全日本フィギュアで輝きを見せた選手たち、松生理乃「今年断ち切りたい」三宅咲綺「頑張ってきてよかった」

2024年12月26日(木)8時0分 JBpress

文=松原孝臣 


「経験を次にいかせたら」

 12月20日に始まり、22日に幕を閉じたフィギュアスケートの全日本選手権。

 最終種目となった女子フリーが終わり、表彰式が行われている。優勝した坂本花織、昨年、一昨年の3位から一つ順位をあげた島田麻央、復帰シーズンの成果を示した樋口新葉、3人はそれぞれに晴れやかな笑顔を見せている。

 でもこの3人に限らず、輝きをみせた選手たちがいる。

「成長できていると思います」

 手ごたえをしっかりつかんだのだろう、5位の成績を残した松生理乃(まついけ・りの)は柔らかくも、確固と力強さがこもっていた。

 2020年、ジュニアだった高校1年生のとき、コロナ禍で変則的に実施されたNHK杯で坂本、樋口に次ぐ3位、全日本選手権では4位に入り、脚光を浴びた。

 ただ、その後は苦しい時間を過ごした。2021年は怪我の影響に苦しみ、2022年は体調不良に苦しんだ。全日本選手権でも13位にとどまった。挽回を期した昨シーズンはスケートカナダで3位、グランプリシリーズで初めて表彰台に上がったが全日本選手権は17位。全日本選手権は大きな壁となり、立ちはだかっていた。

 迎えた今シーズン、グランプリシリーズは2戦ともに2位、グランプリファイナルにも進出(6位)とこれまでで最高のシーズンをおくってきた。

 だが、心から成長した、と思うためには全日本選手権を乗り越える必要があった。

「(全日本選手権では)何年もいい演技ができていなくて悔しい思いをしているので、今年断ち切りたいです」

 強い思いとともに挑んだ。

 それを実行した。まず今シーズン、苦しんでいたショートプログラムでノーミス、非公認ながら自己ベストとなる得点をマーク。「やっとだな、という気持ちです」。言葉が弾んだ。

 フリーでも、昨年までとは違った。最後のジャンプ、トリプルサルコウが2回転となったが、スケーティングを土台に、スタートから最後まで松生らしい演技を披露してみせた。

「だいぶ試合に慣れて、強い気持ちで演技をできるようになったと思います」

 そこに秘策があったわけではない。シーズンで試合を重ねるごとに「経験は次につながる」と思えた。そして積み重ねは今シーズンだけのことではない。苦しみながら答えを見いだそうと取り組んだ昨シーズンまでの時間あればこそだ。

「去年、一昨年はいっぱい失敗をして、わけが分からないまま終わった全日本でした。今年は1つのミスで悔しさがあります。成長できているのかな、と思います」

 そしてこう語る。

「経験を次にいかせたら」


「オリンピックに行くよ」

 三宅咲綺(みやけ・さき)はショートプログラム、フリーと2本そろえて自己ベストを更新、9位と初めてベスト10入りを果たした。

 ここまでの道のりは長かった。

 高校1年生でシニアに移行し、3年生だった2020−2021シーズン、強化指定選手に選ばれた。海外の大会に出る機会も考えられたが、コロナ禍のもと、派遣されることはなかった。腰椎分離症も発症し全日本選手権出場を手にすることもできなかった。

 スケートをやめようと考えたこともある。その中で出会った鈴木明子に悩みを話すとさまざまな話をしてくれた。その中で意欲を取り戻した三宅だったが、思うように取り組めない練習環境などに苦しんだ。そのとき、手を差し伸べてくれたのは坂本だった。そして拠点を岡山から、大学2年生で坂本らのいる神戸に移す決断をする。

 3シーズン目を迎えた今季、西日本選手権優勝、全日本選手権と、花は開いた。

 その今シーズンの変化と成長の要因をあげる。

「中野先生の『オリンピックに行くよ』という言葉です」

 今までと異なる一段高い目標に、「そのためには何が必要か」と真剣に考えそのために取り組んだ。

 もう1つは、初めてのアイスショーとなった「滑走屋」だ。連日、ハードな合宿をおくり準備を進めた。ときに16時間、氷上にいたこともあるほどだ。

 それは大きな刺激となった。

「そこまでしないと人前で滑ることはできない、という(高橋)大輔さんのプロの根性を見せてもらいました」

 出演後、練習への取り組みは一段、密度が増したという。

 今回の成績で、強化選手への復帰がたしかなものとなった。

「3年間、4年間、強化選手に戻ると言ってきて、達成できて、この1年頑張ってきてよかったなと思います。(現在の)強化選手と比べたらジャンプの難易度も低いですけど、種類を増やしたら戦えるんじゃないかなと思います」

 松生と三宅ばかりではない。昨年、フリーで12位に沈むなど全日本選手権で悔しい思いを味わってきた山下真瑚はフリーの好演技で200点を超えて6位に。近年、苦しんできた河辺愛菜は、ショートプログラムを控えての公式練習で接触し右腕を負傷。だがフリーではジャンプすべてを着氷、空間を支配するかのような演技をみせた。これからへのたしかな手がかりをつかんだだろう。

 そのほかにも、数々の選手が印象深く余韻の残る演技をみせた。

 この舞台に懸ける思いが交錯した、全日本選手権だった。

筆者:松原 孝臣

JBpress

「フィギュア」をもっと詳しく

「フィギュア」のニュース

「フィギュア」のニュース

トピックス

x