理的条件さえ揃えば、技術は使う者の思想に関係なく成果を出してくれる。あれだけの人数がいればメーカーの技術者がいてもおかしくない。是非、自分たちなりの魔改造の夜を実現してもらいたいものだ。そこに人生の充実感が生まれるのではないだろうか。

デモバイトに応募してみた

話をデモバイトに戻そう。Xでもデモバイトが募集されていることを知った筆者は、早速DMで申し込むことにした。するとあっさり受け付けられ、すぐにバイトの詳細が送られてきた。

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