500枚描いても月収10万円 アニメ業界の縁の下の力持ち「動仕会社」が月18万円の“異例”求人票を出したワケ(1/5 ページ)
「動仕」って何なのか、動仕会社に聞いてきました。
日本で作られるアニメのほぼ全てに参加している“動仕会社”ってご存知でしょうか? アニメの絵はアニメーターが描くもの――というのはほとんどの人が知っていますが、最終的にわれわれ視聴者が目にする“絵”や“線”が、「動仕」という工程を挟んだものだということはあまり知られていない気がします。
「動仕」とは読んで字のごとく、「動画」と「仕上」のこと。アニメ制作における動画とは、原画をクリーンアップ(色を塗りやすいように均一な線でなぞる)して、原画と原画の間に中割の絵を加えることを指します。仕上はその動画をスキャンし、彩色を施すこと。
つまり、原画の線は通常そのまま完成画面には使用されず、一度動画の線でなぞったものが、仕上げ用のデータに変換されて最終的な画面に出ます。どんな神原画だったとしても、元の線や動きが拾えていなければ台無しに。そんな重要な部分を担っているのが動仕であり、その工程を専門に請け負うのが動仕会社です。
動仕会社はそんな絵素材の最終工程を請け負う重要なポジションであるにもかかわらず、一般の知名度は高くありません。ところが先日「reboot」という動仕会社がTwitter上に動画アニメーターの求人票を掲載し、にわかに注目を集めました。その額、固定給で18万円〜。
新人アニメーターの登竜門という扱いになりがちな動画職は薄給で知られ、JAniCAの「アニメーター実態調査2019」によると、その平均年収は125万円。125万円を月給換算すると約10.4万円になるので、18万円というのは業界的になかなかの額です。
恥ずかしながら筆者はこのツイートを見るまでrebootの社名を知りませんでした。ところが作品歴を調べてみると、「ポケットモンスター」「呪術廻戦」「ハイキュー!! TO THE TOP」「アサルトリリィ BOUQUET」「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle- Rhyme Anima」と、現在放送中の作品だけでもごろごろ。さらには最近の社会現象級のタイトル「鬼滅の刃」「天気の子」などにも参加していました。公式サイトによれば、設立は2014年。一般に知られていなくても、確かな実績のある会社です。
rebootはどんな意図があり、あの「異例の求人」を打ったのでしょうか? いやその前に、そもそも動仕会社ってどんなところなの? そんな疑問を、同社代表の浅沼薫さんと、人事部長の坂本洋さんに聞いてきました。
生活基盤がクオリティーを担保する
――動仕は通常1枚いくらという歩合制。それを固定給で採用しようと思ったのはなぜですか?
浅沼 固定にしようというのは僕の考えです。アニメスタジオではなぜか制作進行は社員化されるのに、なぜ技術職である動画アニメーターが実際の枚数だったり、成果物でしか評価されないのかなと。
例えば動画単価が1枚200円だとすると、500枚描いてやっと10万円の収入になります。今のアニメのクオリティーで1カ月に500枚描くのって、はっきり言ってかなり難しい。
――新人さんは特に難しそうですね。
浅沼 新人に500枚は絶対に無理です。この業界は、そうやって作業者の夢や希望を食いつぶして生きながらえてきたと思っています。でも、生活基盤がしっかりしてないと良い仕事はできない。この基本部分をどこもやってないのは不思議じゃないですか。うちは単にそこをやっただけで。業界外の一般的な感覚でいえば、これでも額としては低いですよね。
――これまでその基本ができなかった理由はなんなのでしょうか?
浅沼 もちろん制作予算が低いから。もし固定にしてしまったら多く人を雇えないので、生産量が上がらない。年間2人とかしか雇えなくて、しかもその人達が辞めちゃったら教えたことも全部ダメになってしまう。会社としてなかなかリスクが取れないのは自然です。
リスクがあるのはうちも同じですが、そこは割り切って行くしかないなと。海外動仕※で利益を生み、それを日本のクリエイターに投資していく。日本に仕事を戻していく流れを生んで行きたいと思ったんです。
※動仕作業は国内でも行われますが、中国や韓国など海外での作業はより安価で、物量が圧倒的。海外動仕の物量がなければ、現在放送されている大量のアニメを作り切るのは不可能だといわれています。
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