ドラマ『若草物語―恋する姉妹と恋せぬ私―』で描かれた性加害。被害者が声を上げても、声を封じられる現実が

2024年12月27日(金)14時0分 婦人公論.jp


イメージ(写真提供◎Photo AC)

貧困家庭に生まれ、いじめや不登校を経験しながらも奨学金で高校、大学に進学、上京して書くという仕事についたヒオカさん。「無いものにされる痛みに想像力を」をモットーにライターとして活動をしている。第81回は「性加害が描かれたドラマ」です。

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職場での立場を利用した性加害


先日最終回を迎えたドラマ『若草物語—恋する姉妹と恋せぬ私—』では、職場での立場を利用した性加害が描かれた。

主人公の姉・町田恵(仁村紗和)は、ハローワークで非正規職員として働いている。同じ職場で働く土方昭彦(阪田マサノブ)から、頻繁にメールが届くようになる。このメールの文面がなんともリアル。いわゆる「おじさん構文」で、妙に馴れ馴れしく、下心が透けて見える文面なのだ。ドラマでこんなに生々しい文面を見るのは初めてかも知れない。

恵だけでなく、恵とよく昼食を共にする、同じく非正規職員の佐倉治子(酒井若菜)も、土方から同様のメールを受け取っていた。

ふたりは居心地の悪さや怖さを感じるものの、土方は正規職員で立場があり、印象を悪くすればふたりの更新に響く。そのため、ふたりは受け流すことしかできない。

恵は、同じ職場で正規職員として働く彼氏の小川大河(渡辺大知)に、意を決して土方から頻繁に送られてくるメールのことを打ち明ける。

「いつもメッセージ来るんだけど、内容がなんていうか、ちょっとセクハラっぽいっていうか、顔文字とか絵文字とかすごくて」

彼女にそんなことが起きていたら、彼氏として心配するのが当然と思うが、小川はこう言い放つのだ。

「大袈裟だよ。土方さんも、気使って若い人に合わせようとしてんじゃないの。土方さんだよ? ハラスメントから一番遠い人でしょ。顔文字使っただけでセクハラとか言われたんじゃ可哀想だって。」

「あの人がそんなことするはずない」


土方は外面がよく、人望もある。周囲に、まさかあの人に限ってそんなこと、と思われるような人なのだ。でも、性加害において、加害者が「あの人がそんなことするはずない」という印象を周囲から抱かれていることはよくあることだ。

そしてある日、恵は小川と一緒にいる時に、土方と佐倉が一緒にタクシーに乗るところを目撃する。恵は心配するが、小川は見間違いだ、と取り合わない。

しかし後日、佐倉は土方に親睦会と称して個室の居酒屋に連れていかれ、抱きつかれるなどの被害に遭っていたことが発覚する。


イメージ(写真提供◎Photo AC)

恵は小川に相談するが、小川は「嫌なら逃げれば良かったんじゃないの?」と事態を軽くとらえている。さらに、「証拠は? そういうの、証拠がないとどうにも出来ないよ。こう言っちゃ悪いけど、佐倉さんだってもう40過ぎだし、わざわざ土方さんがセクハラなんかするかなぁ。誤解しないでよ。佐倉さんが言ってることが嘘とかそういうことを言ってるんじゃなくて、恵は佐倉さんの話しか聞いてないから、佐倉さんが被害者に見えるかも知れないけどさ、土方さんは人望もあるし、変にオオゴトにしたら、佐倉さんの立場が悪くなるだけじゃない? 恵だって安易に首突っ込んだら働きにくくなるんだよ。俺は、恵を守るためにも言ってるんだから。」

小川は佐倉が嘘をついているとは思わない、恵の立場を悪くしないため、一方の話しか聞いていないから判断できない、などと中立的な立場を装いながらも、40を過ぎた人にセクハラするのか? 土方にも人望がある、など土方の肩を持つような発言をし、恵がこの件に立ち入らないように牽制しているのがなんともたちが悪い。

佐倉の味方になり切れない


土方からの被害を公にしようとした佐倉に対し、恵は「こういうのは証拠がないと、ただ告発するだけじゃかえって佐倉さんの立場が悪くなるだけだと思うんです」と小川の発言に流され、佐倉の味方になり切れない。佐倉は「ごめん、面倒なことに巻き込もうとして」と言って去ってしまう。

そして、「所内でのハラスメント行為に関する通報」と題して、佐倉は一斉送信で、土方からセクハラを受けていること、他の非正規職員も被害に遭っている可能性があるため、至急調査してほしいという内容を送ったのだった。

恵が佐倉に話しかけようとしたところ、他の社員たちは恵だけに声をかけ、ランチに誘い、連れ出した。そこで社員たちから、次々とセカンドレイプ発言が飛び出すのだ。


『死ねない理由』(著:ヒオカ/中央公論新社)

「土方さんがセクハラするなんて考えられない」

「アレだったらどうする? 逆恨み。フラれたはらいせとか」

「あんなメール出して、涼しい顔で出勤してくるなんて、メンタル鋼だよね」

「確かに、普通は針のむしろだと思うけどね」

土方にあらぬ疑いをかけ、騒ぎ立てた張本人とされた佐倉は職場を去ることになる。そして、土方のターゲットが恵に移るのだ。

土方は、ひとりでいる恵にこう話しかける。「佐倉さんのこと、残念だったね。町田さんは次の更新も大丈夫だと思うよ。僕が高く買ってますから。せっかくだから近々親睦会でもしようか」。肩を触られた恵は、精神的に追い詰められていく。

おかしいことはおかしいって言いたい


恵は、やっと佐倉が受けたハラスメントの被害の深刻さを実感し、佐倉に謝罪する。

「あの時、佐倉さんの力になれなかったこと、すごく後悔してます。もう遅いかもしれないんですけど、私も声を上げたいと思っています。」

「そんなことしたら、町田さんまで仕事を失うことになるかもしれないよ」

「それってすごく理不尽ですけど、でも、それでもおかしいことはおかしいって言いたいんです。私も、土方からずっとハラスメントを受けていました。気持ち悪いメッセージしょっちゅう来てたのに、自分は大丈夫だって思おうとしてたんです。これがハラスメントだって認めてしまったら、自分が被害者みたいな、弱い存在みたいな、そういう惨めな気持ちになるのが嫌で。一緒に戦いましょう」


イメージ(写真提供◎Photo AC)

被害を被害と認めてしまったら、自分の精神がしんどくなる。だから、受けたことをすぐに被害だと受け入れられない、という人も多いのではないだろうか。

恵は、土方だけを追求しても、根本的な解決にならないということに気づく。恵や佐倉に起こった問題は、非正規公務員が置かれる立場の問題であり、「評価基準がはっきりしてないなかで雇い止めできてしまう今の制度が産む問題」として、問題解決に向け署名運動を立ち上げる。

恵も結果的に職場を去ることになったが、その後職場では他の非正規職員たちが声をあげ、土方のハラスメントの証拠を提出。土方は懲戒処分に追い込まれた。

現実でもよく見られること


最近でも、性加害のニュースが絶えず、事件になっても、加害者は軽い罰しか受けないことに、世間の怒りは高まるばかりだ。

恵のハラスメントとの戦いは、このドラマのメインではなかったが、被害者が声を上げても、様々なセカンドレイプ発言で声を封じられ、加害者がかばわれる流れは、現実でもよく見られることだと思う。

特に、立場を利用した性加害はこの社会でも深刻だ。権力者や教師が立場を利用して加害に及ぶ事件が後を絶たない。恵や佐倉のように、非正規の人たちが、雇い止めを恐れて管理職や正規職員から加害に遭っても声を上げられない現状は、きっとこの世の中にも偏在していることだろう。

ドラマでこの問題が扱われたことに、心強さを感じた。加害者にならないことはもちろん、被害を知った時に被害者をさらに追い詰める言動をしてしまわないよう、考えるきっかけになって欲しいと思う。

前回「ちゃんみなの発言から考える「アーティストとメンタル」問題、こっちのけんとが発するメッセージが心に響く」はこちら

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