財産権の侵害でないの?:休眠預金「活用」

他人様の金を勝手に徴収して有効活用ってどういうこと?

そういえば以前もこの話があった。検索してみると2012年2月ごろにこの話に関する解説記事がたくさんあった。

金融機関は最後に預金を出し入れした日から10年以上経過し、預金者と連絡が取れなくなったものを休眠預金としている。最後の取引から5年経つと、預金者の商法上の財産権は失効する。ただ、実際は預金者から請求があれば銀行は払い戻しに応じている。正確な統計はないが、毎年800億円、1千万口座の休眠預金が発生し、そのうち300億円前後が払い戻されている。政府案でも請求があれば払い戻す仕組みを検討するが、運営方法はまだ不透明だ。

管理費用も膨大になる恐れがある。現在日本には12億超の預金口座があり、休眠口座も億単位で存在する。休眠預金の活用への同意の有無や本人確認など関連情報を管理するにはシステム整備コストが膨らむため、銀行界は慎重な姿勢だ。

海外では休眠預金を政府や第三者機関が管理し、活用している国は少なくない。ただ、日本の場合、預金者の財産権の侵害という問題に加え、口座の総数が海外に比べてはるかに多く、休眠預金の洗い出しにコストがかかるなど、活用には課題も多い。

韓国では政府が監督する管理財団に寄付した上で、福祉事業者の支援などに活用。アイルランドでは基金に移し、障害者支援や貧困対策に利用している。英国でも専用の基金に移され、払い戻しに対応するほか、資金の一部を社会的組織への援助などに使っている。米国では州によって対応が異なるが、実質的に州の資産となる。
〜中略〜
活用に踏み切った国では、金融機関が利益として処理することに国民からの批判が強まったことがきっかけとなった。ただ、最終的に預金者に払い戻される割合が海外では1〜2割なのに対し、日本では4割以上と多く、口座管理費も含め、利益は小さいとみられる。国内の口座数も日本は約12億口座に上るのに対し、韓国や英国は1億5千万口座程度と少ない。全国銀行協会の永易克典会長は「費用対効果をきちんと詰める必要がある」と指摘している。

銀行は商法でいうところの商人であり、銀行預金は商事債権にあたる。そのため法律上は、権利を5年間行使しないと時効が成立する。一方、同じ金融機関でも、信用金庫や労働金庫、信用協同組合などの共同組織系は商人ではないため、消滅時効は通常の債権と同じく10年間だ。
〜中略〜

ただし、これは理論上の話にすぎない。消滅時効を迎えた債権は実務上、債務者が援用(時効の効果を得るという意志表明)することによって消滅する。つまり時間が経てば自動的に預金を引き出せなくなるのではなく、銀行が「時効なので支払いません」といってはじめて債権が消滅するわけだ。ところが銀行は基本的に時効の援用をしない。そのため、預金口座を5年以上放置した後でも預金者は自由にお金を引き出せる。
〜中略〜

では、なぜ銀行が休眠口座の預金を自分のものにしているという誤解が広まったのか。それは会計上の債務と法律上の債務の考え方に違いがあるからだ。企業会計には、引き出されていない預金を債務として扱うのはおかしいという考え方がある。そのため会計上は資産として扱うことになり、銀行のものになったように見えてしまうのだ。放置した預金が銀行のものになっていないことは、実際に休眠口座を利用すればわかる。とくに手続きすることなく、普通に預金を引き出せるはずだ。

この点、休眠預金を一元管理する諸外国の例では、預金の確認は当該管理機関に行うだけで足り、また現地に赴かずとも引出しが行える制度が整えられていることが多い。また、一元管理機関が未導入の先でも、例えば英国の例では、英国銀行協会や英国建築貸付組合協会が、休眠預金にかかる照会サービスを提供し、預金の存在確認が容易に行える仕組みが存在する。自己名義の預金だけでなく、親族から残された預金が存在するかどうかが全く不明な場合でも、これらのサービスを利用することで、自分が権利を持つ預金の存在を確認出来る。
(4. (1) 休眠預金の扱いにおける諸外国の共通点より)