保育の質どうなる? 76年ぶり基準改善も保育士不足深刻 スキマバイトの単発保育士も
2024年度、保育園で1人の保育士が受け持つ4、5歳児の数の基準が制度創設以来76年ぶりに改善されました。しかし現時点でも保育士不足は深刻で、すきま時間で働く単発のアルバイトを雇う園も。
保育の質はどうなるのか?保育士不足の現状を取材しました。
2024年度、こども家庭庁は4、5歳児の保育士の配置基準を76年ぶりに見直しました。より手厚い保育ができるよう、保育士1人が受け持つこどもの数を30人から25人に減らし、3歳児も保育士1人あたり20人から15人に変わりました。そして2025年度からは、1歳児について条件付きで、現在の6人から5人に改善した場合の加算措置を始めるということです。
国が定めた基準より多く保育士が配置された千葉県内の保育園で、3歳児クラスの担任をしている保育士は10人を1人でみることがあるといいます。
「特に散歩の時が危ない。たったの10人だけど(大人の目が)足りない。歩かなくなったり、手を離して駆けていっちゃいそうな時があったりするから、15人を1人でなんてとても無理。前に先生が1人ついた時、後ろの子どもたちの安全性が確保できない」
「安全とか気持ちに寄り添うことを考えて丁寧な保育をするのなら、人をちゃんと充実させないといけない」
一方、東京都の公立保育園で2歳児の担任をしている保育士は基本的に10人を2人でみていますが。
「散歩から帰ってきて(こどもの)着がえ後、室内で遊んでいる時に給食の配膳を済ませないといけない。結局10人を1人の先生がみる時間もある」「人数的に数字でみれば大丈夫でも現場でどう動いてますかと聞かれたら配置基準以上のこどもをみる時はいっぱいある」「大人の手が足りているかといったらそうじゃない。もう1人増えたら一番いいなとはいつも思っている」
4つの保育園などを運営する社会福祉法人熱田福祉会の平松知子理事長は、これまで求めてきた配置基準の改善が行われたことについては「やっと動いてよかった。でもこれで終わりにしないで」と訴えます。
「25人を(保育士)1人でみていたら、今日あの子と1回も話せなかったな、とか絶対あると思う。それはあってはならない」
海外の基準は、というと、例えばイングランドでは、3歳児はこども13人に対し保育者1人などの基準があり、ニュージーランドでは、4歳でもこども30人の場合、保育者が3人で保育する基準などがあります。世界的にみても日本の基準は低く、改善すべきだという声が根強いのです。
平松理事長がさらに心配なことは、新たな配置基準について、"当分の間は従前の基準により運営することも妨げない"との経過措置が設けられている点です。人手不足で保育士を十分確保できない実情があるからですが、経過措置は何年続くか決まっておらず、手厚い保育のために必要な改善が、すべての保育園で実現するのがいつになるのかわからないのです。
また、保育園やこども園にはさらなる役割も期待されています。「こども誰でも通園制度」です。親子の孤立を防ぐため、親が働いているかにかかわらず、6か月から3歳未満のこどもが保育園などを時間単位で月一定時間まで利用できる新制度です。平松理事長の周りでも、この制度を市や自治体に要請されるが、保育士が確保できないので、絶対にやれないという声が多いといいます。
国の調査によると、保育士を養成する大学や短大など指定保育士養成施設の入学者数は減り続け、2021年度は4万1082人でしたが、2022年度は3万8597人と約2500人減っています。また、2024年7月時点の保育士の有効求人倍率は2.69倍で、約2万7000人の保育士が足りていません。
また保育士の平均給与は、去年、年間約400万円で、同じくこどもと関わる職業の小中学校教員の平均給与より約260万円低い状態です。平松理事長は実情をこう語ります。
「辞めていきますよね。保育好きだったけど、もうやれませんって」「命張って命を守っていて、1、2、3、4、5、あっ!1人足りない!!って冷や汗がバーっと出るような経験を保育士なら誰でもしている」「ものすごく責任を負っている。配置基準や面積基準をさらに改善(保育士の負荷を軽減)したり、給料を高くしたり、専門性をもう少し認めてもらわないと、潜在保育士は帰ってこない」「それ(対策)をしないと保育士がいないからこどもを受け入れられないという形の待機児童が増えていくと思います」
■スキマバイトの保育士も
こうした中、面接や履歴書なし、単発などで、すきま時間に働くアルバイトのアプリ「タイミー」で保育人材を集める保育園も。平松理事長の知り合いの園もシフト表に"タイミーさん"という記載があるといいます。「(保育士の)個人名ではなく“タイミーさん”なんだ。どのような人が来るかわからないタイミーさんに頼まないと、保育が回らない時代になったんだと衝撃でしたね」
株式会社タイミーの担当者によりますと、保育園でのタイミー活用が増えているということです。園側が確認できる働く人の情報は、名前、年齢、性別に加えて、タイミーに登録しているワーカーがこれまでにタイミーを通して働いた事業者からの「good」「bad」などの評価の実績です。タイミーは、安全確保のため、保育園側が求人内容に「保育士資格を持っていること」(資格情報はワーカー本人から園に事前に提出)といった条件を加えられるようにしているほか、タイミーの「保育専門チーム」の担当者が相談にのり、園の考えや状況などに応じて、最初は清掃のみをしてもらうといった業務の切り分けを考え、受け入れ方を園と一緒に決めるなどの仕組みがあるということです。
そしてタイミーは、保育園側が、働きに来る人について、保育士特定登録取消者管理システム(過去にこどもへの性暴力などで保育士資格を取り消された人物が登録されている)で調べることを推奨しています。こども家庭庁によりますと、現在国の制度として、過去に不適切保育をした保育士を検索できる仕組みはないということです。このような中でのスキマバイトの活用に平松理事長は不安を覚えるといいます。「性加害以外の不適切保育で職場を追われた人たちの情報は分からない」「保育は頭数がそろっていればいいってものではない」
また東京都の公立保育士も「のどから手が出るくらい人が欲しい園もあると思う。でも警備上、不特定多数の人が頻繁に園に出入りすることで、園に不審者が入りこんだとしても気付きにくくなってしまう。園の中の構造を1日限りの人が知ることや防犯面を考えても怖い」と話します。
■安心できる質の高い保育のため、早急な施策を
国は2024年度に、保育士と幼稚園教諭の給与を前年度比10.7パーセント引き上げる処遇改善をしていて、この改善額を2025年度も引き続き確保するとしています。さらにICTの推進や宿舎借り上げ支援事業など保育士確保のためのさまざまな取り組みを進めています。
こども、保護者、保育者も安心できる環境をつくるため、さらに実効性のある保育士確保策を早急に推進することが国や自治体に求められています。将来を担うこどもたちに質の高い保育を提供することは本人や保護者のためだけでなく、日本社会にとって必要なことだと言えます。