米メディア大手パラマウント(スカイダンス・コーポレーション)は12月8日、ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)に対し、総額約1084億ドル(約16兆9000億円)規模となる株式公開買い付け(TOB)を開始したと発表した。1株あたり30ドルの全額現金による提案となる。
ワーナー社はわずか数日前の12月5日に、動画配信大手Netflixによる買収受け入れを発表したばかり。Netflix案は1株あたり27.75ドル、総額827億ドル(株式価値720億ドル)規模で、ワーナーの運営体制を維持しつつ2026年第3四半期の手続き完了を目指す内容であり、ワーナー取締役会もこれを推奨していた。しかし、パラマウント側はこれを不服とし、株主に直接賛同を求める敵対的買収に踏み切った形だ。

パラマウントが提示した今回のTOB価格(1株30ドル)は、2025年9月10日時点のワーナー株価に対し139%のプレミアムを上乗せした水準だ。企業価値を約1084億ドルと見積もっており、Netflix案の提示額(1株あたり約27.75ドル相当、企業価値約827億ドル)を大きく上回る。
また、現金と株式交換を組み合わせたNetflixとの合意案に対し、今回のパラマウントの提案は、ワーナーの発行済み株式すべてを「全額現金」で買い取るものだ。パラマウント側は、自社案こそが「より確実で迅速、かつ優れた価値を提供する」と主張している。同社の試算によれば、この全額現金化によって株主が受け取る現金は、Netflix案と比較して約180億ドル多くなるという。
なお、買収資金については、エリソン家やレッドバード・キャピタルによる出資に加え、バンク・オブ・アメリカなどから540億ドルの融資確約を得ているという。
パラマウントのデビッド・エリソンCEOは、Netflix案には重大なリスクがあると指摘する。Netflixによる買収が実現した場合、世界のSVOD(定額制動画配信)市場におけるシェアが43%に達し、独占禁止法上の承認を得るのが極めて困難であるという。特に欧州市場での支配的地位が強まることで、消費者にとっては価格上昇、クリエイターにとっては報酬低下のリスクがあると警告している。
さらに、Netflix案に含まれるリニアテレビ事業(Global Networks)の分割計画についても、将来的な不透明さが残ると批判。全額現金化できる自社案こそが、審査リスクや事業分割リスクを回避し、株主利益に資すると強調した。
くわえてパラマウントとワーナーの統合は、劇場公開映画への継続的な投資や、スポーツ放映権の集約、そしてNetflixやAmazonといった巨大IT企業への対抗軸を作ることで競争を促進し、規制当局の承認も得やすいとしている。

一方、TOBを仕掛けられたワーナー・ブラザース・ディスカバリー側も同日声明を発表し、パラマウントからの提案の受領を確認した。
ワーナー側は声明の中で、「取締役会は、Netflixとの合意に対する推奨を変更していない」と明言。パラマウント側の提案については、財務・法務アドバイザーと協議の上で慎重に検討するとしつつも、株主に対しては「現時点ではいかなる行動も取らないよう推奨する」と呼びかけた。
ワーナー取締役会は今後10営業日以内に、パラマウント案に対する公式な見解と推奨事項を株主に通知する予定だ。
パラマウント側によると、過去12週間にわたり6回もの提案を行ったにもかかわらず、ワーナー側が誠実な協議に応じなかったため、今回の直接行動に至ったという。 TOBの期限は2026年1月8日までと設定されており、今後のワーナー株主の判断が注目される。
