消費税引き上げ見送りや増税分バラマキで何が起こるか
解散にともなう衆院選を前に、再来年10月に予定されている消費税引き上げ分の使い道をめぐる議論が活発となっています。政府は増税分の中から2兆円ほど子育て支援や教育無償化などにまわし、財政再建は先送りする計画のようです。
一方で、野党の中には増税そのものを先送りすべきだとの声も根強く残っています。教育無償化へのバラマキや増税先送りの結果、何が起こるのでしょうか。
増税先送りで何が起こるか
結論から言うと、バラマキや増税先送りの結果、サラリーマンの社会保険料の天引きが増えることになるでしょう。なぜか?過去を振り返ると実際そうなっているからです。97年に5%に引き上げて以来、消費税は2014年の8%引き上げまでずっと据え置かれてきましたが、その間もほぼ一貫して社会保険料はジリジリ上がり続けています。2003年と比較しても7%超のアップですから、2%引き上げなんて可愛いものですね。
ですから今回の消費税引き上げ議論というのは正確に言うと
「引き上げ分は予定通り社会保障に使おう」
「いやいや、引き上げ分は子育て支援や教育費などにばらまき、足りない分はサラリーマンの天引きを増やそう」
「いやいやいや、引き上げ自体を先送りし、サラリーマンの天引きを増やそう」
という三者三様の議論というわけですね。どれもぱっとしませんが、実に30%ほど社会保険料を徴収されている現状を鑑みれば、筆者なら1番目が一番マシに思えますが。
事業主負担というトリック
と書くと、恐らく一部の人はこう考えるのではないでしょうか。
「社会保険料約30%といっても、その半分は労使折半の名のもと、会社が負担しているのではないか」
確かに、厚労省の建前上はそうなっています。
ただし、実際には会社から見れば、事業主負担の多くも人件費としてみなされるものです。
たとえば、月給50万円の人がいて、社会保険料16万円を労使折半とした場合。※
従業員からみれば社会保険料負担8万円の手取り42万円とは別に会社が8万円ほど払ってくれていると映るかもしれません。
でも現実には、会社はその従業員のために58万円を負担し、うち16万円を社会保険料として天引きしているだけのこと。少なくとも従業員は58万円分以上の働きを求められているわけですから、その社会保険料をだれが負担しているのかは明らかでしょう。
ちなみに諸外国では、自営業者の保険料は雇用労働者の保険料+事業主負担相当の水準に設定されているケースが珍しくありません。事業主負担を負担しているのは雇用労働者自身だという分かりやすいスタンスですね。
まとめると、現状、サラリーマンは社会保険料を隠れ蓑としてものすごい負担をさせられており、来年の消費税2%引き上げをどうするかなんていうのは大した意味がないこと。そして、毎年約一兆円超のスピードで増え続ける高齢者向け社会保障(現在の社会保障給付費は約118兆円ですが、10年前は約90兆円)にメスを入れない限り、たとえ共産党が政権を取ったとしてもこの状況は変わらないということです。
ちなみに、筆者の提案は、“天引き”というシステムそのものを無くすことです。毎月、“事業主負担分”と本人負担分の保険料を併せて十数万円、自分で窓口に納めにいくようになれば、専業主婦の皆さんも「何でうちの夫の社会保険料って毎年こんなに上がるのよ。だったら高齢者やニートからも取れる消費税の方がはるかにマシじゃない」という当たり前の事実に気づくでしょうから。そこからようやく公平でクリアな負担の議論がスタートするはずです。
※わかりやすくするために厚生年金と健康保険料のみ。
※グラフは厚生年金保険料率と健康保険料(健保協会平均、含む介護保険料)の計。実際は児童手当拠出金と雇用保険料が加わるため30%を超える。