『R-1グランプリ 2022』審査員・バカリズム、激戦に拍車をかけた「トップバッター84点」の衝撃
3月6日に開催されたピン芸のナンバーワン決定戦『R-1グランプリ 2022』(カンテレ・フジテレビ系)は、弾き語りネタを披露したお見送り芸人しんいちが優勝を飾った。
今大会はファーストステージで、しんいち、吉住、渡部おにぎり(金の国)の3人が463点で2位に並ぶという珍事が起きた。さらに首位でターンしたZAZYの得点もわずか1点差の464点。ファイナルステージには、審査員の決選投票でしんいちが勝ち上がり、ZAZYと争うかたちとなった。
バカリズムの独自採点、同点数なしで1点差順に並べる
『R-1グランプリ 2022』の激戦に拍車をかけたのが、審査員をつとめたバカリズムの存在だ。以前から『R-1』の審査員待望論が強かったバカリズム。その採点は予想以上に独自性を発揮したものだった。
まず興味深かったのが、ファーストステージでバカリズムだけが審査員で唯一、8名の出演者に対してひとりとして同点数を付けなかったところだ。
陣内智則は90点を2名に、小籔千豊は94点を3名、92点を2名に、野田クリスタル(マヂカルラブリー)は96点を2名、90点を2名に、ハリウッドザコシショウは91点を2名、90点を3名に付けた。
しかしバカリズムは、吉住に91点、渡部おにぎりに90点、しんいちに89点、サツマカワRPGに88点、Yes!アキトに87点、ZAZYに86点、寺田寛明に85点、Kento fukayaに84点という風に、1点差順できれいに8名を並べた。彼のなかで順位付けをおこなっていたのだ。
また、最高点と最低点の点数差は7点。これは審査員5名中、最大点数差である。ファーストステージでは1点の差が明暗を分けたことから、バカリズムの点数の付け方が影響を落としているように思える。いずれにしても、バカリズムらしい特徴的な審査となった。
無意識的に持つ「基準は90点」を壊した、衝撃の「84点」
何より視聴者に衝撃を与えたのが、トップバッターのKento fukayaに84点を付けたところだろう。
『M-1グランプリ』などの賞レースの審査では、100点満点の採点の場合、「基準は90点」が暗黙の了解のようになっている。また、トップバッターは場が温まっていないなかでネタをおこなうことから不利とされており、審査員も1番手の評価については探りさぐりとなる。ここで高得点を付けると、それを上回るネタが出てきた場合の審査が大変になる。ただ、トップバッターという出順の難しさを考慮すると、よほどでなければ極端に低い点数も付けづらい。
そういったことから90点を目安にする傾向がある。今回の『R-1』でも、ハリウッドザコシショウ、野田クリスタルがKento fukayaに90点を付けて審査をスタートさせている。
さらに番組冒頭の審査員紹介時、小籔千豊が「全員、ほんまは99点。でも差をつけなきゃいけないから」とコメント。決勝の舞台に立つこと自体、高得点に値すると言い表したばかりだった。
多くの人がお笑いの賞レースに見慣れ、固定観念的に「基準は90点」が植えつけられている。しかも小籔千豊の「全員99点」のコメントもあった。だからこそ、バカリズムが出した「トップバッター84点」は落差が大きくて衝撃的だった。その瞬間、凝り固まっていた基準点のイメージが崩れた。思いがけない点数が発表されたことで、「今年の『R-1』の鍵はバカリズム」と考えた人はたくさんいたのではないか。
野田クリスタルが語った、ピン芸の自由さと難しさ
Kento fukayaへの点数は渋かったが、しかしバカリズムのコメントはとても的確だった。何となくいだいていたピン芸への違和感を解消してくれるものだった。
Kento fukayaのネタ内容は、男女6人の等身大イラストを登場させ、合コンをしている様子にツッコミを入れるもの。バカリズムはその講評で、「本人以外の要素があまりにも大きかった。音声やイラストの割合が多かった」とピン芸として成立できていないのではないかと指摘。これは小籔千豊も「ピン芸のシステムではなかった」と同意見だった。その言葉は番組後半、野田クリスタルがVTRで語っていた「『R-1』は賞レースのなかで一番自由で、一番ムズい」に結びつくのではないか。
どれくらいの割合でモノや既存曲などを使うか。そこに頼りすぎていないか。自分の身でどんなことを、どれだけ表現できるのか。つまりピン芸は、何をやっても良い分、アイテムとのバランスが難しいのだ。
確かに『R-1』では、あらかじめ用意した音声が繰り出すボケなどに対して、芸人がツッコんで笑わせるネタも目立つ。バカリズムは、コメントを通して「ピン芸」に対する自分自身のスタンスをはっきり示した。
吉住、渡部おにぎりが表現した物語性と人物の個性に高評価
象徴的だったのは、吉住への審査。吉住は、芸能人の不倫問題に対して女性が怒り、正義感が暴走する姿を表現。バカリズムは「着眼点もおもしろいし、細かいところも丁寧。あと、(ネタは)メッセージ性が強いように見えて、実は本人が軽くバカにしているだけ。意外とドライ」と、キャラクターから透けて見える吉住の人間性に高評価を与えた。
もうひとり、バカリズムが90点を付けたのが渡部おにぎり。男性がサンドイッチを食べている途中、トンビに捕まえられて空を飛ぶことになり、合コンに行けなくなったことへの戸惑いと、しかし奇妙な体験をしていることへの興奮を、ユニークな演技力で見せた。吉住同様、設定に物語性があり、登場人物の個性が楽しめるネタだった。アイテムやセットはミニマムだ。
「本人の要素が大きいピン芸」とは、つまり吉住や渡部おにぎりのネタを指すのではないか(もちろん、その要素だけ特化しても勝てない)。バカリズムが90点以上を付けたのは、このふたりだけ。彼の審査の方向性が何となく分かる結果である。
賞レースには名物となる審査員が必ずいるものだが、『R-1』にもついにそういう人物が登場した。次回以降も、バカリズムの審査を見てみたい。