存在しないはずの“むつ小川原コイン”の謎を追う 「陸上自衛隊で購入した」情報提供者が出現、八戸駐屯地を取材
「異世界の硬貨っぽい」と話題になっている“謎コイン”の続報です。
「父(82歳)が購入した木箱入りのものが2枚あります」――。2020年1月5日に記事を掲載して反響を呼んだ、「むつ小川原国家石油備蓄基地開発事業記念」と書かれた金色のコインについて、読者から新たな情報が提供されました。なんと入手先は陸上自衛隊。
「むつ小川原国家石油備蓄基地開発事業記念」コインとは
「むつ小川原国家石油備蓄基地開発事業記念」コインとは、直径は約40ミリ、厚さは約2ミリ、重さは25グラム程度のコイン。表面が金色に輝いているのが特徴で、500円玉と比べると二回りほど大きく、表面には石油タンクや煙突などがデザインされており、裏面には「日本国」「千円」の文字とともに、青森県をイメージしているとみられる県の形や青森県の県鳥「白鳥」が描かれています。
Twitterユーザーのハリジャンぴらの(@harizyan_pirano)さんが投稿したことからネット上で話題となりましたが、財務省は「いわゆる貨幣ではない」、造幣局は「発行の記録がない」とねとらぼの取材に回答したほか、コインに描かれている「むつ小川原国家石油備蓄基地」の統合管理業務を行う、石油天然ガス・金属鉱物資源機構「JOGMEC」の担当者は、コインの存在自体は把握していたものの、当時の関係者に心当たりがなかったことからこのコインを「10年、20年に一度、忘れたころに現れる亡霊のような存在」と評価するなど、謎が深まっていました。
その後筆者はこのコインの持ち主を捜索。持ち主の1人が「家族旅行の際に通りがかったむつ市にあった食堂(ドライブインの可能性がある)で展示されていたコインを見つけた」という記憶を持っていたため、むつ市周辺に現存する食堂に片っ端から連絡を取るなどしたほか、都内の専門家立会いの下、コインの成分分析を行い、「蛍光エックス線分析(エネルギー分散型)」を実施し、コインが「真鍮製のコインにニッケルが下地の金メッキ加工を施したもの」であることは判明しましたが、誰が何のためのこのコインを作ったのか、出どころはどこなのかを突き止めることはできませんでした。
「自衛隊員だった父が購入した木箱入りのものが2枚あります」、新たな情報提供者を取材
1月掲載の記事では、同コインについての情報提供を求めていたものの有力な手掛かりは得られず、月日だけが流れていきました。そんな中、事態が動いたのは3月初旬のこと。
「私の実家に、当時自衛隊員だった父(現在82歳)が購入した木箱入りのものが2枚あります」と情報提供の連絡が入ったのです。添付されていた画像には、確かに木箱入りの謎コインが2組写っており、金色に輝くコインの様子から、かなり保存状態が良いことがうかがえました。
コインの持ち主は、かつて陸上自衛隊八戸駐屯地で勤務していた情報提供者のお父さまで、2019年秋ごろに実家を整理していたときに発見されたものだと言います。
――コインの入手経路について詳しく教えてください。
情報提供者:自衛官だった父(現在82歳)が、当時勤務していた八戸駐屯地内で購入したものです。価格は額面通り1000円だったとのことです。
――自衛隊ですか!? どういう状況で販売されていたのでしょうか。
情報提供者:父も詳細は覚えていないのですが、当時は八戸駐屯地内で保険の勧誘などが頻繁にあり、同じような形で何者かによって購入希望者が募られ、部隊ごとに取りまとめて注文が取られたと言っています。ただ一番肝心な「何者」かについては覚えていないとのことでした。
――当時、お父様以外にもコインを購入された方はいらっしゃったのでしょうか。
情報提供者:はい、結構な人数いたそうです。コインのクオリティーを見た購入者からは「これは本当にお金なのか否か?」という話が当時から出ていたそうです。
――当時コインを購入した人と連絡が付いたりしますか。
情報提供者:難しいと思います。一応当時別の部署にいた父の友人に確認したところ、「全く知らない」とのことで、駐屯地全体で情報が共有されていたわけではないかもしれないということが分かりました。
――購入時期については分かりますか。
情報提供者:当初は「昭和35年から昭和50年代までの間」と記憶に幅があったのですが、仮に昭和35年ごろだったとすると、父は20代前半ということになります。当時の自衛官のお給料が1万円前後だったということですから、物価などを考えたとしても、2000円も出してこういうものを買うかは疑問です。
「むつ小川原国家石油備蓄基地」の設立は昭和54年とのことで、1月の記事で紹介されていた「ドライブインでコインを購入された方」も昭和50年代に購入された方も昭和55年前後に入手したと話されていましたので、やはり昭和50年代というのが有力なのではないかと思っています。
この情報をもとに、ねとらぼ編集部ではTwitter上で「昭和31年〜60年(1985年)頃に陸上自衛隊八戸駐屯地にお勤めだった方を探しています」との情報提供を求めました。すると元自衛官を家族に持つ数人から連絡がありましたが、ほとんどの場合、ご家族が亡くなっており詳しい情報は分かりませんでした。
中には、先の情報提供者と家族が同じ部隊で勤務していたという人からの連絡もあり、「実家にもしかしたらこのコインがあるかもしれません。今度戻ったときにでも確認してみます。なんだか見覚えがあるよう気がするのです」との状況も寄せられましたが、5月時点ではそれ以上の情報は寄せられていません。
続いて連絡したのは、陸上自衛隊八戸駐屯地。広報の担当者に事情を話したところ、非常に真剣に話を聞いていただくことができ、情報提供者のお父様が所属していたという部署は間違いなく存在していたことが分かりました。一方で、コインについては「作成した記録が見つからず、購入者を求めた者という記録についても残っておりませんでした」との回答が寄せられ、誰が何のためにコインを八戸駐屯地で販売したのかは分かりませんでした。
ネットオークションでコインの価格が超高騰
その後も情報収集を続けていたところ、4月にはネットオークション「ヤフオク!」で同コインが出品されているのを発見しました。あわよくば筆者自身が落札しようと思っていたのですが、価格はぐんぐん上がっていき、最終的には別の方が2万1500円で落札されました。これまでは数百円から数千円で落札されることが多かったコインですが、今回は2万円超えとかなり高騰しているようです。ねとらぼ編集部はこのコインの出品者と落札者、双方に連絡を取り、お話を聞くことができました。
オークションの出品者は青森県にある質店。「八戸市内の民家にて遺品整理の際に出てきた品を引き取った」と話してくれましたが、詳しいことについてはよく分からないとのことでした。
このコインの購入者は、KTOさん。YouTuberとしても活動しており、動画内でコインを紹介するために購入したとのこと。これまでいくつか大判古銭を調べてきたとのことで、「謎コインの特徴の一つである、“淵がドットで囲まれている”というのは、約100年前の中国の大型古銭にも割とよく見られる特徴みたいです。もしかしたら中国の大型古銭のレプリカを作る技術が謎コインの製造にも用いられたのではないかという可能性を感じています」と情報を提供してくれました。確かに大きさや側面のギザギザした感じも似ているように見えます。
ここまでで分かった情報を整理してみましょう。
むつ小川原国家石油備蓄基地開発事業記念コイン
- 直径は約40ミリ、厚さは約2ミリ、重さは25グラム程度(500円玉と比べると2回りほど大きい)
- コイン自体には表面に「むつ小川原国家石油備蓄基地開発事業記念」、裏面に「日本国」「千円」の打刻
- 桐箱には「むつ小川原湖国家石油備蓄開発建築事業」と打刻されている
- コインは真鍮製で金メッキ加工を施したものとみられる
- 東北〜東日本の間で出回っている
- デザインの一部は既存の記念コインを模していると考えられる
- 昭和50年代ごろに自衛隊八戸駐屯地内で何者かが販売(販売価格は額面通り1000円)
- 自衛隊八戸駐屯地にコイン製造の記録や販売の公的な記録は残っていない
- 100年前の中国の大判古銭のレプリカ技術を使って製造した可能性がある
- 誰が何のために作ったコインなのかは2020年5月17日現在不明
2019年10月から約半年にわたって調査・取材を進めている「むつ小川原国家石油備蓄基地開発事業記念」コインですが、いまだ真相解明には至っていません。
筆者は昭和56年にむつ小川原開発から発行された資料「十年の歩み」を入手し、現在も取材を継続中ですが、先の情報提供者が「情報が出づらいのは局地的なこともあると思うのですが、購入した層や関係者が私の父ぐらいの世代だとすると、おそらくネットに疎遠であったりご存命の方が少なくなっていたりするのもあるような気がしています」と語る通り、有力な情報が集まりにくい状態が続いています。
謎コインについての情報を引き続き募集しています
「コインを見たことがある」「家族が昭和50年代ごろに自衛隊八戸駐屯地で勤務していた」など、何かご存じのことがあればねとらぼの公式TwitterにDMでご連絡ください。有力な情報には返信させていただきます。
(Kikka)
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