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車に300m引きずられてプロの小説家になった話

車に轢かれる

七年前、気がついたら病室のベッドで寝ていました。

ドラマでよくあるシーンだけど、本当にその通りのことが自分の身に起こったわけです。

仕事帰りにいつものルーティンでランニングしていたはずなのにどうして病院に? と思ったけど、体のあちこちが痛くて動けないし、なぜかひどく疲れていて、自分の身にただならぬことが起きたことがすぐにわかりました。

後で聞いたら、ランニング中、車に轢かれて車道を300m引きずられたそうです。僕を轢いたことに運転手は気がつかずにしばらくそのまま走ってから、なにか変だなと思い停車しバックしたら車の下から血まみれの僕が現れたとのことです。ホラーだったでしょうね。

駆けつけた警官は倒れている僕を見て「死んでいる」と思ったそうです。

この事故で僕は前歯を4本失い、肺に穴が開き、腰椎と肋骨を折り、車に引っ張られた左腕は胸より上にあがらなくなってしまいました。
医者が言うには、筋肉がなく骨が脆かったら下半身不随になっていたそうです。毎日のランニングで鍛えていたから無事だったのかもしれないけど、そもそもランニングしなかったら事故に遭わなかったわけで、複雑なところです。

手術とリハビリのおかげで、幸い日常生活を再び送れるようになり、事故から一年後には目標だったフルマラソンを完走できました。失われた前歯は永遠に戻ってこないけど。


歯を失って残った言葉

差し歯も入って元の暮らしに戻れたけど、気持ちはちょっと変わったままでした。

「人は簡単に死ぬ」

当たり前の言葉が頭から離れませんでした。大事故に遭っても僕はたまたま生きていたけど、それは本当にたまたまで、僕の体を踏んだ車のタイヤが少しずれて頭を潰していたらすでにこの世にいなかったわけで、逆にあのとき車が走ってこなければ僕はいつも通りにランを終えてその年のマラソン大会で初完走していたはずです。

その差はとてもわずかで、バランスを欠いたやじろべえのようにどちらに倒れるか予測できません。
夜のランをやめて、ジムで走っていれば車に轢かれることはないけど、ダイエットに失敗した人が腹いせにジムを放火して、巻き添えに遭うかもしれません。
どんなに慎重に対処しても1分後になにが起きるかは誰にもわからないのです。

そう思ったとき、僕は20年勤めた会社を辞めることを決めました。

13歳の夢

中学生の頃から僕は小説をずっと書いてきました。
きっかけは些細なことで、小学校の作文の時間に「文章が上手いね」と先生に褒められたからでした。
中学で有名作家の小説を真似て書くと、隣の女の子が読んで面白いと言ってくれました。

就職しても小説を書き続け、作品が完成したら新人賞に応募することを繰り返してきました。

賞をもらったら会社を辞めようと、インド人の上司に退職を伝える英文を用意していたけど、その英文を読むことはついにありませんでした。

仕事は好きだったし、生活もあるので、会社を辞めようとは考えていなかったのですが、事故に遭って、「いつ死ぬかわからないなら好きに生きよう」と決断しました。

大きな決断のはずなのに、最初からそういう道がひかれていたように、結構あっさりと決めちゃいました。

会社を辞めることを話すと、ちょっと親しい人には「夢があるのは素晴らしい」と称賛され、本当に親しい人には「生活はどうする? バカな真似はやめろ」と諭されました。

当然だと思います。僕が他人に相談されたら、考え直せと言うでしょう。

会社を辞めてから、僕は小説を毎日書きました。一年に数作の長編小説を完成させ、新人賞に応募しましたが、落選続きで、手元には誰にも読まれない小説が溜まっていきました。

折角書いたものだし、小説は人に読んでもらうために存在すると信じているので、自著をAmazonで販売することにしました。電子書籍なら簡単に出版できますし、表紙を自分で作れば費用は一切かかりません。

AmazonのKindleでは、毎日どれぐらいの人が読んでくれたのか数字でわかります。読者が世界のどこかにいるという事実は執筆の励みになりました。

次の転機は、「ふたりの余命」の出版でした。「ふたりの余命」は書き終わった瞬間に、良い小説が書けたと心から実感できた作品でした。
2021年末に出版した「ふたりの余命」は(僕の作品としては)爆発的な人気を得ました。
半年以上Amazonのランキング1位(ロマンス部門)を維持し、「ふたりの余命」を読んで良かったと思ってくれた人が他の小説も読んでくれるようになりました。

Amazonで小説を公開している人の中では、最も多くの人に読まれる小説家のひとりになりました。

毎日多くの人に小説を読んでもらえるなら、賞をもらえず商業出版できなくてもいいかなと思い始めていた今年、さらに大きな転機が2つ起こりました。

ひとつは応募した作品が「第12回ポプラ社小説新人賞 奨励賞」を受賞したことです。今までは選考にかすりもしなかったのに突然の受賞の知らせがあった時は、かなり驚きました。
受賞作の「夏のピルグリム」は2024年7月18日にポプラ社より発売されることになりました。

もうひとつの変化は、「ふたりの余命」の書籍化です。「ふたりの余命」を読んでくれた編集の方に声を掛けていただき、あれよあれよという間に「ふたりの余命 余命一年の君と余命二年の僕」というタイトルで書店に並ぶことになりました。

自分の小説が書店に並ぶのは中学の頃からの夢でした。

夢の先

ちょっと浮かれた自分語りになっているのはご容赦ください。そりゃあ、中学生からの夢が叶えば、少しは浮かれるってもんです。

夢が叶っても、これがゴールではありません。今度は、せっかく世に出た小説を多くの人に読んでもらいたくなります。それこそが中学生から小説を書き続けている目的なのですから。

商業出版は、ひとりで書いてひとりで出版していたAmazon Kindleと違いシビアな世界です。多くの人が本に関わっていて、たくさんの資金が投入されています。売れなければ次の本を出すことはできません。

作者が言うのもなんですが、「ふたりの余命 余命一年の君と余命二年の僕」は本当に「良い物語」だと思います。多くの人に喜んでもらえ、悩んでいる人に暖かい光を照らすような作品です(悩みがない人でももちろん楽しめます)。
文章もストーリーもわかりやすく、多くの方に共感してもらえると思います。その証拠にKindle版では数多くのポジティブな感想をいただきました。

2023年10月5日、「ふたりの余命  余命一年の君と余命二年の僕」が書店に並びました。本作を読んで、感想をお聞かせいただけると幸いでございます。
そして、2024年7月18日に、「第12回ポプラ社小説新人賞」奨励賞受賞作の「夏のピルグリム」が発売されました。著者初の単行本形式の小説になります。よろしかったら書店で手に取ってみてください。善い物語だと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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