人型ロボットの運動会を見てきた
中国・北京で8月中旬に、「世界人型ロボット運動会 (World Humanoid Robot Games, 世界人形机器人运动会)」というのがあるという話をききました。プログラムをみてみると、100m走、400mリレー、1500m走、5vs5サッカーなど、と書いてあります。
正直、人間のオリンピックのアスリートのような動きを今の人型ロボットができるとは思えませんが、それでも、それなりのことはできそうな気もします。もちろん「ぜんぜん動かない」という可能性もあるのですが、いずれにしても、初回ということですし、まずは観てみたい、と思うわけです。(期待と不安が半々ぐらい)ちなみに会場は北京冬季オリンピックのスケート場、期間は3日間、チケットは一番安いもので半日で2500円ぐらいで、それなりのお値段です。
100m走や障害物走などは、想像・期待以上のものでした。100m決勝は22秒ほどですから、人間の世界記録の2倍ちょっと。操作はラジコンものがほとんどでしたが、操作する人が走ってついていくのが精一杯な感じでした。
100m決勝。22.09秒。自分より速いかも。伴走する人は息きれてそう。
— akita11/JunichiAkita (@akita11) August 17, 2025
同じ機体でここまで差が出るんだなー。#BJdiary pic.twitter.com/vxhDcWeqEA
UnitreeやBoosterRoboticsなどが標準ロボットを提供していたようで、それを使っていたチームが多かったです。それがあることで、制御や学習などの動作の部分に注力できる(そして進化が加速する)という効果は大きいと思います。もちろん独自機構のロボットのチームもありました。
NHKロボコンとかだと競技内容に特化したメカで最適化するけど、汎用メカで学習するアプローチは学習ループ回せる汎用市販メカ+仮想モデルの方が有効なんかな。.@takumi_k_jpn 先生は学習生成動作が多そう、と。
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ただ身体性とセットなのでうまい人のフォームを学習させるだけじゃだめなんか。#BJdiary pic.twitter.com/5y7Jeo9JLw
100m障害は、一見、地味に見えますが、二足歩行ロボットにとってはかなり難易度の高い障害です。転んでしまうロボットもありましたが、なんとかバランスを保って完走するロボットが大半でした。よくこんな斜めのところ歩けるな、と。
100m障害#BJdiary pic.twitter.com/yzkEFuSeYp
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400mリレー。コーナーで内側に少し傾いてる。カーブめっちゃ難易度高そう。#BJdiary pic.twitter.com/BD7eOIz067
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その一方で、サッカーは、類似競技のRoboCupをこれまでにも観ていたこともあって、まあ想像の範囲内でした。ちなみにラジコンではなく、自立(自律)動作のみです。自分がRoboCupをやっていた2000年ごろとは、カメラの画像認識やそれに基づく自己位置推定(SLAM)の技術が劇的に進歩しているのも大きいんだろうな、と思います。あとはギヤがないDirectDriveモータの進化も大きいんだろうと思います。
2000年頃のRoboCup小型リーグっぽさある#BJdiary pic.twitter.com/Qp1GsNx6eL
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決勝になると、だいぶサッカーの試合っぽくなるな。たまに早いパスがでたりするし、オフェンスとディフェンスで分担してるようにみえる。#BJdiary pic.twitter.com/2BrH8WukJa
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表彰式、メダルはロボットに、花束は人に。#BJdiary pic.twitter.com/VaYyfauOFc
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全体を通して、何より感じたのは、「未完成のものであっても競技を実施することで、進化を促す場をつくったこと」の意義です。なんとなく、日本では「中国だとこういう場で失態を犯すと処罰される」というイメージを持っている人が多い気がしますが、それは偏見に基づいた、事実を客観視しない報道によるものが大きいと思います。日本でこの大会を報道したメディアもいくつかあるようですが、「ほらやっぱり失敗した」的な論調のものが多かったと聞いています。
しかし実際には、「人間の競技」のレベルには程遠いものであっても、競技の場を作り、そこへの参加をすることで、問題点をみつけて改良・進化へつなげる、ことが行われているわけです。そのような場がなければ、進化は起きません。そしてその進化は、計画通りに進むことはありえず、試行錯誤の積み重ねですから、「成功することを約束する」ことは不可能です。そのような場をつくる試みが、ここまで大規模に行政のバックアップを得て行われることは、私たち日本が見習うべきことだよなあ、と思います。つまり「選択と集中」ではなく「広く浅く」の参加を促す場をつくることの意義、です。
ちなみに大会終盤で、アメリカ人チームがインタビューを受けていて、司会者が「アメリカ人チームにHelloWorldといいましょう、HelloWorldはプログラミングで最初に書く言葉です」と言って、会場の人たち(もちろん大半が中国人)が一斉に「Hello World」といっているのは、とてもいい場面だなあ、と思いました。競技と技術に国境はないわけです。
