出勤停止や損害賠償請求…違法性は? 佐野SAで「組合つぶし」についての救済申し立て
一昨日、佐野SA上り線の従業員の労働組合(以下、佐野SA労組)が、使用者である株式会社ケイセイ・フーズが「組合つぶし」(労組法上の「不当労働行為」)を行っているとして、栃木県労働委員会に不当労働行為救済申し立てを行った。
佐野SAは今年の夏にストライキで大きな話題となったが、いまだに労使紛争が続いている。佐野SA労組によれば、その原因が会社側の違法な「組合つぶし」にあるというのだ。
実は、労働組合法では使用者側から労働組合に介入し、例えば金銭を支払って脱退を迫るなどの行為を禁止している。会社の組合への介入が禁止されていることや、それがどの程度であるのかは、ほとんど知られていないだろう。
そこで本記事では、佐野のSA労働者たちの申し立ての内容を紹介しながら、どのような行為が「組合つぶし」として法律で禁止されているのかを説明していきたい。
なぜ佐野SAでストライキが起きたのか
改めて、今回のストライキの経緯を振り返ってみよう。
騒動のきっかけは、資金難による経営状態の悪化だ。ケイセイ・フーズの親会社がメインバンクから新規融資凍結処分を受け、7月20日に行われた労使交渉では経営陣は融資凍結と返済滞納を認め、従業員たちに動揺が走ったという。
経営状態が悪いという情報は取引先にも伝わり、代金の支払いが滞ることを懸念した業者が商品の納入を控えるようになったため、8月4日には売店のバックヤードから商品が次々になくなっていくという事態が発生した。
このままでは従業員への賃金の支払いも滞る恐れがあると考えた従業員たちは、労使交渉を行い、納入業者に対して商品の代金を前倒しで支払うことや、従業員に対して3カ月後までの賃金の支払いを確約することを求めた。
経営陣は渋々これに応じ、安心した業者から商品が納入されるようになった。その際に、納入業者との交渉の窓口になったのが総務部長の加藤氏だった。彼は業者からの信頼も厚かったために、従業員、取引先等に売上から平等に配分されるように割り当てをして、合意を得ることができたのである。
しかし、8月9日、社長は約束を撤回し、資金繰りが厳しいため支払期日を延ばしてもらうよう納入業者と交渉するよう指示を出した。さらに、社長は加藤氏に解雇を通告した。これに反発した労働者たちがストライキを起こしたのである。
さらに、この事件の背後では従業員たちへの壮絶なパワーハラスメントの実態も明らかにされ、社会の注目を集める状況になっていた。
参考:佐野SAで新たなスト通告、NEXCO東日本の「社会的責任」が焦点に
その後、ストを受けて株式会社ケイセイ・フーズの岸敏夫元社長が辞任し福田伸一現社長が就任し、不当解雇されていた加藤正樹部長が現場復帰しストライキが解除されたことで、一旦は解決したと思われた。
だが、社長が交代した後も、実は、会社側は「組合つぶし」の言動を繰り返しているというのだ。
退職強要、損害賠償の「脅し」
組合側の申し立てによると、会社側は、加藤氏(現労組委員長)の解雇が不当解雇であったことを認めながらも、次のように、今も加藤氏に対し退職を強要しているという。
まず、会社は書面上で、「加藤組合員が退職しないと来年度ネクセリア東日本との再契約はできない」という主張を展開し、加藤氏に退職を迫るとともに、組合員に不安を与えたことが指摘されている。
また、サービスエリア内の事務室で、福田社長が、10名近い従業員の面前で、加藤氏に対して「自発的に辞めてくれ」「あなたのやっていることは従業員の雇用を失わせるものだ」と周りに聞こえるような大きな声で迫ったという。
さらには、団体交渉の場で、「加藤が速やかに退職しないのであれば、Aさん、Bさん、Cさんの組合役員3名に対し、『損害賠償を求める訴訟を提起いたします』」と書かれた文書を突きつけている。
このように、会社側は、加藤氏が退職しなければ、従業員の雇用打ち切りや、加藤氏以外の組合員への多額の損害賠償請求をすると言って、加藤氏の退職を強要しているというのだ。
それに加え、会社側は、加藤委員長に対し、懲戒の対象になる言動があるとして調査を開始し、合理的な説明もなく自宅待機命令を出している。
すでに加藤委員長は1ヶ月近く自宅待機を強いられているようだが、こうした行為もパワーハラスメントに当たる恐れがあると考えられるだろう。
そして、組合員の自宅宛には、加藤氏や組合を批判する文書を何度も送りつけられているともいう。
「組合つぶし」は法律で禁止されている
では、これらの「組合つぶし」と指摘されている行為は、法的に適切なのだろうか。それぞれ労働組合法と照らし合わせていこう。
まず、加藤氏に対する退職強要や懲戒手続きにもとづく不当な自宅待機命令は、組合員に対する不利益取り扱い(労働組合法第7条1号違反)と労働組合への支配介入(労働組合法第7条3号違反)に当たる可能性が高い。
また、組合員の個人宅に加藤氏や組合を批判する文書を送りつけたことは、労働組合への支配介入(労働組合法第7条3号違反)に当たると考えられる。会社は労働組合との交渉事項や労働組合の組織や運営について介入してはならないことになっているのだ。
通常、このような支配介入は微妙なケースが多いものだが、今回は書面を配布するなどして証拠が明白なので、行政から救済命令が出る可能性は高いものと思われる。
このように、労働組合への支配介入や組合員への不利益取り扱いが法律で禁止されていることには理由がある。
そもそも、労働組合は、会社・経営者と労働者個人との間には力の格差があるため、労働者が劣悪な労働条件を強いられることを防ぐことを目的に存在する。
ところが、一部の経営者は、対等な交渉を避けるため、労働者個人に組合からの脱退を促したり、労働組合の運営に介入したりしようとする。
これがまかり通ると、労働組合が潰されて、違法行為や劣悪な労働環境に抗議する手段がなくなってしまう。こうした事態を防ぐために、「組合つぶし」は法律で禁じられているのだ。
「組合つぶし」にはどのような制裁があるのか
だが、不当労働行為を禁止する法制度や運用には、実効性に欠けるという課題もある。
不当労働行為は、たしかに労働組合法によって明確に禁止されているが、罰則が設けられていないからだ。したがって、不当労働行為によって直ちに経営者に刑罰を科せられることはない。
とはいえ、不当労働行為救済申立制度(都道府県が実施主体)を設けられており、審査の結果として不当労働行為が認定されれば、救済命令が出ることになっている。
だが、これも審査には約1年を要するという課題がある。命令が出る頃には、“時すでに遅し”ということになりかねないのだ。そのため、海外では不当労働行為に罰則を設けている国もあり、日本でも法規制を強めることを検討すべきという議論もある。
では、現状では「組合つぶし」に対抗する手段がないかといえば、そうではない。
罰則がなく、救済も遅れるとはいえ、違法行為が積み重なることで後の損害賠償請求が可能になる。また、違法行為に手を染める会社側への社会的な批判が巻き起こりやすくなる。
消費者や取引先企業からすれば、不当労働行為を続けている企業が、いずれ救済命令が出されたり、損害賠償が認められる可能性が高いとすれば、あまりかかわりたくないと思うことは自然であろう。
ただし、そうした周囲の目線が有効になるためには、当該の労働組合に加入している労働者自身に違法行為に対して粘り強く抵抗する精神力が求められることも事実だ。
逆に言えば、違法行為に負けない気概をもち、最後の判決まで正当性を貫く姿勢を持ち続けていれば、(救済命令に至らずとも)最終的に違法な側が敗北することになるのである。
SNS時代の労働紛争を考える
今回のストライキは加藤氏が発信したSNSや、店に張り出されたスト通告が利用者たちの間で爆発的に拡散することで注目された。SNSがない時代のストであったら、片田舎の事件として埋もれてしまっていたかもしれない。
こうして考えてみると、SNSの登場によって大きく「労使紛争」のあり方は変わってきたのかもしれない。というのも、今回の「組合潰し」も、先ほど書いたように、誰にも注目されなければ労使の持久戦にしかならないからだ。
ところが、今回のようにSNSで注目されれば、たとえ地方の一事件でも、世論を味方につけて労働者は支援され、違法行為が疑われる会社には圧力がかかることになる。
実際、佐野SAの労働者は、SAの利用者からの応援の声かけに大変励まされているという。レジの会計時に労働者を激励する利用者も多くおり、「お客様アンケート」のメッセージも大半が、組合を応援するメッセージだという。
そうした利用者の目線を、会社側も意識しているのではないだろうか。組合側はそうした動きも見据えて、業務委託元であるネクスコグループのネクセリアに問題の解決に向けて動くように働きかけている。
その一環としてネットでの署名活動も行っているという。
参考:(組合側のネット署名)佐野サービスエリア(上り線)で働く労働者の雇用を守ってください!
SNS時代、消費者が労使紛争にどのようにかかわるようになっていくのか、佐野SAのストライキ事件はその「試金石」となる事件と言えるだろう。これからもこの事件の動きに注目し続けていきたい。