稲村和美はなぜ負けたのか~兵庫県知事選挙雑感~


プロローグ

まず最初に兵庫県知事選挙及びその前に起こった核疑惑の家庭において亡くなられた方に対し哀悼の意を表します。

さて1月近く前の話ですが、石丸伸二氏や日本保守党を書いた以上こちらも書かないのもおかしそうなので少し書こうかと思います。兵庫県知事選挙です。

疑惑の首長VS議会の推す首長候補:2017年横須賀市長選挙との相似形

さてこの兵庫県知事選挙を考える際に思い出した選挙があります。私の地元横須賀で2017年に行われた市長選挙です。

この選挙では兵庫県知事選挙と違い現職市長が破れ、TVタレント上地雄介氏の父親でもある上地克明氏が新しい市長に選ばれました。とは言え、その当時の市長である吉田雄人氏はいくつかの疑惑を抱え、もともと市議会との折り合いも悪かった事もあって問責決議を複数回可決されています。実は調べて見て分かったのですが、斎藤知事同様百条委員会も設置され、こちらは市長選挙前にきちんとクロと言う結論が出ていたようです。逆に対議会に関しては問責決議こそ複数回なされていますが、強制力のある不信任決議はなされず任期満了での選挙戦となって居ます。兵庫県と横須賀市、ワイドショーでの騒ぎ違いを上げればきりはないですが、構図自体は近いものがあると思います。

対立軸と相手支持層へのフォロー:ベテラン政治家上地克明を勝たせたもの

会見では、軍港と漁業とマリンレジャーを融合させる「海洋都市構想」、行政主導でアミューズメントパークを開設する「エンタメ構想」、アーティスト村や多世代共生の実現による「谷戸再生」の3つを政策の軸に据える考えを示した。
 吉田市政については、「市債の圧縮を誇っているが、先行投資が必要だった。8年間で市政の停滞を感じている」と手法に異議を唱えた。中学校給食の導入や小児医療の引き上げも議会の提案で流れを作ったとして、「グランドデザインが引けていない」と批判を展開した。

https://www.townnews.co.jp/0501/2017/03/31/376551.htmlより

さて上地氏が本来現職が有意になる知事や市長などの地方の首長選で勝てたのか理由は2つあると考えています。1つは政策面できちんと対立軸を出した事上は出馬表明時のインタビューからの抜粋ですが明確に現職である吉田市長の緊縮路線に異議を唱えています。言うなれば「(吉田市長の)緊縮(路線)から投資へ」と言う分かりやすい対立軸が示されたわけです

http://blog.livedoor.jp/brothertom/archives/71175426.html より

もう1つはある意味で敵側である吉田雄人市長を支持しそうな人たちにもきちんとフォローをした事です。上は市長選当時のツイートからのものです。
吉田雄人市長は緊縮財政の代わりに比較的お金のかからないアニメの聖地巡礼に絡めた観光誘致に熱心で、結果巡礼者のたまり場のような場所が出来ていました。そして選挙戦の早いうちにたまり場を訪れ巡礼者たちと記念撮影を行ったのが上記ツイートの構図です。当時は聖地巡礼で盛り上がっている地域もあった反面、反発も強い時期だっただけに記念撮影を行いツイートでそれを公開した上地市長の行動はある意味で吉田雄人市長に恩義のある彼らに安心感を与えたと思います

今年の都知事選で小池百合子知事が選挙戦開始当日に東京で最も人口の少ない離島青ヶ島でもポスターが張られて、その様子が同島在住の人気Youtuberがツイートしてバズり、「自民党田中派伝統の川上戦略だ」と感心されたことがありますが、上地市長は若い時分新自由クラブ(1970年代河野太郎衆議院議員の父河野洋平氏が立ち上げた保守系の新党)の重鎮田川誠一氏を師と仰ぎ秘書として活動していた時期を持つベテラン政治家だけに様々な有権者にきちんと「市長候補」としての自分を認識してもらう重要性を理解し、支持する可能性が低い有権者に向けても「あなたの存在を忘れない」事をきちんと示すことができ、最終的に現職市長との一般的には不利とされる選挙戦の勝利につなげる事が出来たのではないかと思います

2人の自殺者に関して有権者はどう考えたのか

そうした動きがあることが元県民局長にも伝わったようです。そのため彼の代理人が県人事課に、プライバシーに関わる資料については十分に配慮するよう申し入れた。ところが、人事課は開示に支障があるなら百条委員会に申し入れるように言ってきたそうです。あらためて代理人は百条委員長宛に、調査目的以外の資料は開示しないよう申し入れたのです。

https://www.dailyshincho.jp/article/2024/07100601/?all=1&page=2 より

<複数の関係者「元課長は補助金の増額には関与していない」>

 また文書には、優勝パレードを担当し、2024年4月に亡くなった元課長が「一連の不正行為と調整で精神が持たず、病んでいた」などと記されていましたが、複数の関係者が、「元課長は警備やコスト削減、大阪府などとの調整に苦労していたが、補助金の増額には関与していなかった」と、証言しています。

https://www.sun-tv.co.jp/suntvnews/news/2024/08/06/80317/?fbclid=IwY2xjawHHVsBleHRuA2FlbQIxMAABHSmRS19ZpHuWdHE5fExh1o48mf2mt5z_EtXf8FGPwvR23wCUWW2795GKoQ_aem_ZmFrZWR1bW15MTZieXRlcw より

今回の選挙は知事の疑惑の中2人の自殺者を出したことが大メディアも巻き込んだ騒動のきっかけになりました。「2人の自殺者を出した斎藤知事に首長の資格はない」これが稲村和美候補最後、かつ最大のよりどころだったと思います。しかしその中で知事に投票した人たちは自殺者を無視したのかと言えばそうではないと思います。実際全ての騒動のきっかけとなった元局長は議会が設置した百条委員会でプライバシーにかかわる情報が公開されるという事を苦にしてと言う週刊誌報道が7月段階でなされ、昨年の阪神・オリックスの優勝パレードの担当課長は少なくとも「補助金に関わる不正行為を気に病んで」と言う部分に関しては地元TV局で否定する報道が8月段階でなされています。選挙が行われたのは11月、すべてのスタートである局長による文書が出て8か月、局長の自殺から4か月、様々な疑惑に関して明確な証拠が出る訳ではない「TVで報道されている事はおかしいのではないか」と「気づき」調べた結果上記のような報道を発見し、言って見れば「知事は2つの自殺に関わっていない」と言う事を状況証拠レベルですがある程度裏付けをもって判断し投票に臨んだ人が多かったのでしょう。

稲村和美はなぜ勝てなかったのか

 兵庫県知事だった斎藤元彦氏(46)の失職に伴う知事選(31日告示、11月17日投開票)で、前尼崎市長の稲村和美氏(51)が8日、無所属での立候補を表明した。政党推薦も求めない方針。神戸市内で会見した稲村氏は「改革には対話と信頼が欠かせない」と強調した。近く選挙戦に向けた公約を発表するという。~中略~
 公約の柱には「県民主役」「地域力向上」「未来への責任」を挙げ、県財政の抜本的な改革や地域経済の活性化、若者支援などに注力すると主張。行財政改革については「新たなロードマップを作って着実に推進」すると説明した。

https://www.kobe-np.co.jp/news/society/202410/0018206414.shtml より

今回上地市長同様のチャレンジャーだった稲村和美元尼崎市長の場合どうでしょうか?出馬時の記者会見を見ると財政改革や若者支援等斎藤知事の政策と被る部分が多いのが印象に残ります。上地市長が明確に対立軸を出していたのと対照的です。仮に斎藤知事がこれらの政策に関して、まったくと言って良いほど成果を出せていないなら別ですがこれだったらそれなりに成果を出せている斎藤知事から変える必要がないのではと感じた有権者が多いのではないかと思います。

県立大学の無償化は、どう考える?

大学生をはじめ若者世代が経済的な不安なく学ぶことができる環境を整備することは、非常に大切です。一方で兵庫県立大学の無償化は、対象が、県内で高校を卒業して大学に進学した方の約2.6%、また県内の高校を卒業された方の1.7%程度に過ぎない状況であり、県立大学を無償化しても約97%の若者はその恩恵を受けることができないのが現実です。
繰り返しになりますが、若者世代が経済的な不安なく、学ぶことができる環境はとても大切です。だからこそ、県立大学に在学中の皆さんなどには十分な配慮をしつつ、3%の若者だけでなく、より多くの若者が恩恵を受けることができる仕組みにすることが必要だと考えます。
(2024/10/28)

https://inamura-kazumi.com/qa/#Q11 より

そしてもう1つ感じるのは斎藤知事を支持するであろう層へのある意味での冷たさ、上は斎藤知事の施策の中で人気の高かった「県立大学の無償化」に関するQAでの解答、確かに兵庫の高校を卒業して県立大学に進学する人は決して多くはないので解答として書かれている事は間違っている訳ではないですが例えば「県立大学が無償化されたことにより諦めてかけていた大学進学をあきらめずに頑張り県立大学に進学した学生」がこれを見たらどう思うかという配慮に欠けているとしか言いようがないです。

尼崎市長時代の退職金は、1千万以上減っています。 【※”デマ”に気をつけて】
いなむら和美は、県庁建て替えに1,000億円かけません。 【※”デマ”に気をつけて】
いなむら和美は、「緑の党」ではありません。 【※”デマ”に気をつけて】
いなむら和美は、外国人参政権を進めません。 【※”デマ”に気をつけて】

https://inamura-kazumi.com/qa/ より

稲村氏は「候補者の何を信じるか、どのような情報に基づいて投票行動を決めるのかという点で課題が残った選挙戦だった。何が争点だったのか。斎藤候補と争ったというより何と向き合っているのか違和感があった」と振り返った。

https://mainichi.jp/articles/20241117/k00/00m/010/225000c より

そして稲村和美元尼崎市長はデマに苦しめられ、落選し「何と向き合っているのか違和感があった」と言う言葉を残しました。何となく感じるのは「有権者にとって稲村和美と言う県知事候補が見えず、また県知事候補である稲村和美にも兵庫県民が見えなかった」結果起こった事なのではないかと言う事です。稲村和美と言う候補者が見えないからそれを補うように(稲村陣営が)デマ(と呼ぶ様々な情報)が飛び交って定着し、県民が見えないから稲村和美候補は有権者に届く言葉を発する事が出来なかった、そしてその結果必然的に落選と言う結果が舞い降りて来たのではないかと思います。

斎藤知事、稲村候補、上地市長、もしこの3人から選ぶなら

最初に書いておきますが私は生まれ自体は九州ですがずっと関東で生活し、選挙ではずっと横須賀の選挙区で投票を行ってきた人間です。兵庫や関西の生活感や政治的な空気は分からない人間である事を留意してください。
その上で斎藤知事、稲村候補の2択なら斎藤知事、上地市長を追加した3択なら上地市長に投票します。ただし上地市長に関しては前提条件としては時間をかけてじっくりと準備し、地域にとって適切な政策を出せた場合となります。これは斎藤知事が真っ白だった場合も変わりません。斎藤知事に関しては後述しますが、一歩間違えれば殺されかねない状況で出馬、演説を行うのはやはり強い信念の持ち主であり、また政策などから見ても優秀な方なのは間違いないと思います。単純に強さ・優秀さだけなら他の2人を圧倒するかもしれません。それでもと言うよりもだから選べないというのが正直なところです。この強さ・優秀さゆえに議会や局長の様な周りと軋轢を起こしやすかったというのが今回の騒動のある意味で肝だと思います。ただしそれに対抗するには上地市長の様に地域にきちんとした基盤を持ち、議会などでも一目置かれる能力と人格を持ちネットやメディアに流されない強さと有権者に対してきちんと対立軸を出せる、言うなれば疑惑が無い状態でも現職首長に対抗できる候補でないと難しいです。少なくとも兵庫の有権者が1度は斎藤知事を彼の優秀さや政策で選んだ以上、相当な人物でないと騒動を纏め、有権者を納得させるのは難しいです。逆説的ですが上地市長の様な候補がいるなら多分ここまで悲惨な騒動は起きなかったのではと思います。何しろ任期満了まで待てるので焦って百条委員会を開く必要はなく、そうすれば局長も自殺せずに済んだ訳ですから。
そして稲村候補に関してはここまでいろいろ書いてきたことから選択肢に残らない事にご納得いただけるかと思いますが、実はそれ以前の事で選べない、言い換えると斎藤知事以上に不味い候補なのではと考えています。

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