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どうなる?「熊本PTA裁判」 注目される“入会申込の不在”というリスク

大塚玲子ライター
(写真:アフロ)

ある公立小学校の保護者がPTAを相手に起こした「熊本PTA裁判」。現在は福岡高等裁判所で控訴審が行われており、明日7月14日が2度目の期日とされています。

※13日11:28、和解期日が取り消されたという情報が入りましたので修正しました

多くのPTAや学校関係者から注目を集めるこの裁判は、一体どのようなものなのでしょうか? ざっくりと解説したいと思います。

*原告は、PTAに加入していたのか?

原告が訴状を提出したのは、2014年6月。内容は、このようなものでした。

2009年夏、原告の子どもたちは、ある公立小学校に転入しました。

原告は、ここでPTAに入会していないのに、会費を徴収されたことは不法行為であると主張。あるいは、もし不法行為に当たらないとしても、支払い済みの会費は不法利得であるとして、支払い済みの会費9750円の返還と、慰謝料19万250円、計20万円の支払いを求めました。

これに対して被告(代表・PTA会長)は、「冊子『わたしたちの〇〇小PTA』を原告に渡したことで、入会申込は行われていた」と主張。

また、原告がその後PTA会費を納めていることや、原告が被告に対して退会届を提出したこと、パトロール等PTA主催の活動に原告が参加していたことなどから、「原告はPTAに加入しているという認識があったはずだ」と反論しました。

一審の判決が出たのは、2016年2月25日。熊本地方裁判所は、被告の言い分をおおよそ認め、原告の敗訴となりました。

原告はこの判決を不服として控訴。同年5月から、福岡高等裁判所にて、控訴審が行われています。

軽く読み流すと「なるほど、それはそういう判決になるかな……」と思われるかもしれませんが、よく見ると、ひっかかる点がいくつかあります。

1・冊子を配ったことが、入会申込にあたるのか

まず、「冊子を配ったことで、入会申込が行われた」という被告の言い分について。

これはずいぶん大胆というか無茶な主張でしょう。最初に聞いたときは筆者もびっくりしましたし、ネットでも当初ずいぶん話題になりました。

なぜ被告は、堂々とこんな主張をしているのか?

ただただ疑問に思い、2015年6月、被告代表(PTA会長)に電話で取材を申し込んだところ、裁判が終わるまでコメントは控えたい、という返事をいただきました。

この点については、裁判所も一審の判決文のなかで「被告が主張するとおり、本件冊子の交付をもって入会の申込みと捉えることができるかどうかはさておくとしても」という留保をつけています。

2・退会届を出したことが、PTAに加入していた証拠になるのか

それから、原告が被告に対し「退会届」を提出したことが、「原告がPTAに加入している認識があった」ことの証拠とされた点について。

これも、ひっかかります。

多くのPTAは昔からの慣習で、入会申込書を集めることをせずに、保護者を自動的に入会させています。

このとき、保護者が勝手に入会させられたことを不服とすれば、退会届を出すことくらいしか思いつかないと思うのです。

筆者がこれまで取材してきたなかでも、任意加入のPTAにおいて自動強制加入が行われていることに納得できず、退会届を出した、という人は少なくありません。

それを「退会届を出したんだから、入会していた」と言われてしまうのは……。

なんだか、罠に嵌められてしまったような印象があります。

3・PTAを学校の活動の一部だと思っていたことについて

原告は、PTA会費を納めていたことや、PTA活動に参加していたことについて、「PTA活動と学校の活動の区別がついていなかったため」としていますが、これもあり得ることだと思います。

PTAは学校で活動していますし、なにしろ申込ナシで自動入会するので、「学校がやっている活動の一種だ」と思っている保護者は、意外にいます。

たとえば、PTAの強引な「役員決め」に不満をもった保護者が、PTAではなく学校に怒鳴り込むなどという話は先生方からよく聞きますし、PTAの配布物を学校のそれと間違えて、学校に問い合わせてしまう保護者もよくいます。

ある程度注意深い人であれば、両者は別の団体だと気付くかもしれません。

ですが、思い込みの激しい人は、どこにでも存在するものです。

*熊本を訪れ、原告の話を聞いた

いまから約1年前の2015年6月、筆者は原告・O氏に会うため、熊本を訪れました。ネットの情報だけではわからないことが多く、直接話を聞いてみたいと思ったのです。

Facebookを通じて同氏に取材を申し込むと、どこで待ち合わせるか、どんな交通手段を使うと安いか、さらに(訊いていないのですが)近くにある美味しいラーメン屋の情報まで教えてくれました。

「うまいこと都合のいい記事を書かせよう」というような他意はなく、「ただ親切な人だな」という印象でした。

当日、筆者は同氏に連絡を入れ、約束していた待ち合わせ場所を変えてもらいました(早めに着いて、熊本城を観光していたためです)。

というつもりだったのですが、同氏にはこちらの意図が伝わらなかったらしく、最初の待ち合わせ場所に行っており、なかなか会うことができませんでした。

もちろん、同氏に悪気などありません。その後、暑い中を20分ほどかけて、変更後の待ち合わせ場所である熊本城公園休憩所まで歩いてきてくれました。

結局、この日はあまり時間もなくなり、詳しくお話をうかがうことはできませんでした。

「悪い人ではないけれど、どうやら思い込みの激しい人だな……」というのが、同氏には失礼ながら、この取材で最も印象に残った点でした。

ですから、同氏がPTAを学校の活動の一部と思い込み、会費を納入したり、パトロール活動に参加したりしていた可能性は、十分あり得ると思います。

*多くのPTAにとっては大変な事態、とはいえ……

一審の判決について、憲法学者の木村草太さんはブログのなかで、このように述べています。

「いささか残念な判決ではありますが、

いったん会費名目で集めたお金の返金請求が認められると

全国で同種の訴訟が頻発する可能性があります。

例えば、年間5000円とられていて、それを6年分遡ると3万円。

この請求が10本たつだけで

PTAは30万円の返金!を要求されるわけです。

そう考えると熊本PTA訴訟は、思った以上に重要な訴訟で、

裁判官がPTA側に「お金を返しなさい」と

いうことに躊躇したことも分からなくはありません。

出典:ブログ「木村草太の力戦憲法」

たしかに、もしここで原告の主張が認められれば、入会申込をちゃんととっていない多くのPTAにとっては、大変な事態が予想されます。

これまで会員として扱ってきた保護者が、「入会はしていなかった、返金して!」と大挙してきたら、とても対処しきれないでしょう。

だからといって、先述のような被告の言い分が通るのも、いまいち納得しかねます

原告(控訴人)側の弁護人・大原誠司氏によると、現在行われている控訴審では、「入会の申込みと承諾があったか否か」を改めて争うとともに、もし入会の意思表示があったとしても、錯誤にもとづくものであったことを主張しているとのこと。

今後、どのような判決が下るのか?和解に落ち着くのか?

和解するとしたら、どのような内容になるのか?

展開が注目されます。

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『PTAでもPTAでなくてもいいんだけど、保護者と学校がこれから何をしたらいいか考えた』『ルポ 定形外家族』『さよなら、理不尽PTA!』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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