まさかの「●●」がモチベーションをアップさせる! いつも「目標達成できる人」の謎
モチベーションをアップさせるための「損失回避性」
世の中には、頑張っていても目標を達成できない人、いつも涼しい顔で目標を達成する人……いろいろな人がいます。私は企業に入り、目標を達成させるコンサルタントですから、どのような人が常に「目標達成」できるか、その習性を熟知しています。その経験から、歯を食いしばってがむしゃらにやっている人ほど目標達成できていないという現実を肌で感じています。そうではなく、「あたりまえ」のことを「あたりまえ」のように、淡々と行動している人が安定的に目標を達成させているものです。
この違いはどこから来るのでしょうか? 私は講演やセミナーで「損失回避性」という行動経済学の用語を使って解説しています。
「損失回避性」とは、たとえ同等の価値があろうとも、利益よりも損失のほうが心理的インパクトが強いことを言います。現在、あなたに100万円の資産があるとして、仮に、何らかの事情により、その100万円が10万円増えて110万円になったとしたら、どのような気持ちになるでしょうか。反対に10万円減って90万円となったらどうでしょうか。どちらの事象があなたにとってインパクトがあるでしょうか。
多くの方が後者の「10万円の損失」を選ぶことでしょう。
どちらも同等に可能性があるとするなら、100万円を110万円にする努力より、100万円が90万円に減少しないよう頑張るものです。利益を得るより、損失を回避するほうが人は力を発揮しようとするのです。
これは「プロスペクト理論」でも解説されている認知バイアスの一つです。
「あたりまえ」のことができなくなる「恐怖」
次に、別のシチュエーションで考えてみます。
あなたは現在、朝9時出勤の会社につとめている、とします。1年間、一度も遅刻することなく、朝9時までに会社へ出勤することは可能でしょうか? おそらくほとんどの人は「可能」と答えるでしょう。朝9時に出勤することにより何らかの「利益」がもたらされるからではなく、朝、会社に遅刻することなく出勤することは「あたりまえ」だからです。会社につとめている人、誰もがそれを実現させている「あたりまえ」のことを、自分ができないという「恐怖」「不安」が、大きな損失であると無意識に感じるからです。ですから、それを何としても回避しようとするのです。
したがって、何らかの事情で会社に遅刻しそうになったら、誰もがあらゆる手を打とうとするでしょう。脳の基本回転数を上げ、どの電車に乗ったらはやく着くか、誰かの車で送ってもらったほうがはやいか、駅まで走ったほうがはやいか……と、あれこれ思いを巡らせるはずです。
常に目標を達成する人は、目標達成が「あたりまえ」になっています。その「あたりまえ」のことができないという「恐怖」「不安」が能動的な行動を促がすのです。そういう人は会社の部署が変わっても、転職しても、起業しても、決めた目標に向かって淡々と進んでいくことができます。客観的にその姿を見ると、とてもモチベーションが高いように見えますが、本人にとっては、朝普通に出勤しているのと同様に「あたりまえ」のことをしているに過ぎないのです。
「目標達成があたりまえ」という空気を作る
いつも目標が達成しない人、何をやっても途中であきらめてしまう人は、目標達成が「あたりまえ」になっていません。何らかの報酬(利益)があればモチベーションがアップすると考える人もいます。確かにそのような「外発的動機づけ」もあったほうがいいでしょう。しかし、損失を回避しようとするエネルギーより遥かに小さく、そして持続性が乏しいのです。
「あたりまえ」のことを、「あたりまえ」にやる。これがどんな目標をも達成させる基本的な概念です。「目標はあくまでも目標であり、達成できないこともある」とか「目標など達成しなくてもいい」という雰囲気が組織にあると、メンバーたちもその「空気」に感化されます。しかし「目標達成があたりまえ」という空気が組織内で醸成されていると、メンバーは自然とそのような行動を起こし始めます。報酬でも懲罰でもないのです。