逮捕された高校生制作の“大砲”…通称「ポテトキャノン」の威力を実験してみた
ネットを使うと、誰でも危険な情報を手に入れることができる、という趣旨の記事なのか? 高校生が大砲を作ってつかまった。新聞によると昨年11月に被疑者の通う高校が警察に「大砲のようなものを持っている生徒がいる」と相談、今年2月16日にその高校生は武器等製造法違反で逮捕されたそうである。
被疑者の作った大砲は全長208センチ。塩化ビニール製のパイプを複数つなぎ、可燃性のガスを爆発させて弾丸を発射させる構造だったと言うが……うむ? 水道管で2mでガスでって、それはこれのことだろ?
水道管をつないだだけでできる大砲。アメリカでは飛距離を競う大会も開かれている
いやあ、おじさん、捕まっちゃうなあ〜。
私が今から5年ほど前に出した『あぶない科学実験』(彩図社)は、YouTubeなどのネット動画で紹介される科学実験が本当なのかを実際にやってみて検証するという本だ。コーラにメントスを入れると噴水みたいに吹き出す実験やピクルスに電流を流して発光させる実験(米国では高校生が授業でやるそうだ)などいろいろ試したが、この水道管製大砲もその中の一つである。
100mは楽勝で発射通称ポテトキャノンという。新聞報道の通り、塩ビの水道管を接着剤でつなぎ、ドリルで穴をあけてランタン用の着火装置を埋め込むシンプルな構造だ。ヘアスプレーをシュッとひと吹きしてフタを閉め、着火ボタンを押すと、ボン! ガスが爆発し、詰め込んだ弾が発射される。
弾はジャガイモが一番。安上がりで、簡単に削れるので口径に合わせやすい
爆発させるガスは整髪用スプレーが使いやすい
弾にはジャガイモが実にいいサイズなので、ポテトキャノン。アメリカでは好事家が集まってポテトキャノン大会が開かれ、だんだんスケールがでかくなって、今ではカボチャ(アメリカの、あのふざけたサイズのカボチャである)キャノンも登場、タンクローリーのチャンバー(ガスを燃やす部分ですね)にトレーラーサイズの砲身をクレーンで持ち上げてつなぎ、大人の体重ほどもあるカボチャを数百m先まで飛ばすというバカなことになっている。
実際に作って遊んでみると、非常に威力があって面白い。とにかくよく飛ぶ。ちゃんと測ったことはないが、100mは楽勝だ。私は川に向かってバッコンバッコン打っていたが、もうちょっとで対岸のホームレスの小屋にぶつかるところだった。
テレビ番組で科学実験が流行っていた時は私も呼ばれ、千葉県の映画『どろろ』の撮影をやったという山の中の採掘場で、ポテトキャノンを撃った。ただし弾にジャガイモは使えなかった。
食べ物を粗末にすると抗議の電話が来るらしい。意味が分からない。ジャガイモですよ? そういう電話をする人は、立食パーティというパーティに怒鳴り込んだらいいと思う。ものすごい量の食べ物が廃棄されているぞ。仕方ないのでジャガイモの代わりにガチャガチャのケース中にチョーク粉を入れて撃った。着弾すると破裂して粉が飛び散り、それはそれで楽しかった。
人に当たると絶対に痛いので、川に向かって撃つ
捕まった高校生は弾として金属製のボルトとプラスチックを組み合わせ、羽根をつけたものを自作して使ったそうで、問題はそこだったんだろう。創意工夫の心意気は結構だが、そんな対戦車ロケットの弾みたいなもの、人に当たったら大怪我だ。逮捕はともかく、鼻血出るほど怒られて当たり前。ジャガイモを使え、ジャガイモを!
このニュース、警察に相談したのが高校ということなので、なんで警察を呼ぶ前に学校の先生が生徒に注意できなかったのか、それが気になる。撃たれると思ったのだろうか。ポテトキャノンはガスが多くても少なくてもダメで、不発が多い。
一発撃ったら、ガスを入れてフタをしてと手間もかかる。武器としてなんて、まるで使えないのだ。高校には物理の先生もいるだろうから、ちゃんとした使い方を教えれば、高校生の経歴に傷がつくこともなかった。
広い場所でジャガイモ飛ばして遊ぶ分には、ペットボトルロケットと大差ないからだ。ペットボトルロケットだって、ガソリン詰めて着弾と同時に爆発させれば、立派な兵器だ。包丁と同じで、道具は使い方だ。それを正しく教えるのは大人の責任じゃないか。
作用反作用やガスと酸素の混合率と燃焼率の違いや砲身と飛距離の関係など、ポテトキャノンは面白い理科の教材になる。こんなことで無条件に禁止されるのは面白くない。新聞を読んだおじさんおばさんが、知りもせずに正義づらして、今どきの高校生はこわいわねえ〜なんて言ってるかと思うと腹が立つ。
それにこの問題、事前に知りながら、子供に指導もできずに警察を呼ぶ(警察は立場上、逮捕するしかないだろう)高校によほど問題があると思うのだけど、どうなんだろう。
ちょっと危なくていかがわしいから科学は面白い。世の科学少年たちには、訳知り顔で知ったようなことしか言わない退屈な世間と上手に折り合って欲しいものだ。
(取材・文/川口友万)