日鉄の買収阻止、対米投資マインドにも影響と企業幹部の声相次ぐ
(ブルームバーグ): バイデン米大統領が日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収を阻止する決定を下したことを受け、住友商事やキリンホールディングスといった日本企業の幹部からは、今後の対米投資マインドを冷やしかねないとの声が聞かれた。
経済同友会の新浪剛史代表幹事はブルームバーグのインタビューで、「米国にとって何が本当に良いかを考えて意思決定すべきだ。大変がっかりだ」とした上で、対米投資にも影響を与えると指摘した。これだけ大きな規模の買収の生むプラス効果が認められなければ、米国企業の競争力強化にも疑問符が付きかねないと話した。
財務省が発表した2023年末時点の対外直接投資残高で、米国は100兆8639億円と国別で最も多く、全体の3割強を占める。自動車業界をはじめ、米国は日本にとって重要な市場の一つであるが、政府の介入が進むことで投資意欲が減退する可能性もある。
石破茂首相は6日、「日本の産業界から今後の日米間の投資について懸念の声が上がっているということは残念ながら事実だ」と指摘し、払しょくへの対応を米政府に「強く求めたい」と話していた。
キリンHDの磯崎功典会長CEOは、今後の日本企業の対米投資を冷やしかねないことを懸念する。同氏は日米の信頼関係に別のリスクを考慮せねばならず、「また政治が入ってくるのかと、二の足を踏むようなことになると思う」と話した。ANAホールディングスの芝田浩二社長も、今回の決定による対米投資や感情の変化は、人や物の流れに関わってくる可能性があり、注視していく必要があると述べた。
このほか企業の経営者からは、どういう基準が判断材料になるかわからない不透明さに不安の声が上がる。住友商の上野真吾社長は、日米同盟の枠組みの中で、「少なくとも鉄について安全保障に関わる問題なのか理解していない」とした上で、今後の裁判などで対米外国投資委員会(CFIUS)の審査の中身や正当性を見ていく必要があると話した。