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ジョニー・デップ裁判:「あなたの嘘が何度も世界に露呈されましたね」。アンバー・ハードは必死にあがく

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 アンバー・ハードが、ジョニー・デップの弁護士からまたもや痛いところを突かれまくった。ハードをビシビシと攻撃したのは、デップの支持者から人気急上昇中のカミーユ・ヴァスケスだ。

 最終弁論を翌日に控えたアメリカ時間26日、ハードは、6週間に及ぶ裁判の最後の証人として、あらためて証言台に呼ばれた。最初は、ハードの弁護士による尋問。ここではデップから受けたDVのせいでPTSD状態にあることや、デップの支持者から脅迫を受ける毎日がいかに辛いかなどを涙顔で述べ、自分が被害者であることをあらためて陪審員に訴えかけている。

 だが、ヴァスケスによる反対尋問の番になると、そんな彼女のシナリオは悲惨なほどに打ち砕かれてしまった。

 冒頭から、ヴァスケスは「ミス・ハード。あなたはこの裁判がとても辛いとおっしゃいましたね。それについて話しましょうか。あなたの嘘が世界に向けて何度も露呈されたからですよね」と、ぴしゃり。それに対し、ハードは、「私は嘘などひとつも言っていません」と、冷静を保ちつつ返した。しかしその後、ヴァスケスは、ハードの証言がほかの証人たちのものと一致しないことを、具体的な供述を次々に出して指摘。ハード側の証人で、ハードの元親友だったラケル“ロッキー”・ペニントンですら、ある夜、トレーラーパークでハードがデップから手首を強く捻られたという出来事を見ていないと証言した事実を突きつけた。

 その夜、デップが自分たちのトレーラーをめちゃくちゃにしたとも、ハードは証言している。だが、そのトレーラーパークのマネージャーは、今週、証人として出廷し、ハードの言うことを否定しているのだ。そのことについてハードが「(パワーを持つ)ジョニーのためにはたくさんの人が出てきますから」と言うと、ヴァスケスは、「あなたはそのマネージャーが偽証をしたと言っているのですか?」と切り返した。

 さらにヴァスケスは、マネージャーによると、その夜、叫んでいたのはデップではなくハードだったと証言したことも思い出させている。それでもしつこく「その人は何も知りません」と言い逃れをするハードに、ヴァスケスはまたもや「あなたは彼が嘘をついていると言っているのですか?」と責めた。

 また、ヴァスケスは、ハードがデップに対する一時的接近禁止命令(TRO)を申請するために裁判所を訪れ、建物を出ると大勢のパパラッチが待ち構えていたことに驚いたと証言したことを持ち出し、「実際のところ、あなたは全然驚いていなかったのですよね?」と言った。事実、今週、その当時ゴシップサイトTMZに勤めていた男性がこの裁判で証言し、情報をたれこんだのがハードだとはっきり名前を出すことはできなかったものの、それ以外はありえないと誰にでもわかる形で事情を説明していたのである。

 彼の証言によれば、情報のたれこみがあっても本当かどうか調べてからパパラッチを送り込むため、普通はかなり時間がかかる。だが、たれこみしたのが本人である場合は、15分程度でパパラッチに行かせる。この場合は、15分だった。彼はまた、そのたれこみで、ハードの顔の右側にあざがあるという細かいことまで聞いていたと証言している。「その情報はあなたのチームから来た以外にありえませんよね」とヴァスケスに言われると、ハードは「絶対に違います。DV被害者がそんなことをするわけがないじゃないですか」と、これまた否定した。

一時的接近禁止命令を申請した日のハード(ET)
一時的接近禁止命令を申請した日のハード(ET)

 その時の写真にはしっかり顔にあざがあるのに、その翌日、当時の親友ペニントンと一緒にパパラッチされた写真に、あざはない。ヴァスケスがその写真を見せると、最初、ハードは「それがいつ撮影されたものなのかわかりません」としらばっくれた。するとヴァスケスは「一時的接近禁止命令を申請した翌日、友達と腕を組むアンバー・ハード」というその記事の見出しを読んでみせ、これはまぎれもなく翌日のものだということを陪審員の心に刻んでいる。

一時的接近禁止命令を申請した翌日のハード(ET)
一時的接近禁止命令を申請した翌日のハード(ET)

 次にヴァスケスは、ハード側が、デップが荒れた行動を取った証拠として出してきた、床にワインのボトルが転がっている写真を出してきた。彼女は「これは、2015年12月15日の写真だとあなたは証言しましたね?」と言い、続いて「こちらは、あなたが2016年5月21日の証拠として出してきたものですね?」と、横に並べた。そのふたつはどう見ても同じ写真なのだ。ただし、写真の下にある証拠ナンバーは違っている。

違う日の証拠写真として、ハードはこの2枚を出してきた(ET )
違う日の証拠写真として、ハードはこの2枚を出してきた(ET )

 ハードがそれについて長々と苦しい言い訳をしようとすると、ヴァスケスは「ミス・ハード。私は今、何もあなたに質問していません。何か言いたいなら陪審員に言ってください」と阻止。ハードが「あなたは私に質問したと思ったんですけど」と言うと、「いいえ、私はあなたに何も聞いていませんよ」と、ふふっというような笑みを浮かべた。

 さらにヴァスケスは、「階段の出来事」について昨日イギリスからビデオで登場したケイト・モスをはじめ、実に多くの人がデップのために証言したことについて、「これだけの人がミスター・デップのために証言するとは思わなかったのでしょう?」とハードに聞いている。それに対して、デップはパワーがあるので、みんな彼の望むことをやるのだとまたハードが答えると、ヴァスケスは「偽証罪で刑務所に入ることになるかもしれなくても?」と切り返した。このボロボロな反対尋問の後、また自分の弁護士からの尋問を受けたハードは、再び被害者としての主張を繰り返している。

 現地時間27日の最終弁論が終わると、陪審員の討議が始まる。世論では圧倒的にデップが有力だ。ただ、難しいのは、判決を出すためには陪審員が全員一致でないといけないこと。誰かひとりでも意見が違えば、判決には至らないのである。現地時間来週月曜日はアメリカの祝日であるため、結果が出るのは早くても来週なかば以降になると思われる。世界中が注目した闘いが、いよいよクライマックスを迎える。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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