毎年90カ国以上が参加する、世界規模のミスコンテストの一つ「ミス・アース」。大会の目的として、美しさに加えて「地球環境保護の促進」を掲げており、国連機関もパートナーシップとして掲載されている。その趣旨に興味を持ったすみれさん(仮名)は、数年前に国内予選の一つ、東北大会に出場した。大会前に環境保護やSDGsなどを専門家に学ぶ機会もあり、「挑戦して良かった」と感じた。ところが、大会直後にその思いは裏切られる。全員参加のパーティーで出場者の女性たちはドレス姿のまま男性審査員たちの隣に座らされ、酒の相手をさせられることに。中にはセクハラを疑われる態度を取った男性もいたという。大量のフードロスを出す場面もあり、激しく幻滅。さらに取材を進めた結果、パートナーシップの一つとされた国連は「パートナーではない」と否定した。一体、どうなっているのか。(共同通信ジェンダー問題取材班)
▽大会前に環境問題やウォーキングを学習「少しずつ夢に近づいている」
仕事をしながら演技を学んでいたすみれさんがミス・アースの存在を知ったのは、2021年ごろ。登録していたオーディションサイトを通じ、日本代表の選考を運営しているという企業から「大会があるので出てみませんか」と勧誘を受けた。インターネットで調べてみると、環境問題を訴える女性のオピニオンリーダーを選ぶコンテストと書かれている。国連などがパートナーで、世界4大コンテストのひとつに挙げられているとも書かれていた。
もともと、環境保護や動物保護の活動、動物性のものを使わない「ヴィーガン」に関心があり、広めていける存在になりたいとも思っていた。この大会は理想的な場所だと感じ、東北大会への出場を決めた。ただ、気になる点はあった。運営企業からは「○○県代表として出てほしい」と伝えられたが、すみれさんはその県と縁もゆかりもない。迷ったものの、挑戦したいという気持ちが勝った。
大会ではドレスや水着の審査に加え、環境保護について訴えるスピーチ、質疑応答もある。それに備えて事前にオンラインレッスンを受けられ、専門家から環境問題やSDGsについて学んだ。さらに、魚の乱獲や家畜の虐待、アニマルウェルフェアやヴィーガン、フードロスについても自分で学びを深め、自腹でウォーキングの講習も受けた。トレーニングの様子をSNSで発信すると、たくさんの人から応援のメッセージが届き、勇気づけられた。環境問題に関心を持ってくれる人もいる。「少しずつ夢に近づいている」と感じた。
大会本番は「練習してきたことをやりきれた」と思った。受賞は逃したものの、環境問題について発信し、世の中を変えるために行動している「同志」ができた。嬉しかった。
▽全員出席のアフターパーティーで待っていたこと
大会終了直後の夕食はビュッフェ形式だった。この日までボディメイクのために食事を制限し、さらに当日はリハーサルもあって昼食を取る時間がなかったため、好きなだけ食べようと楽しみにしていた。ほかの出場者もたくさんの食べ物をプレートに載せ、さあ食べようと席に着いた瞬間、運営企業の担当者が大声で告げた。
「ディナーのあとのアフターパーティーの時間が早まったから早く行きなさい!」
みんなまだ食べ始めたばかりなのに、ひとり、またひとりとパーティー会場へと追い立てられる。テーブルには食べかけの大量の食事が残された。「環境保護を訴える大会なのにフードロスさせるなんて…」。矛盾を感じたが、担当者はかまわず「早く!」とせきたてた。
パーティー会場に着くと、テーブルとソファが並んでいた。テーブルにはアルコールなどの飲み物。審査員の多くは大会のスポンサーで、先に席に着いている。男性ばかりだ。運営担当者は、その中でも中心的な立場の男性の両隣に、グランプリと準グランプリの女性を座らせた。女性はみな大会の時のドレス姿。スポンサーの男性の1人が挨拶に立ち、こう述べた。
「グランプリに選ばれた人々の大会後のスピーチでは、運営への感謝は述べていたが、誰ひとりスポンサーへの感謝がなかった。大会はお金がなければ成り立たないのに」
スピーチが終わると、女性たちは審査員らにお酌をし、話し相手に。男性の中には出場者の腰に手を回している姿もあった。すみれさんは思った。「パーティーというより、キャバクラかクラブみたい」
▽ミスコンの実態「日本の縮図」
アフターパーティ-の異様さは、ほかの出場者たちも感じていた。礼奈さん(仮名)は会場に入った瞬間から「気をつけなきゃ、とスイッチが入った」と振り返る。部屋は照明が落とされ、ボックスっぽくなっているソファ席が見えた。銀座かどこかのクラブのようだと思った。「ここに座らされるんだ」と知り、直感的に危険を感じたという。周囲にはまだ未成年の出場者もいる。「年上の自分が気を配らないと、と思った」
終了後、別の出場者が困った様子でいたので話を聞いたところ、驚いた。この出場者は、あるスポンサーの男性から「普段はどこに住んでいるの?連絡先教えて?バイト先はどこ?」とたたみかけられてうまくかわせず、バイト先や最寄り駅を答えてしまったという。男性から「会いに行くね」とも言われたという。「『帰りは新幹線?一緒に帰ろうよ』と言われたら怖い」とおびえていた。
礼奈さんは「国連がサポートしているならきちんとしてるだろうなという安心感をもって応募した」。それだけに、大会を通して心底がっかりしたという。「これがミスコンの実情かと思った。男性ばかりの審査員に決められるのは疑問で『日本の縮図』だという気がした。二度と出ることはないだろうな」
他の参加者も証言してくれた。「帰ろうとしたが会場の出口には大会関係者が立っていて退席が許されなかった」「ホテルの部屋に来ないかと誘われた子がいた」「腰に手を回して2次会に連れて行こうとするスポンサーを見た」「連絡先を聞かれて答えてしまい後日電話がきて不快だった」
すみれさんも、大会が掲げる趣旨と、実態とのあまりの落差に幻滅したと話した。
▽国連と国連ウィメンは関係を完全否定
後日、運営会社にどう考えているのか取材すると、会社側は文書でこう答えた。
「お問い合わせのあった各事項につきましては、各事項に関する当事者の特定が著しく困難であり、ご指摘の各事項に関して事実関係の特定及び事実認定を行うことができません。ただ、出場者様の中で、大会運営に関してご不快のお気持ちを与えてしまったことに関しましては、当事務局の目が行き届かない点もあったと受け止め、謹んで心よりお詫び申し上げます(中略)このような事態が発生しないよう、当事務局スタッフ一同及び関係者に十分に注意喚起すると共に、スポンサー企業とも協力して健全で素晴らしい大会になるよう努めて参ります」
次に、世界大会のホームページに「パートナーシップ」として掲載されている団体に、ミス・アースとの関係や真意をメールで尋ねた。ホームページによると、パートナーシップには国連や国連ウィメン、世界自然保護基金(WWF)など、多くの国際機関が含まれている。
WWFジャパンは「ミスアースジャパン事務局とは、ここ数年、弊会スタッフが年一回ほど地球環境についてのお話をする機会を設けていただいております」と回答。パートナー関係については「本部に問い合わせ中です」だった。一方、国連と国連ウィメンはミス・アースとの関係を明確に否定した。国連ウィメンは「大会のパートナーではないし、私たちのロゴを使用する許可も出していない。この件について今後、アクションを起こすことも検討している」と回答。国連も「ミス・アースのパートナーではなく、無許可でロゴを使われた」「ロゴの悪用は違反行為であり、国連のリーガルオフィスはロゴを不正に使用した人に対処する」と答えた。 (この点についてミスアース世界大会の運営会社に問い合わせたが、20日現在、返信はない)
【編集後記】私も出場者の1人だった
当時、学生だった私もこの大会に出場し、パーティーの現場にもいた。もともとジェンダー論に関心があり、「ルッキズム」と批判されるミスコンの実態を見てみたいと思い、参加した。一方では農家の手伝いもしていたため、自然とともに暮らす持続可能な生活を発信したいと考えたことも動機だ。加えて、私の世代はコロナ禍で成人式などの式典もなかったので、率直に言ってドレスで着飾る経験をしてみたいとも思った。
現代のミスコンでは、スピーチを重視するなど外見以外のパーソナリティを評価し、オピニオンリーダーを選出することを掲げる大会が目立っている。実際、私も含めた出場者は、それを目指して環境問題への理解を深め、意見を発信する力や、国際的なリーダーとしての振る舞いを習得すべく訓練していた。健康的な食事や筋トレなどの努力をして大会に備え、スポーツや芸術の大会にも通じる点があるとも感じた。環境問題の講師や出場者など、なかなか出会えない人と交流もでき、貴重な経験だったと感じている。
知り合った出場者たちと話すと、ミスコンに対してポジティブな面も感じていた。 「1年間自分と向き合いトレーニングした。地元への愛も深まり良い機会だった」「ミスコンを通じて人としての可能性が広がったと実感している。批判も多いが、良さも伝えたいと思っている」「普通の会社員をしていたら会えないような人に出会い、考え方も多様になった。美容も楽しめるようになり人生が豊かになった」
それだけに、アフターパーティーやフードロスは、ほかの出場者だけでなく私も失望した。ただ、今回の件は氷山の一角かもしれない。2018年のミス・アースの世界大会では複数の参加者が、スポンサーから繰り返し性的な要求をされたとSNSで告発している。
現在はミスコンも多様化し、オンライン上での大会ができるなど気軽に参加できるようになっている。体験した1人として、出場して傷つく女性を増やしたくないと考え、取材した。