いまやシリア全土の半分を制圧 “完全復活”した「イスラム国」
米軍を中心とする有志連合の空爆にも関わらず、「イスラム国」(IS)の勢いが再び盛り返している。イラクでは、それまでイラク政府軍が死守していた西部アンバル県の県都ラマディを攻略。いまやイラク西部を広範囲に手中に収め、さらに北部のクルド人自治区の近傍でも活動を活発化させている。 他方、シリアでもダマスカス市南部のパレスチナ人居住区であるヤルムーク難民キャンプの一部を奪取したほか、それまでシリア政府軍が掌握していた中部ホムス県の遺跡の町パルミラも攻略した。北部の中心都市アレッポの近傍でも再び攻勢に出ている上、ホムス県の主要部にまで迫る勢いだ。
一時はティクリートを攻略される
「イスラム国」をめぐる情勢を簡単に振り返ってみると、まず昨年6月にイラク西部で一斉攻勢をかけ、一気に支配地域を広げた。このとき、イラク政府軍から大量の武器を鹵獲(ろかく)し、戦力が格段に向上した。「イスラム国」の脅威が国際的なトップニュースになったのは、この時期である。 「イスラム国」はその勢いをかって、イラク北部のクルド自治区の中心都市アルビルや、首都バグダッド近郊まで迫ったが、そこで米軍が有志連合を組んで空爆を開始する。イラクでは昨年8月、シリアでは9月のことである。 この空爆によって、「イスラム国」の破竹の勢いはとりあえず止められた。イラクではバグダッド近郊からはなんとか押し返し、クルド人自治区周辺でもクルド人治安部隊「ペシュメルガ」が「イスラム国」部隊を各地で撃退した。 シリアでは昨年9月から、トルコ国境の町コバニ(アラブ名はアイン・アル・アラブ)の制圧を狙う「イスラム国」と防衛するクルド人部隊の死闘が繰り広げられたが、今年1月、有志連合の空爆もあって、ついに「イスラム国」はコバニから撤退した。クルド人部隊はさらに周辺部で「イスラム国」部隊を追撃した。 ただし、今年1月時点では、イラクでもシリアでも、とりあえず「イスラム国」の勢いを止めたという程度だった。有志連合の空爆といっても、平均すれば1日10回以下という小規模なものであり、なにより「イスラム国」を追撃する地元の地上戦力がイラクでもシリアでも脆弱だったからだ。今年1月時点で、シリアではほとんど「イスラム国」を排撃できていなかったし、イラクでも「イスラム国」支配地域の約5%程度しか奪還できていなかった。 しかし、今年1月以降、とくにイラクではペシュメルガと有志連合の連携がうまくいきはじめ、北部を中心に「イスラム国」を各地で撃破した。今年3月末頃までに、イラクでは「イスラム国」支配地域の25%程度が奪還された。その頃には、主要都市ティクリートもイラク政府軍によって奪還された。