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クルスク州でウクライナ軍に生け捕りにされた2人の北朝鮮捕虜の詳細

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
生け捕りにされた北朝鮮兵士(ゼレンスキー大統領のテレグラムから筆者キャプチャー)

 ウクライナが北朝鮮のロシアへの派兵を告発するには北朝鮮兵士を生け捕りにし、自供させるのが一番と、筆者は何度もこの欄で主張してきたが、ついにウクライナは北朝鮮兵士を、それも2人も生け捕りにしたようだ。

(参考資料:「生き証人」の北朝鮮兵が死亡!激戦地のクルスクに北朝鮮兵が1万1千人もいるのになぜ捕虜がゼロなのか?)

 ゼレンスキー大統領は1月11日、自身のテレグラムで北朝鮮兵士2人を生け捕りにし、首都・キーウに護送し、現在、ウクライナ情報当局(SBU)が尋問中であることを明かした。

北朝鮮兵士の生け捕りを伝えたゼレンスキー大統領ノテレグラム
北朝鮮兵士の生け捕りを伝えたゼレンスキー大統領ノテレグラム

 

 「暴風軍団」と称される特殊部隊に属する北朝鮮兵士1万1千人がロシアに派遣されてから3か月、ロシア領、クルスク州に配属されてから2か月が経ってやっと手にした「戦果」だけに喜びもひとしおであろう。

 よほど嬉しかったのか、ゼレンスキー大統領は2人を生け捕りにしたウクライナ特殊作戦軍84戦術一団と空輸部隊(パラシュート部隊)に感謝の意を表していた。また、「SBU」に対して「世界にこの状況を知らせるべきだ」と、ウクライナで取材中の各国のメディアに北朝鮮軍捕虜を取材させるよう指示を出していた。

 「SBU」もまた、「2人は北朝鮮のロシア参戦の明白な証拠である」と強調し、「今後、露朝の軍事協力について貴重な情報が得られる」と、胸を張ってみせた。

 北朝鮮兵を生け捕りにするのに時間がかかったことを意識したのか、ゼレンスキー大統領は「北朝鮮の兵士を生け捕りにするのは簡単でない」との感想も綴っていた。「ロシア軍と北朝鮮軍が負傷した兵士を処刑し、北朝鮮の参戦の事実を隠蔽しているからだ」と、その理由を説明していた。

 ロシア軍と北朝鮮軍がそこまで残酷なことをやるのかは確かめようもないが、北朝鮮の軍人は負傷した場合、あるいは絶体絶命になった場合、生け捕りを恐れ、自害、自決するよう命じられているので実際に生け捕りは容易ではない。それだけによく捕まえたと思う。

 ゼレンスキ―大統領のテレグラムには治療後に顔や手に包帯を巻いた2人の兵士が病室に横たわっている写真が掲載されている。どうやら2人はキーウにある収容所の独房に入れられているようだ。

 兵士の名前はまだ明らかにされていないが、外電(ロイター、AFP,AP)によると、一人は1999年生まれの今年26歳になる2016年に入隊した狙撃手、それも狙撃偵察将校で、もう一人は2005年生まれの2021年に入隊したばかりの若い兵士である。

 どちらかのうち1人は9日のクルスク州での戦闘で特殊作戦軍に捕らわれており、もう一人は日時は不明だが、パラシュート部隊に身柄を拘束されたようだ。

 若い方の兵士はロシア軍の身分証明書を身に付けていた。シベリア南部にあるトゥバ共和国で「1994年生まれ」と記されており、名前は「アントン・アリウキン」となっていた。身分証明書はロシアで訓練を受けていた時に発給されたそうだ。これまでトゥバ共和国から発行される身分証明書は北朝鮮軍の偽装身分証として使用されていたと囁かれていた。

 「SBU」の事情聴取に対してこの兵士は「北朝鮮にいる時はロシアに訓練に行くと聞かされていたが、ロシアに着いて初めて派兵されたことを知った。昨年11月にロシアに到着してから1週間、ロシア軍から訓練を受けた後、戦場に送り込まれた」と陳述し、また戦闘中多くの兵士が命を落としており、本人も部隊から落伍し、「4~5日間、飲み食いができないままさまよっていたところ捕らわれた」と供述していた。

 二人ともロシア語も英語も話せないため「SBU」は韓国情報機関「国情院」の協力(通訳)を得て、尋問している。「SBU」は北朝鮮の派兵以来「国情院」と緊密に連絡を取り合い、情報を共有してきた。

 当然のごとく、「国情院」も「ウクライナ軍が9日にクルスク戦場で北朝鮮兵士2人を生け捕りした事実を確認した」として、ゼレンスキー大統領の11日の発表を事実上裏付けた。

 今後、公開記者会見がセットされ、肉声が公開されれば、北朝鮮の派兵実態がより明るみになるものと予想されるが、その際、無視するのか、いつものように「でっち上げ」と、反論するのか、ロシアと北朝鮮の反応が実に興味深い。

(参考資料:ロシア領のクルスクの戦闘で北朝鮮兵士を4千人も殺傷したのに「捕虜ゼロ」の摩訶不思議!)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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