高まる「アーバンベア」の脅威 西中国山地でツキノワグマ目撃が最多ペース 広島・山口・島根3県で計2660件、前年度同期比1・7倍
広島、山口、島根県にまたがる西中国山地でツキノワグマの目撃が増えている。本年度の目撃件数は10月末時点で前年度同期比1・7倍の2660件に上り、過去最多ペースとなっている。市街地周辺で暮らす「アーバンベア」の脅威も高まっており、各県はパトロールなどの対策を強めている。専門家は人の生活圏とクマの生息域が近くなっているとして、まちづくりの抜本的な見直しを訴えている。 【グラフ】ツキノワグマの目撃件数 県別の目撃件数(痕跡を含む)は島根1348件(前年度同期比1・8倍)山口673件(2・0倍)広島639件(1・3倍)の順で多い。山口は9月末で年間の過去最多となった。 5月には廿日市市の廿日市高や周辺の市街地で目撃が相次いだほか、8月に広島市安佐北区の市安佐動物公園内、9月には岩国市美和町の民家の庭でも目撃された。山口県と島根県では人身被害も4件起きている。 人や農作物に被害を与える恐れがあるとして3県が本年度、捕獲した頭数は10月末時点で広島40頭、山口16頭、島根266頭の計322頭。3県がクマの保護や生息数の管理を目的に定める年間捕獲頭数の目安135頭を既に上回っている。 3県は19、20年度の調査でツキノワグマの生息域を8200平方キロ、生息数を最大1946頭と推定した。1998、99年度の調査との比較では生息域で1・6倍、生息数で2・9倍となる。 広島県自然環境課は目撃情報や捕獲数の増加はクマの生息域と生息数の拡大が要因とみており「人里に出没するなど、危険なケースが増えている」とする。人口減少に伴い耕作放棄地や人の手が入らない山林が増え、クマの生息に適した環境が人里近くまで広がった影響があるとみられる。 こうした状況を受け、各県はパトロールの頻度を増やし、実を収穫しなくなったカキやクリの木の伐採を支援するなどの対策を強めている。 広島修道大の奥田圭教授(野生動物管理学)は「人間の生活圏とクマの生息域を明確に隔てることが重要。抜本的な解決策を図るうえでは、野生動物とのすみ分けを考慮して都市計画を策定することが必要だ」と指摘している。
中国新聞社