トランプ勝利で12兆円以上のビジネスチャンス!ただし、米国以外
今月行われた米国大統領選で勝利し、次期大統領となるドナルド・トランプ氏。米国のジョン・ホプキンス大学ネットゼロ産業政策研究所が発表したレポート(関連情報)によれば、地球温暖化対策に否定的なトランプ氏が再生可能エネルギーや電気自動車等の振興策を撤回することで、米国は最大で500億ドル(約7.5兆円)の輸出収益を失う可能性があるという。反面、日本を含む世界全体では、米国に替わって脱炭素/温暖化防止関連の事業を行うことで、800億ドル(約12兆円)の投資機会を得るのだという。
〇トランプ氏の反温暖化防止政策で米国は一人負け
バイデン政権が2022年8月に成立させたインフレ抑制法(IRA法)は、実質的に温暖化対策を軸としたものであった。同法では、太陽光パネル、風力タービン、バッテリーなどを製造するための設備投資への税額控除、化学、鉄鋼、セメントの工場などで大気汚染を削減するための設備の導入に対しての税額控除、電気自動車の購入時の税額控除など、様々なかたちで温暖化対策に対する税額控除や還付金などを盛り込んだ。上述のネットゼロ産業政策研究所によれば、このIRA法は、米国内で2000億ドル(約30兆円)以上の再生可能エネルギー関連の投資を創出したのだという。
しかし、次期大統領のトランプ氏は、そもそも温暖化の事実に対し懐疑的で、IRA法の廃止或いは修正するのではないかと、各メディアやアナリスト等から予想されている。また、同様に再生可能エネルギーや電気自動車関連に財政支出する超党派インフラ法(BIL法)も廃止するかもしれない。ただし、こうしたトランプ流の反温暖化対策の政策は、「米国第一主義」と看板とは裏腹に、米国の産業・経済に悪影響を与えるだろう。
上述のネットゼロ産業政策研究所のレポートでは、米国がIRA法を廃止した場合として、
「米国の製造業と貿易に損害を与え、中国などの主要な米国の競争国を含む他の国々に最大800億ドルの投資機会が生まれる。米国の損害は、工場の喪失、雇用の喪失、税収の喪失、最大500億ドルの輸出の喪失という形で現れる」
と予測している。これはトランプ政権がいくら温暖化政策に否定的であったとしても、世界的な脱炭素の潮流は変わることはなく、国際エネルギー機関(IEA)が予測するように、また革命的なコスト改善を遂げた太陽光発電が、今や世界のほとんどの地域で火力発電や原発より競争力があるからである。
*引用の投稿は、米国ローレンス・バークリー国立研究所の白石賢司さんによるもの。
IRA法の廃止で米国企業による再生可能エネルギー・電気自動車関連の事業が停止することで、米国内や世界での米国企業が占めていたシェアを他の国々の企業が奪う事になると、ネットゼロ産業政策研究所は結論付けている。
〇トランプ氏の反脱炭素で中国の市場支配が進む
仮にトランプ新政権がIRA法を撤廃した場合、とりわけ中国は笑いが止まらないであろう。ネットゼロ産業政策研究所のレポートによれば、昨年1年間だけで中国が達成した太陽光発電の設備容量と電気自動車の販売台数は、米国の過去30年間のそれを上回るのだという。実際、電気自動車のシェアランキングのトップ10で、その内のシェアトップ10のうち、1位も含め4つが中国系メーカー。純粋な米国企業でトップ10入りしているのは、イーロン・マスク氏が率いるテスラ社だけである(GM incl.Wulingは中国系企業と米国企業GMの合弁会社)。
なお、ネットゼロ産業政策研究所によれば、IRA法撤廃による影響として、太陽光発電、電気自動車、バッテリー/蓄電池でのシェア確保で日本にもチャンスがあるとのこと。
IRA法の廃止は米国全体としてだけではなく、共和党の支持率の高い地域への弊害も大きい。ネットゼロ産業政策研究所によれば、IRA法の施行以後、発表または計画されている投資プロジェクトの70% 以上が、共和党の強い地域で行われているとのことだ。トランプ氏を支持した結果、地元への投資が失われるとすれば皮肉なことであるが、共和党内でもIRA法の廃止に反対する声はある。ただ、そうした声にトランプ氏が耳を傾けるかは不透明だ。
〇チャンスか没落か、日本も問われる姿勢
トランプ氏が大統領職に返り咲くことで、米国の温暖化対策が後退するのではという予測は日本のメディアの中にも見られるが、実際には第一次トランプ政権(2015年~2020年)においても、米国の再生可能エネルギーは増加していたし、石炭火力発電は急減していった。確かに米国企業の活動は鈍化するかもしれないが、既に述べてきたようにプレイヤーが変わるだけである。そのような視点からも、自然エネルギー財団がその声明(関連情報)で指摘していることは、極めて重要だ。
「今回の大統領選挙の結果を受けて、日本での脱炭素化のテンポを緩めることが許されるなどと考えるとしたら、気候危機克服に向けた日本の責務に関してだけでなく、日本経済の国際競争力強化の観点からも、大きな過ちをおかすことになる」
日本においても、政府や自治体、企業の関係者らはトランプ政権による影響を見誤ることなく、道義的にも経済的にも正しい方向に尽力すべきであろう。
(了)
取材協力:Global Strategic Communications Council