普通鉄道として日本最西端の駅、たびら平戸口駅(長崎県平戸市)を抱える第三セクターの松浦鉄道(MR、同県佐世保市)。一つでも日本一があるのは誇るべきことだが、松浦鉄道には二つの日本一に囲まれている駅が存在する。(共同通信=大塚圭一郎)
▽出発後、わずか40秒で到着
新型コロナウイルスの感染が広がる前、大学時代の同級生と約11年ぶりに再会するために特急「みどり」で博多駅(福岡市)から佐世保駅(佐世保市)へ向かったことを本連載「鉄道なにコレ!?」の第5回「タダ乗りできるJR特急はこれだ!」でご紹介した。
佐世保駅の改札口で会った同級生は「MRに乗り、その後マイカーで九十九島湾を見に行こう」と提案してくれた。その言葉を聞き「あの佐世保市にある日本一を見せてくれるのだな」と察知した。
松浦鉄道で主力のディーゼル車両MR―600形が発車して2分後に着いた佐世保中央駅の先に、その名物はある。出発すると次の瞬間「間もなく中佐世保、中佐世保です」という自動音声が車内に響いた。緩やかなカーブを滑り出し、佐世保駅前を通る国道35号を高架橋で越えると早くも右側にプラットホームが見えた。佐世保中央駅を出発からわずか40秒余りで、中佐世保駅に着いてドアが開いた。
この佐世保中央―中佐世保間の距離は約200メートルと、同じ九州の筑豊電気鉄道の黒崎駅前―西黒崎間(北九州市)と並んで鉄道の駅間距離が日本一短い区間だ。しかも佐世保中央、中佐世保の両駅とも所在地はどちらも佐世保市島瀬町という同じ町内にある。
▽至近距離に駅を設けた理由
これほど近接した距離に駅を設けたのは、利用者拡大を目指した松浦鉄道の営業努力にある。北松浦半島の周囲を縫うように佐世保―有田(佐賀県有田町)を結ぶ路線は営業キロが93・8キロに上る。旧日本国有鉄道(国鉄)の不採算路線の第2次特定地方交通線に入っていた前身の松浦線は、1987年4月の分割民営化後にJR九州が1年運行後、88年4月に長崎県と佐賀県、佐世保市などの沿線自治体、地元企業が出資する三セク鉄道として再出発した。
距離が長い路線の中で利用者が比較的多く列車の運行頻度が高いのは、人口が約24万4千人(2020年4月時点)と長崎県第二の都市にある佐世保駅と佐々駅(長崎県佐々町)の間、そして焼き物の産地として有名な伊万里駅(佐賀県伊万里市)と有田駅の間だ。
そこで、佐世保側の利用を増やすため松浦鉄道発足から約2年後の1990年3月に佐世保中央駅を新設した。この駅はアーケード商店街「さるくシティ4○3アーケード」に隣接している。さらに大型商業施設「イオン佐世保ショッピングセンター」と佐世保共済病院には、それぞれ連絡通路で直通している。隣の中佐世保駅から足を運ぶ場合は国道35号の横断歩道を渡り、5分程度歩く必要があった手間を省く利便性拡大により、買い物や通院などによる鉄道利用者の増加を狙ったのだ。
▽利用者数は6位に
国土交通省がまとめた資料によると、佐世保中央駅の1日当たりの平均乗降客数(2018年度)は892人と松浦鉄道で6位。トップテン入りする駅の新設は成功だったと言えよう。200メートル先の中佐世保駅は21位で、平均乗降客数は205人と4分の1にも満たない。
佐世保中央駅を囲んでいるもう一つの日本一は、公募によって2015年に付けられたサブ駅名「日本一長い『さるくシティ4○3アーケード』の駅」が物語る。
アーケードの名称は、佐世保弁で「歩き回る」という意味がある「さるく」、このアーケードを構成する「四ケ町アーケード」の「4」、三ケ町アーケードの「3」、アーケードの途中にある百貨店「佐世保玉屋」の「○」を組み合わせて名付けたという。全長が約960メートルに達する屋根に覆われたアーケードには物販や飲食などの約200店が軒を連ね、雨の日も傘を差さずに買い物をしながら「さるく」(歩き回る)ことができるので便利だ。
ただし、同級生は「さるく」という言い回しについて「個人差はあるかもしれないが、 意味は分かっても日常会話ではあまり使ったり、耳にしたりしない言葉だと思う」 と指摘していた。
▽日本一長い、ただし条件付きで
しかし、サブ駅名を「日本一長い」でとどめ、「日本一長いアーケード」と記していないのには理由がある。日本一長い、ただし「屋根が続いている」アーケード商店街としての長さが日本一なのだ。
日本一長いアーケード商店街は大阪市の天神橋筋商店街で、複数に連なった商店街の総延長は約2・6キロに達する。店舗数も約600店と「さるくシティ4○3アーケード」の約3倍だが、途中の大通りで屋根が途切れているのだ。
冒頭で紹介した日本最西端のたびら平戸口駅も「普通鉄道として」と記したのは、 鉄道に分類されるモノレールを含めた日本最西端は沖縄県を走るモノレール「ゆいレール」の那覇空港駅(那覇市)になるからだ。ゆいレールは日本最南端の赤嶺駅(那覇市)も含めた“2冠”のタイトルを持つことで知られている。
松浦鉄道も普通鉄道として日本最西端の駅と、鉄道として最短区間という“2冠”ホルダーなのは同じだ。さらに、屋根が続いたアーケード商店街として日本一長い商店街にも隣接しているとあって「日本一」づくしだ。
その後、同級生が連れて行ってくれた九十九島湾は非政府組織(NGO)の「世界で最も美しい湾クラブ」に加盟し、紺碧の海と208の島々が織りなす絶景を味わえる佐世保市の名所だ。新型コロナウイルスの感染が収まった後は是非足を運び、数々の「日本一」と、世界屈指の「多島美」を堪能していただきたい。
【松浦鉄道】鉄道事業法に定めた普通鉄道として日本最西端を走る鉄道。本業の損益を示す営業損益は赤字が続いており、沿線自治体の補助金と国庫補助金が経営を支えている。2018年度の営業損益は1億1603万円の赤字となり、前年度の9204万円の赤字から膨らんだ。純利益は1650万円の赤字となり、前年度の1501万円の黒字から転落した。売上高は前年度比0・3%減の7億8465万円だった。
※「鉄道なにコレ!?」とは:鉄道と旅行が好きで、鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の執筆者でもある筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まりました。更新時期は不定期ですが、月に1回のペースを目指します。ぜひご愛読ください!