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AIイラストによって今後のお絵描き界隈にもたらされること

主に絵描き&クリエイティブ業界目線でみた、現状のイラスト環境がAIによってどう変化するかについて考えてみました。前段が長いので読むのがめんどくさい方は「AIの影響が大きい業界」まで飛ばしてください。

先に結論

  • 技術革新は避けられない

  • 多くの制作現場でAIは活用される

  • 全人類にお絵描き能力が生まれる

  • 現イラスト描きはAIを学び、活用法を検討すべき

AIイラストすげー!

イラストを描くAIが旋風を巻き起こしてます。描画内容や作家の権利に注目が集まりがちですが、実際のところ多くのクリエイターが気になるのは今後の界隈への影響だと思います。今回はいくつかの情報を俯瞰してみて上でこれからイラスト業界に起きる事を考えてみました。日々のアップデートが凄まじいトピックについて扱うので、この記事もすぐに古くなってしまうかもしれませんが、一つの意見としてご笑覧頂けると嬉しいです。

現状のイラスト業界

本筋に入る前に今のイラスト業界、もといイラストが活用されている市場について簡単にさらっておきます。今のイラストはインターネットを中心とした若者文化の代表として不動の地位を築いているといっても過言ではありません。絵が上手い人は多くのフォロワーを獲得し、2022年時点ではフォロワーが数十万人もいる作家は珍しくありません。

知名度だけではなく、収益も上がっています。作家によってはイラスト単価50万円からのスタートになり、トップクリエイターとなると1枚の絵に100万円以上支払われることもあります。特にここ10年では産業構造に大きな変化がありました。私が学生だった15年前には考えられなかったことですが、イラストレーターとして十分なお金を稼げる時代になっているのです。

こういった現状なので、イラストについてセンセーショナルなできごとがあると大きな話題になることが多々あります。過去にはトレパク問題や自作発言など。いずれも技術やアイデアを奪われる(と認識した)ことについてはセンシティブに考えられています。

AIイラストの登場

そんな個人クリエイターが影響力を持つ環境下で、AIイラストはまさに彗星のごとく登場しました。とりわけMidjourneyやStable DiffusionといったAIは非常に高性能でプロクリエイターの審美眼にも耐えうる作品を生み出しています。なかなかシャレにならないクオリティがあり、クリエイターそれぞれの未来感がツイートからも伺えます。

AIは天才クリエイターの思考を持つ

AIの思考は人間の学習プロセスに非常に近く、特に直感的な行動に基づいていると思います。つまり、美術解剖やパースといった論理的(言語的)な学習を経てイラストを作り上げるのではなく、最初から「美しいビジュアル」を第一目標に描画しています。私がこれまで出会った作家、特に天才肌のトップクリエイターだと「デッサンみたいな練習はしたことない」「絵のノウハウ本は持っていない」という方も居ました。現時点のAIは構造的な整合性は弱いですが、不思議な魅力を持っていることが多いです。

※論理的な学習プロセスを経ないクリエイターの例を出していますが、これは卓越した才能を持つ人間の話です。私の見解としては書籍から情報をインプットした方が学習効率ははるかに高いと思います。もちろん論理的な学習プロセスを重視する人気クリエイターも沢山います。

作画技術的としてのAIへの評価

2022年8月現在にはなりますが、AIへの評価は概ね以下だと思います。

  • それっぽい雰囲気を描ける

  • ディテールは荒い

  • ユニークな発想ができる

  • 短時間で量産が可能

  • 狙ったものが簡単に生成できるわけではない(呪文/コツがいる)

  • 作者(AI)の制作意図を知ることはできない

つまり、上記の評価に合致する仕事であれば人間の作業を代替することが可能だと考えます。さらに作者によるプレゼンができないことから、提案ベースのビジュアルは生成後に人間が理由を後付けでコメントする作業が必要です。

AIの影響が大きい業界

私は今後のAIの進化によって、イラストを用いるプロジェクトの工程は大きく変化すると考えています。もちろん現状のイラストAIはまだまだ黎明期なので変化はゆっくりと起きるでしょう。それでもいくつかの分野でこれまで人間が進めてきたものがAIに置き換わっていくと考えてます。特に商用ベースでは「時短」と「低コスト化」がどの場面でも求められます。AIはそれに大きく貢献できる可能性が高いです。

コンセプトアート

制作の下地がAIになる
映画やゲームなどでは「コンセプトアート」と呼ばれる中間素材が用いられます。最終的なビジュアルのイメージやスタッフ間で方向性を摺り合わせるために使います。コンセプトアートは設定画と違い、世界観を表現できれば良いです。つまり、ディテールの描画が必要なく、現状のAIでもある程度近しいアプローチができるのではないかと考えてます。現時点のAIではデザインや細かい要件を反映させることは難しいですが、「廃墟」「近未来」「大自然」などといったワードでビジュアルの下敷きを作り、そこから加筆、レタッチをかけてコンセプトアートとして仕上げていくことは可能です。

背景画

マンガ>イラスト>映像>ゲームの順で活用シーンが増える
背景画は学習元の教師データが豊富であり、現状のAIイラストでも一大ジャンルになっています。すでにマンガでは、写真や3D素材を元に背景を作る手法が確立されています。私は今後数年位内にCLIP STUDIO PAINTなど主要なソフトに背景のAIアシスト機能が実装されると思ってます。もちろん背景にこだわる作家や重要なシーンでは引き続き人間の手による描画が行われるかと思いますが、今後は人が描く背景はより高級な素材になっていくと思います。同じ理由でアニメやゲームの背景でもAIの活用は増えてくるかと思いますが、こちらはマンガ以上にシチュエーションの縛りがあるので、代替の難易度は少し高いです。

テクスチャ、2D素材

ゲーム業界の素材制作は一新する
地面の隆起や樹木の皮、皮膚の質感などのテクスチャもAIの生成で表現することができます。自然物だけではなく、服の柄や壁紙、タイルなどの人工物など様々な応用が可能です。もちろん一般的なテクスチャはすでに多くの3D素材があり、バンプマップやノーマルマップといった処理もあるので、単純にAIで作ったから即実装できるというものではありません。しかし、近い未来ではそういった3Dデータへの変換もAIでどんどん簡略化されていくのだと思います。すでにフォトグラメトリの世界では建物をまるごと3D化することが何年も前からできていますし、AIの技術が組み合わさればより短時間で情報密度の高い素材を生成することもできそうです。

カジュアルなカットイラストやビジュアル

いらすとや以上のインパクトが起きるかも
あまりコンテキストを必要としないプロダクトにおけるイラストは今後AIが主流になる可能性が高いです。すでに多くのメディアではイラストレーターの描き下ろしカットからフリー素材である「いらすとや」に置き換えられており、今後はこれ以上のインパクトになる可能性があります。

ただしこれはAI単独の進化以上にアプリケーションとの同期が重要になります。特に自治体や小規模経営者などの場合、専門的な制作ツールを持っていなかったりコンテキストの高い情報にアクセスしにくいこともあるので、ウェブ上で簡単に生成できるなどの仕組みが必要です。ビジネスとしてはAI生成エンジン以上に、簡単に画像を選ぶUIや、ユーザーに対して訴求する営業力が求められると考えます。

絵柄の強い作家はさらに強力な存在になりえる

自分のコピーを量産
これまでは人間の仕事の代替=仕事を奪われるというニュアンスもありましたが、逆に自身の仕事をAIによってさらにスケールさせることも可能です。例えば特定の絵柄で人気を博しているクリエイターはAIに自分の絵柄を中心に学習させることによって、自身のクリエイティブを量産をすることができます。自分と同等以上の技術で同じ絵柄を描けるので、コンテキストの部分を補完したり、レタッチをかけることで強力な制作エンジンになります。個人クリエイターにも恩恵がありますが、特にキャラクター関連のオリジナルグッズを扱いブランドは大きなメリットがあるでしょう。例えばサンリオなどのメーカーでは既存の大量の絵柄を学習させることができますし、Adobeアプリケーション内での実装できればベクタデータの粒度で生成することも可能になります。

もちろんこの技術は諸刃の剣で、悪意を持って絵柄を盗用することも可能です。こういった悪用を防ぐために、今後は法整備や業界内でのルールや協定などが整備されていくでしょう。絵柄を学習して模倣するサービス「mimic」はリリース直後から大きな反発も生みました。

AIの影響が少ない業界

業界ベースでAIイラストの影響力についていくつか見ていきました。一方でAIに代替されにくい仕事も当然あると考えてます。

個人クリエイター市場

SNSや同人即売会など個人クリエイターに紐付くファンはAIの影響が少ないと考えてます。AIにできないことは「作者による意志を持った提案」です。将来的にできるようになるかもしれませんが、かなり難易度が高いと思ってます。これは絵を上手く描く以上に、要件を整理して相手の姿を想像して提案しなければいけません。現状のTwitterなど個人のイラストレーターについているファンはその人の絵柄や考え方を愛しています。AIはその万能さ故に個のアイデンティティやそれに紐付く絵柄を獲得しにくいです。とある素晴らしいAIが誕生したとしても、それによって現状の個人クリエイターからの離脱が起きる事は考えにくいと思ってます。

ビジュアルストーリー(漫画、映像)

特に日本の漫画はハイコンテクスト
映像を伴う物語は文脈が複雑なジャンルであり、生成そのものが難しいと考えてます。小説を高い完成度で作り出すAIはありますが、ビジュアルと複合させて全体でカタルシスのある漫画として仕上げるのはかなり難しいのではないでしょうか。特に日本の漫画は世界的にもユニークな存在です。コマ割り、ページ配分、フキダシ、フォントなどの概念を学習させる必要があり情報密度がかなり複雑です。またストーリーを伴ったビジュアルは前述しているような「作者による意志を持った提案」が必要になります。逆に言えばAIが漫画を描けるようになると、おおよそのクリエイティブはAIに置き換えられる時代になると考えられるかもしれません。

キャラクターデザイン

最近はAIが描く人物イラスト(アニメ的な美少女イラスト含む)も非常に完成度が上がってきました。一方でキャラクターデザインに関しては作家の意志、提案が肝になるので、AI単独で完成度の高いものを仕上げることは難しいです。これはキャラクターに限らず、ロゴや建築物のデザインなども同様で、文脈を踏襲して具体的な提案を行う必要性のあるジャンルは参入障壁が高くなります。

もちろん、アイデアリソースとしてAIの活用は大いにありえます。最初のラフをAIに描き起こさせたり、ワードから想起されるイメージを提案させるなどの活用は現時点のAIでも十分活用できると思います。

アナログ絵画

市場が「人間の手作業」を評価できるか次第
絵の具や立体物など、アナログの分野ではAIによる影響が少ないという意見を見ました。つまり、AIはキャンバスに絵の具で絵を描く事ができないから、アナログ絵画の希少性は相対的に上がっていくという意見です。しかし残念ながら、AIもアナログを描けると考えてます。まず、現在の印刷技術ですら、人間が手で描いた絵と印刷物を見分けるのは非常に困難です。私は仕事でアートに使用する印刷工場に見学に行ったことがありますが、最新のプリンターは非常にレベルが高く、立体的にインクを盛り上げるなどのマチエール表現も可能です。

つまり、表現の領域ではアナログの優位性は特にありません。しかし、アナログ絵画の市場では「人間の手作業である」ことを評価軸にのせやすいです。AIが普及しても(SF的なロボットの反乱などなければ)人間の生活環境が中心となる世界観に変化はないので、アナログが評価される可能性があります。ただしそれは表現そのものが評価されているのではなく、「人間が描いている」というファクトが大きな付加価値になっている可能性を考慮しなければいけません。

作家が独占していた技術が一般化される

失うものと得るもの

絵描きからみると、一部の仕事を奪われかねないAIですが、そうでない人からすると簡単にイラストを作る事ができる技術は福音となります。かつて、ボカロ市場が生まれたように、これまでイラストに参入できなかった人が表現手段を得ることは、業界全体としてはとてもメリットが大きいです。

例えば映画のシナリオライターが自分でコンセプトアートを作ったり、小説家が挿絵を描いたり、ゲームプランナーがキャラクターのイメージを作ったりと、別のジャンルのクリエイターが二刀流となるのです。クリエイターが2種類以上のスキルを持つと、爆発的にアウトプットが向上することがあります。個人でさらに多くの事ができてしまう時代になっていくでしょう。

創造性に対する価値観が大きく変わる

AIが普及するとイラスト制作に関する概念は大きく変わります。これまでクリエイターが独占していた描画技術が一般化すると、単なる作画力で優位性をとることは困難になります。遠くない未来、イラストAIは人間と同等の作品が描けるようになると、絵を練習する行為そのものが非効率で創造性のないものとして認識される可能性もあります。

多くのクリエイターは自身が気が遠くなるような長い時間をかけて作画技術を手に入れてきました。それがAIによって短時間で凌駕されてしまうのはとても残酷なことです。しかし技術は不可逆なものです。インターネットも、美味しい食べ物も、移動手段も、かつては技術や財産のある人間が独占していたものでした。技術革新のおかげで多くの人が安価で恩恵を得ています。社会が前進するために今起きているできごとは乗り越える必要があると私は考えています。

人間の神秘性は失われるのか?

現時点では多くのイラストは人間の手描きにより制作されています。それゆえにイラストへの神秘性が高く、作家には敬意が払われます。供給に限りがあるからこそ需要の高い状態が続き、市場が形成されているのです。一方で今後AIが進化して普及すると、ハイクオリティなイラストが日々量産され続ける可能性があります。そういう状態が一般化した場合、これまであったイラストに対する希少性や神秘性が減少し、個人クリエイター市場そのものが変化する可能性も残念ながらあるのです。いわば技術的特異点(シンギュラリティ)が訪れて機械の知能が人間を凌駕する場面です。

ではAIイラストがどのレベルまで進化するとシンギュラリティが起きるかというと、卑近な例でいうなら「TVアニメ第一話の放送直後にメインキャラクターの完成度の高い二次創作イラストがTwitterに投稿されるレベル」だと思います。つまりTVアニメの第一話という学習元データが非常に少ない状態にも関わらず、適切に表現できるレベルです。これは非常に難易度が高いですが、遠くない未来では実現できていると私は考えています。

絵描きはAIとどのように向き合うべきか

AIのイラスト学習は不可避

イラスト絵柄学習サービス「mimic」のリリースに合わせて、絵描きによる「自分の作品をAIに利用しないでほしい」という意見が増えています。そのお気持ちは非常によくわかるものの、残念ながら防ぐことは難しいと私は考えています。法的な解釈もありますが、海外企業などが多数プロジェクトに参加しています。一部日本人クリエイターのお気持ちを配慮してAIが開発されるとは思えないので、覚悟を決めてこれからの時代をどう生きるか考えていくしかないです。

絵描きにはAIを活用する圧倒的なアドバンテージがある

当然ですが、普段から絵の鍛錬をしている人は審美性や画力を備えています。これはAIを活用する上でもとても大きなアドバンテージになり得ます。AIが出てきて「自分の優位性が失われる」と悲観するよりも「これでもっと便利に絵を描ける!」とポジティブに考えることもできるのではないでしょうか。

3Dに次ぐ学習すべきスキルとなる

絵の表現力を上げることだけを考えるなら、AIはイラスト制作者にとって大きな助けとなるツールです。活用法を学び、どのように自分の手法と組み合わせるかを検討することがクリエイティブにとっては建設的だと私は考えています。かつて背景素材や写真、3Dなどをイラストに使うことは邪道とされていたこともありましたが、今では当たり前の技術になっています。AIもそういったポジションを担っていくでしょう。

セルフフィードバックを得られる

また、AIは独力でのイラスト学習を大きく助けてくれる存在にもなりえます。自身のイラストを学習、出力させれば添削の近しいフィードバックを得られます。AIと自分がお互いに教師となって制作プロセスを学習させるといった、構造までコピーさせることも今後はできるようになるかもしれません。

まとめ

この記事を書くために私も課金して絵を生成してみたのですが、完成度の高いユニークなイラストを作るのはかなり難しいです。AIイラスト制作が主流になってもprompt(生成コマンド、呪文)は「秘伝のタレ」として秘匿性が高まっていくと思います。今は各業界が使い方を模索しているフェーズです。今後はより簡単に、より狙ったとおりにイラストを出力できるようになっていくと思いますが、重要なのは人間の想像力ということは変わらないでしょう。ヒトの創造性はAI以上に貪欲だと私は信じてます。次世代のクリエイターはAIを活用した、素晴らしい芸術作品を生んでくれるはずです。

最後に生成したイラストを掲載します。
Enjoy!


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