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アンチパターンから学ぶデザイナーOKRの在り方

ログラスアドベントカレンダー最終日を担当します。
デザイン部で部長をしております高瀬です。

本日はOKRの話。
ログラスは全社OKRで目標設計&評価が運用されており、各部・各チーム・個人もOKRで運用されております。
私はログラスに入社してから3年近く、チームOKRや個人OKR(メンバーも含む)を運用してきました。
全然だめだめな時もめっちゃうまく行ったときもありました。
今日はデザイナーのOKRの作り方について、失敗談を交えてご紹介したいと思います。

OKRや目標設計はビジネスモデル・組織構造の影響を強くうけるので、本記事は以下の前提で記載してます。

・BtoB SaaSのデザイン組織
・顧客はエンタープライズの企業が多数のため数字的なKPIは比較的少なめ

OKRの達成率ついて

OKRの細かい説明は省きますが、達成率に対する独特な捉え方だけ紹介します。通常のKPIとは異なり、OKRでは達成率70%を「良好な達成」と位置付けています。100%達成は「ムーンショット(非常に野心的な目標)」とし、目標設定を現実的な範囲に留めるのではなく、あえて高い理想を掲げることで組織の成長を促すという考えに基づいています。
ログラスもこの前提に立って目標と達成難易度を設計しております。

デザイナーOKRめちゃ難しい説

デザイナーのOKR設定が難しいと感じる背景には、開発プロセスにおける時間軸の問題があります。

多くの組織では、全社OKRや開発組織のOKRは直近3〜6ヶ月以内にリリースされる機能や製品が目標の中心となります。これは、具体的な成果を測定しやすく、組織全体のペースメイクとしても理にかなっています。

ですが、デザイナーの実際の活動サイクルは、このOKRの時間軸とは大きくずれています。デザイナーは開発チームがスムーズに実装フェーズに移行できるよう、製品やサービスの体験設計を前もって完了させておく必要があります。

開発チームが直近の実装に注力している間、デザイナーは1-3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月、場合によっては18ヶ月先の体験を探索し、設計を進めています。もちろん、四半期内(3ヶ月内)でディスカバリーからデリバリーに対応できる粒度の開発や課題があればよいのですが、基本的にプロダクトの開発は新しい機能や体験を追加していく傾向にあり、開発の粒度は大きくなりがちです。
特にBtoBの場合より顕著だと感じています。

組織全体の目標サイクルと、デザイナーの活動サイクルをいかにして整合させるか。ここがデザイナーOKRの難しいところだと感じてます。
次からは私が経験したアンチパターンを紹介していきたいと思います。

Case1:寄せ集めOKR
「そのムーンショットは本当にムーンショットか?」

開発組織が大きくなるにつれ、デザイナーは複数の開発チームと並行して仕事を進めることが多くなります。この状況でよくあるのが各開発チームと連動した目標を単純に束ねて一つのデザイナーOKRとしてしまうアプローチです。
私はこれを「寄せ集めOKR」と呼んでたりします。

開発チームとの連携がスムーズに進むため、プロジェクト推進力を強めるのには理にかなっています。しかし、このアプローチには大きく2つ問題があります。

デザイン組織としての一体感の欠如

基本的に各デザイナーがそれぞれの開発チームと連動したKRに取り組むことがメインになります。そのため、デザイナー組織としての横のつながりや連携が希薄になりやすく、デザイン組織として本当に達成したいことや、目指すべき高みが見えにくくなる傾向があります。

ムーンショットの定義

もう一つ問題となるのが、ムーンショットの定義です。
寄せ集めOKRで設計すると、クオーターの終盤でよく見られるのが「優先度の高いKR・APは完了していて、残されたタスクを完成させれば100%達成!」という状態になります。
ですが、本当にそれはムーンショットなのかと疑問に思うことが多々ありました。

残されたタスクを完了させることは確かに重要かもしれません。
しかし、クオーターの終盤では既により本質的な別の課題が見えていたり、次の大きな製品リリースに向けたユーザー体験の探索や、長期的な製品戦略の構築などがあったりします。
残タスクの消化をムーンショットと位置付けてしまうことは、本来の可能性を制限してしまう危険性があると感じています。真のムーンショットとは、単なるタスク完了の総和ではないのです。

※ただし寄せ集めOKRが完全にダメというわけではありません。会社・事業の状況に応じてプロジェクトの推進力をいつも以上に求められる場合もあります。そういう時には開発組織と連動したOKRの運用が適している場合もあります。


Case2:アンコントーローラブルOKR
「それは我々の成果か?」

2つ目のアンチパターンとしては、自チームでコントロールできない指標を目標に設定してしまうことです。目標やKRの抽象度が高かったり、不確実性が多く含まれる目標に対して発生しやすい傾向があります。

例えば、「チャーンレート(顧客離脱率)を◯%に改善」という目標にしたり、「ユーザー満足度の向上」などを設定するケースです。

これらの目標は、CSチームの質、製品の機能・体験、価格設定、競合状況など、デザインチーム以外の要因が大きく影響します。

  • デザインチームが優れたユーザー体験を設計しても、CSチームの対応が十分ではなく顧客が離脱

  • 逆に、デザイン面での課題があっても、優秀なCSチームのフォローにより顧客が維持

このように、最終的な成果指標が他の影響を強く受ける場合、デザインチームの努力と成果の因果関係が不明確になってしまいます。
効果的なOKRとは、チームが自らの努力で達成に近づけるものであり、その進捗や成果が明確に測定できるものでなければなりません。

Case3:進捗率=成果
「進捗100%完了ですが、成果はダメでした」

3つ目のアンチパターンは「進捗率=成果」という考え方です。
計画したアクションプランの達成度を測ることは重要ですが、それが必ずしも望ましい成果に直結するとは限らないことがあります。
例えば以下のような場合です。

・ユーザーインタビューを実施したが、本質的な課題発見に至らない
・プロトタイプを計画通り作成したが、実際のユーザーニーズとズレている
・定期的なデザインレビューを実施したが、製品価値の向上につながらない

アクションプランのトラップとして、OKR設定時に作成したアクションプランをこなすことに終始してしまう危険性があります。
そのため以下の観点に気をつける必要があります。

  • 進捗率はあくまでアクションプランの行動量として計測する

  • 進捗率とは別に成果の達成指標をしっかりと作る

  • アクションプランが本当にKRの達成に貢献しているか定期的に検証する

  • PJの推進にともない別のアプローチが見えてくることも多いため、アクションプランはアップデートしていく

とはいえ進捗率は「行動量」を測る重要な指標です。
例えば、日数経過率66%時点で進捗40%の場合、行動量不足が考えられOKRの達成に支障がでることがあったりします。
この時、進捗が進んでいない要因を確認し対処することがしやすくなります。

Case4:採用目標をOKRにする
「採用おわらへんねんけど」

4つ目のアンチパターンは採用目標をOKRに入れることです。
「デザイナーの採用」は多くの組織で重要な課題であり、デザイン組織の拡大においては特に重要なミッションとなります。
一過性であればいいOKRとして入れてもいいと思いますが、基本的にはOKRに入れず、採用目標として別で管理するほうが良いと思います。

理由としてはタイトルの通り明確です(笑

  • デザイナーが採用できなかった場合ずっと継続される

  • 組織の成長にあわせ、四半期ごとに「◯名の採用」という似たような目標が続く

組織の拡大は確かに重要な活動ですが、デザイナーのOKRとしては、常にプロダクトとユーザーに向き合った目標を主にすべきです。

デザイナーOKRの在り方

こんな感じで今までさまざまなアンチパターンを踏み抜いてきました。
そんな中、デザイナーのみんなが一丸となり背中を預け合って、OKRに取り組んで感じたことは「顧客や組織から求められるデザインや事業貢献は当たり前にやるよね。やらないってことは無いよね」という感覚でした。

だったらもういっそのこと、今までのOKRは当たり前品質でOKRに入れず成果評価として計測してしまおう。
そしてデザイナー独自で設計し、自分たちの手で動かせる目標をちゃんと作ろうという方針に落ち着きました。

分かりやすい例として、以下のような取り組みが挙げられます。

デザインシステムの構築と進化の推進
・デザイナーがコントロール可能な領域
・デザイン組織全体で取り組める具体的な目標
・製品品質の一貫性向上に直接貢献
・マルチプロダクト化に向けた開発効率の向上にも寄与

セルフオンボーディングツールをプロダクトに導入
・プロダクトのユーザーオンボーディングを向上させるためにデザイナーが推進して導入
・プロダクト開発だけではないユーザービリティの向上を目指す
・CSのオペレーションコストの削減に貢献

etc…

やることが増えるので難易度自体は上がるのですが、OKRの進めやすさは格段に上がりました。また組織全体からみたときも開発組織のOKR(当たり前品質)とは別に新しいアウトカムの創出などが得られます。
デザイナー独自でOKRを設計するメリットをまとめると以下の点があげられます。

①OKRのコントロール可能性

  • チームが直接的にコントロールできる領域に焦点を当てられること

  • 外部要因に左右されることなく、確実な実行と成果の創出がしやすくなる

②新たなアウトカムの創出

  • 開発組織や全社からみても+αのアウトカムの創出ができる

    • 開発コスト削減やプロダクトのUX向上など

③デザイン組織の一体感を作る

  • 普段はデザイナー単体、少数で動く事が多いが、デザイナー間のコラボレーション・コミュニケーションが活性化される

どうやって作るか

良いOKRを設計するには、組織の大きな方向性と現場の知見や意欲を適切に組み合わせることが重要だと考えてます。

1つは全社OKRや開発組織のOKRから展開されるトップダウンの視点です。ここでは、組織全体の方向性を理解し、組織全体として取り組むべき重点領域を特定していきます。
もう1つは、現場のデザイナーからの提案を集める視点です。日々の業務から見えている改善機会や、個々のデザイナーが感じている課題、そして挑戦したい領域などを集約します。

特に現場の課題ややるべきことを収集するのにワークショップを実施します。このワークショップでは、来期に取り組むべき必須のタスクだけでなく、デザイナー一人一人が挑戦したい施策についても自由にアイデアを出し合います。出されたアイデアの中からフォーカスすべき領域を決定していき、事業へのインパクトや実現可能性を検討しながら、全社OKRとの整合性を検討していきます。

ワークショップで次の四半期でやることを洗い出した図

プロセス全体を通じて、チーム内での十分な対話や他部門との協議を心がけることも重要です。このプロセスを通じて、デザイン組織としての一体感を醸成し、メンバーの一人一人が主体的に取り組める目標を設定することで、組織としての成長と個人の成長を上手く設計していくことが重要だと感じてます。


以上、アンチパターンから学ぶデザイナーのOKRでした。

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