何者かが盲導犬を刺す 被害男性「これは自分の“傷”」
盲導犬は、視覚に障害を持つ人の目となり、共に歩むパートナーだ。日本で育成された最初の盲導犬『チャンピイ』が誕生したのは、1957年の夏のこと。以来、活躍の場を広げ、全国の実働数は今や1000頭を超えたとされている。 しかし、国産盲導犬第1号が歩み始めてから57年経った今も、世間一般の理解は十分とは言えない状況だ。歩行中の嫌がらせ行為や育成団体へのストーカー的な苦情電話が後を絶たない。一部の使用者や育成団体関係者の口からは、「近年、逆に誤解や色眼鏡で視覚障害者と盲導犬を見る人が増えている」という言葉も出るほどだ。 この夏、それを裏付けるような事件があった。人が「見えない」、犬が「抵抗しない」ことにつけ込んだ何者かにアイメイト(盲導犬)が刺され、けがを負わされたのだ。
「見えない」「抵抗しない」につけ込む
まず、事件の概要から追ってみよう。被害に遭ったのは、埼玉県の全盲の男性(61)とアイメイトの『オスカー』だ。国産盲導犬第1号『チャンピイ』を送り出した育成団体、「(公財)アイメイト協会」出身の盲導犬は、「アイメイト」と呼ばれる(=その理由は後述)。オスカーは、間もなく9歳を迎えるラブラドール・レトリーバーのオスだ。 7月28日、男性とオスカーはいつものように午前11時ごろに自宅を出て、JR浦和駅から電車に乗り、県内の職場へ向かった。いつものように職場の店舗に到着すると、店長が飛んできて「それ、血じゃないの!?」と声を上げた。オスカーはいつも、他の多くのアイメイトと同様、抜け毛を散らさないようにTシャツタイプの服を着ている。その服の後端、お尻の上のあたりが真っ赤に染まっていたのだ。服をめくると、腰のあたりから流血していた。 傷口を消毒し、応急処置を施して動物病院に連れて行った。直径5ミリほどの刺し傷が500円玉大の円の中の4か所あった。大型犬の皮膚はかなり厚く、獣医師の見立てではサバイバルナイフのようなものを強く何度も突き立てなければできない傷だという。あるいは、鋭いフォークのようなもので刺したか。服に傷がなかったことから、何かに引っ掛けた“事故”ではなく、何者かがわざわざ服をめくってつけた傷であることは明白だった(同日届け出た警察も事件性を認めている)。 被害男性は「聴覚にはまだまだ自信があるが、まったく気づかなかった」と言う。犬は比較的痛みに強い動物だ。加えて、アイメイトとして訓練を受けてきたオスカーは、人に対する攻撃性を持たない。全てのアイメイト/盲導犬がそうだということではないが、吠えることはおろか声を上げることもめったにないという。