小説に実体験を振りかける
今まで書いた30作以上の小説は全てフィクションです。当たり前ですが、現実には余命を告知する死神も、トラックの荷台に乗って旅する中学生もいません。僕の中から生まれた「空想の物語」です。
でも、100%嘘でもないです。物語の骨子は完全に架空ですが、僕が体験した話や見聞きした話を物語のどこかに振りかけるようにしています。
例えば「ふたりの余命 余命一年の君と余命二年の僕」の主人公は大怪我をしていますが、怪我の内容は僕が実際に負った怪我に合わせています(物語の中では暴行事件による怪我ですが、現実の僕は交通事故による負傷)。
「夏のピルグリム」の主人公が妹と人形遊びをするエピソードは、僕が小さかった娘と遊んだ思い出を元にしています。
小説内の内容を現実に合わせる必要など全くないのですが、空想の物語に実体験を振りかけると、その物語にリアリティが増す気がします。
実体験が混ざることで、物語が現実と地続きになっていると感じることができ、書く自信が湧いてくるのです。
SFやミステリーだと実体験を含めるのは難しい場合がありますが、その場合は自分が見聞きした物語を含めるようにしています。
著者初のSF小説である「アインの追憶」内に僕の実体験は含まれていませんが、現実世界で起きた原発事故や子供の頃に読んだ空想小説のイメージを混ぜています。自分の中のイメージを振りかけることで、現実とはかけ離れたSFの世界でも自分がそこにいるように描写することができます。
作家全員がそうなのかわかりません。たくさん書かれている作家さんは全ての作品に実体験を混ぜるのは不可能でしょうし。
自分がまったく体験していないことでも、自分のことのように書けるのが真の小説家なのかもしれませんね。
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