このボディがゴロンと一体で出てくるのが、タミヤのポルシェ911ターボ最大の美点だと思う。まるで聖書の冒頭で神様がこの世をまるごと作ったように、ポルシェ911というアイコンが100%完成した状態で突如として現れ、「ああオレはもう絶対にポルシェ911を手に取れるんだな」という、絶望的なまでの安心感がそこにある。艶めかしく張り出したフェンダー、そこに走る美しいハイライト。愛称にすらなった前後のバンパーに、巨大なリアウイング。完成せずとも、完成しているではないか。
ウインドウや灯火類のクリアーパーツを除けば、残るパーツはたったこれだけ。もとは1980年代に発売された「ポルシェ911ターボ・クーペ フラットノーズ」という接着剤不要のキットをベースにして、ボディだけを2000年代に新造したプラモなので、シャーシとボディの生年には親子ほどの隔たりがある。
水平対向6気筒のエンジンはシャシ裏に彫刻されていて、ステアリング機構もいっさいなし。組みごたえがほしければ世の中にゴマンとあるいろんな911のプラモデルから好みのものを選べばいい。ポルシェ911のスゴいところは、アイコニックなボディのデザインを大きく変えずにクルマとしてのありかたを進化させてきたところ。ルックはそのまま、フィールを変えて人々に新しい感動を与え続ける。それってまるで、プラモデルのようじゃないか。
ボディがワンパーツだから、バンパーやリアウイングの塗り分けはかなり難しい。事実、インターネットでこのプラモデルの「レビュー」を見ると、マスキングの難しさ、塗装の大変さだけをクローズアップしたものが多い。このプラモデルのスゴいところは置き去りだ。このボディだけが机の上に置いてあったって、誰がどう見ても911だろう。塗ってもいいだろうけど、塗ってしまったらこの美しいボディがワンパーツだったという奇蹟は消えてしまうじゃないか、とも思う。
ホイールでおしゃれをしたいな、と思ってアオシマのチューンドパーツからBBS RXの18インチをチョイス。ホイールアーチにフィットしたタイヤの存在感がポルシェの迫力をぐっと出してくれる。箱を開けた瞬間から、ユーザーがポルシェを作る上でいちばん目にしたいであろう「完成したボディがそこにある」ということが、あまりにも素晴らしい。それ以外のところが信じられないほど簡素なのもまた、素晴らしい。
誰もが知っているモチーフを、必ず手にできる。誰が箱を開けても、何度開けても、「なんてことだ!」と驚けるようなプラモデル。タミヤの911ターボはそのもっとも具体的な例として、いつでも模型店の棚で貴方を待っている。