ニコンは、東京都港区港南にあった本社を10年ぶりに東京都品川区西大井へ移転し、2024年7月29日より稼働を開始。8月22日に報道陣向けに新オフィスの公開を行った。

  • ニコン新本社の中の様子

    ニコン新本社の内部の様子。さまざまな形の椅子やソファー、机が設置されている

ニコンの新本社は、今回報道陣に公開された「本社/イノベーションセンター」のほか、各事業のラボが集結している「イーストサイト」、グループ各社が入っている「ウエストサイト」の計3つの区画で構成されている。また、本社/イノベーションセンター1階にもラボが設置され、ここから新しいものを生み出し未来を切り開いていくという思いが込められていることから、「/イノベーションセンター」までが1つの名称だと担当者は強調していた。

この新本社のキーワードは「ゆかりの地」。西大井はニコンが100年以上にわたって拠点を構え、あらゆる製品やサービスを生み出してきた場所である。同社の旧社名「日本光学工業」になぞらえて、多くの社員が通勤に使用してきたこの通りはいつの頃からか「光学通り」と呼ばれるようになり、1995年12月に東京都品川区の公式な道路愛称名として命名されるに至っている。

そうした歴史ある光学通り沿いに構えられた新本社のコンセプトは「City of Light」。新本社移転プロジェクトチームは、「ニコンは光の可能性に挑んできた会社であり、光が集まる街のような建物にしたいという思いが込めてある」と述べていた。

そのため、設計に関しても「光」に注目した構造になっており、建物にひさしを設けて直射日光を遮りつつも、反射光を取り入れることで明るさと省エネを両立する工夫などが取り入れられている。また、光の屈折を利用し部屋の奥までくまなく光が入るような設計には、社員一人一人の光でニコンの未来を明るく照らしていきたいという思いが込められているのだという。

  • 本社/イノベーションセンターの外観

    ニコン本社/イノベーションセンターの外観

新本社は巨大で、最も長い距離のある場所は縦方向で150m、横方向で60mほど。同社の社員曰く1日2万~3万歩くらいは気づいたら歩いているくらいには広いとのこと。さまざまな部門が集まり、コミュニケーションを促進するため、柱のない開放的なつくりになっているという。

  • 開放的な空間の中で働くことができる

    開放的な空間の中で働くことができる

  • 本棚も完備

    本棚も設置され、さまざまなジャンルの本が収められている

また、働く場所を社員1人1人が自律的に選択できるようABW(Activity Based Working)が導入されており、コラボレーションエリア、大階段、ダイニング、屋外のテラス、デスク以外での勤務が可能。至る所にコンセントはあるものの、持ち運びが出来る充電器も各フロアに完備されるなど、自分の好きなところで働きやすい環境が整備されていた。同社社員の中には「今は気温的に暑かったり天候も優れない日が多いため難しいが、もう少し涼しくなったらテラスで作業をしてみたい」と述べる人もいた。

  • 持ち運び可能な充電器

    パソコンの充電などに使える持ち運び可能な充電器。フル充電で1日持つのだという

  • テラスの様子

    本社/イノベーションセンターのテラスの様子。天気が良け日は解放感を感じられるだろう

今回の新本社移転に対し、徳成旨亮社長に人的資本について伺うと「イノベーションを生み出すのは人。そのため、今回の新オフィスもそうですが、これからも人への投資は惜しまないつもりです」と述べていた。これまで同社では、1年間に2回の賃上げや、専門人材に対して1人当たり2000万円の投資をするというような独自の制度を導入してきた。「大切なのは“成長”だと考えていて、よりよい未来を投資家などにはもちろん、社員や若者にもわかりやすくみせていきたい」と語っていた。

  • 徳成旨亮社長

    ニコンの徳成旨亮 社長

また、人的資本に関連する若者への訴求・育成に対しては、学生らを呼び大型スクリーンが設置してあるアトリウムにて研究発表会を開催するなどしてつながりを作っているのだという。そのほか、研究施設を本社内に設置し、学生にとって魅力的な会社にしていると徳成社長は話す。

「研究開発施設は基本的に地方にあることが多く、入社する意思を持つうえで障壁となることが多いです。学生の人達はただもらえるお金だけで会社を決めるのではなく、QOL(Quality of Life)が満たされ、自分の人生設計を達成できる働き方ができるかも重要視されていると思います。そのため、本社内にイノベーションセンターを設置しました。東京都内で研究開発ができるというのも魅力の1つになると考えています」と述べていた。

  • 大型スクリーンが設置してあるアトリウム

    大型スクリーンが設置してあるアトリウム

また、今回の新オフィス公開で同社が強調していたキーワードに「地域に根差した会社」がある。近隣の住民に迷惑にならないよう、季節ごとに決まった時間にはブラインドが閉まるよう夜間の光漏れ対策がなされているほか、建屋には最高クラスの耐震構造が施されており地震などの災害が起きた場合、本社/イノベーションセンター内の社員とは別に約300名の近隣住民が避難できる仕組みも整えているという。

こうした一般の人でも自由に出入りできるスペース(上述したアトリウムも含まれる)も完備されているため、すでに近隣の人々がよくコンビニなどを利用するために自由に立ち寄っているとのこと。

さらにこうしたスペースの1つとして2024年秋にはニコンミュージアムの移転リニューアルオープンも予定されており、だれもが楽しめる施設になりそうだ。展示スペースはもともとあった品川よりも大きさや展示内容をさらにパワーアップするとしている。

なお、誰でも自由に出入りできるスペースの床にはニコン製の光学ガラスの廃材が散りばめられているのだという。輝いているところがところどころにあるため、もし足を運んだ時はぜひ床にも注目してほしい。

  • 光学ガラスの廃材が散りばめられている

    光学ガラスの廃材が散りばめられている床