『光る君へ』ロスに総集編が12月29日に放送!脚本家・大石静と監督が明かすドラマの誕生秘話、月のシーンに込めた驚きのこだわりとは

2024年12月28日(土)11時0分 婦人公論.jp


主演の二人と大石さんなど登壇者の集合写真「パブリックビューイング&スペシャルトークショーin京都」にて (写真提供:NHK)

雅な平安絵巻で1年にわたって私たちを楽しませてくれた大河ドラマ『光る君へ』が、12月15日、ついに最終回を迎えました。深刻な『光る君へ』ロスに陥っている人もいるはず。このドラマをきっかけに『源氏物語』を再び手に取った人も少なくないと思います。
『光る君へ』ゆかりの地や行事を紹介しつつ、平安文化に関するあれこれを綴ってきたこの連載も、いよいよラスト。締めくくりとして、『光る君へ』のスタッフやキャストが集合したファン垂涎のイベント「最終回パブリックビューイング&スペシャルトークショーin京都」の様子を前・後篇に分けてレポートします。
まず前篇では、最終回の放送直前に行われた、『光る君へ』の脚本家・大石静さんとチーフ演出・中島由貴さんのトークショーをお届けします。

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前回「『光る君へ』の衣装はこうして生まれた!衣装デザインの知られざる舞台裏。シースルー単を着た和泉式部役・泉里香さんの意外すぎる感想とは」はこちら


トークショーの様子 中央が大石さん、右が中島さん(撮影◎筆者)

一人で最終回を見たら、きっと泣いてしまう


会場となった国立京都国際会館のホールには、16000件の応募から選ばれた約1260人が来場。北は東北、南は沖縄・九州から、さらには台湾から駆け付けた人もいたということで、このドラマの人気の高さを見せつけました。

最終回(BS放送)の放送を前に、NHK京都放送局・岩槻里子アナウンサーの司会進行で、まずは大石さんと中島さんの「プレトーク」が行われました。

数々の名作ドラマを生み出してきた大石さんですが、視聴者の方々と、こんな形で最終回を見届けるのは「人生初の体験」。「家で一人で最終回を見たら、きっと泣いてしまう。みなさんと一緒でよかった」と、最終回を迎える寂しさを語りました。


開演前の会場の様子(撮影◎筆者)

「平安時代の大河なんて、誰が観るの?!」


最終回のパブリックビューイングが京都で開かれたのは、この地がドラマの舞台だったからにほかなりません。京都に住む私たちも、特別な想いで、1年間ドラマを見守ってきたように思います。

では、なぜ、平安時代の京都を描く大河ドラマが生まれたのでしょうか。

中島さんによると、大河ドラマの定番である戦国や幕末ものではなく、女性が主人公の美しい平安絵巻をやれないか、との思いから、テーマを模索。『源氏物語』も検討したものの、「やっぱり紫式部でいこう」という結論に落ち着いたそうです。

そこで大石さんに脚本を依頼したのですが、紫式部が主人公だと聞いた大石さんの反応は……。

「最初にお話をいただいたときは、『平安時代なんて誰が観るの?』と思ったんです(笑)。でも、中島さんは、私にオファーしてくださる1年くらい前から(紫式部について)勉強をされていて、『これは絶対にいける!』と確信しておられた。だから中島さんについていこうという気になったんです。とはいえ、イチかバチかの賭けですし、正直、ほんとうに不安でした」

監督の注文は「毎回泣けるドラマに」


「びっくりしたのは、『毎回泣ける大河ドラマにしたい』と言われたこと。それに応えるのは難しいと思ったのですが、結果的に、3回に2回くらいは泣けるものになったのではないでしょうか。終盤のほうは毎回泣けましたし、それこそ中島さんの思うツボですよ(笑)。おそらく、最初から中島さんの頭のなかには、『毎回泣けるものができる』という確固たるイメージがあったのでしょう。いま、ドラマが終わってみて、改めてそう思います」

そんな大石さんの発言を受けて、「実は、ハッタリの部分もけっこうあったんです(笑)」と、中島さんから、まさかの告白が。

「『平安時代なんて誰が観るの?』と大石さんがとても心配されていたので、大丈夫ですよ!と言わないと、口説き落とせないと思ったんです」

そして始まった制作。脚本作りでは、1回の打合せに7〜8時間かかることも珍しくなかったとか。

「長時間の打合せでも、行き詰って場がシーンとなる瞬間がなくて、トークがずっと途切れない。ほんとうに、あっという間に時間が過ぎるんです。大石さんは人生経験が豊富なので、おもしろいエピソードがたくさん出てくるし、率直な意見交換ができるので、とてもやりやすかったですね」

そう中島さんが言えば、大石さんも「中島さんとは相性がいいなと、勝手に思っていました」と返す。「私のほうがずっと年上ですが、中島さんをお姉さんのように頼りにしていたんです」

こうしたやりとりにも、抜群のチームワークが感じられます。

といっても、馴れ合いのような関係では決してない様子。岩槻アナの「大石さんからご覧になって、中島さんはどんな演出家(監督)でしたか?」との問いかけに、大石さんは迷わず、「厳しい監督でしたね」と答えたのです。

「脚本を大幅に直してほしいと、ビシビシ言われたこともあります。私に対してだけではなく、スタッフにも役者さんにも厳しい。このへんでいいか、と妥協せず、やるべきことを、とことん追求するんです。あいまいなやさしさに包まれている、いまの時代に、仕事の厳しさを体現している尊い人だと思いました」

「厳しい」というコメントに、「真剣に仕事をしているだけなんですが……」と少しばかり当惑気味の中島さんでしたが、「厳しい監督」という評価は、大石さんからの最大級の賛辞だったようです。

驚くべき月へのこだわり


演出面のこだわりは、月の描写にも。

実際にはなかなか出会えないため、月を眺めながら、互いに心を通わせているまひろと道長。月が重要なアイテムになるということで、スタッフが毎日のように撮影に出かけて、薄雲がかかった月や、満月が雲に隠れる瞬間など、さまざまな月の映像を撮りためていたとか。

「まひろのお母さんが殺されたときも、月を見つめる二人を描くなど、1話から月にこだわっていました」と大石さん。実は、月が登場するシーンには、大石さんを驚嘆させる演出があったそうです。

「資料が残っていて、何月何日の出来事だと、きちんとわかっているシーンでは、その日の暦のとおりの月の形にしていたんです。なんとなく満月とか、三日月とかじゃないんですよ。1000年前のその日の月齢を調べて、それと同じ形の月の映像を使っていた。こういうところがNHKのすごさだなぁと、ほんとうにびっくりしました」

『光る君へ』で道長が「望月の歌」を詠むシーンが放送された前日、「平安時代に藤原道長があの歌を詠んだ夜と、ほぼ同じ満月が見られる」ということが話題になりました。「道長と同じ満月を見よう」などとネット上で盛り上がりましたが、なんとドラマでは、「平安時代のあの日と同じ月」が、さまざまなエピソードでさりげなく再現されていたのです! 

誰も気づかないような部分にも、とことんこだわる。そんな姿勢と努力が、見る人の心に残る名作を生んだのでしょう。

そして最終回の放送日も、美しい満月の夜。ほんとうに月と縁のあるドラマでした。


道長が「望月の歌」を歌った場面。銀粉が美しく舞う(写真提供:NHK)

主演の二人が物語の背中を押した


また、セリフでは、平安時代の言葉でも現代語でもない言葉使いを研究したそうです。

「1000年前の言葉をそのまま使うとわけがわからないし、現代語でもおかしい。どのあたりを落としどころにするか、中島さんや時代考証の先生を交えて、いろいろなパターンを研究しました」と、大石さん。

「セリフを書くときは、キャストの顔を必ず思い浮かべます。うまい役者さんは、私が脚本を書く前から、私の頭のなかで勝手に動いて、物語をけん引するようなところがあるんですよ。吉高由里子さんと柄本佑さんは、まさにそういう役者さん。お二人はいろんな画を私に見せて、物語の背中を押してくれました」

「道長のセリフはストレートですよね」という岩槻アナの言葉を受けて、「まひろは気難しい人なので、自分の想いを露骨に出さないけれど、道長は素直。私たちのチームのつくった道長は、ほんとに素直ないい人なんです」と大石さん。

従来のイメージとはまったく違う、斬新な藤原道長像が、このドラマの魅力を高めたことは間違いありません。

脚本を書き終わった時点では、「『ああ、長かったなあ』『ゆっくり寝たいなあ』というくらい」で、さほどの感慨はなかったという大石さん。ただし、クランクアップのときには、寂しさがこみ上げてきたそうです。

「このセットはもう壊されるんだな、このチームの仲間と仕事をすることはもうないんだな、と思うと寂しくなったんですよ。あんなに厳しかった中島さんが涙を流して、それにつられてみんな泣いちゃってね……。もちろん、打ち上げのときも寂しかったのですが、(最終回が放送される)今日がいちばん寂しいんじゃないかと思っています」

NHKの美術スタッフの『光る君へ』の仕事を取材した記事はこちら

しんみり語る大石さんの手にはハンカチが。中島さんも「クランクアップのときは、ほんとうに感無量でした」としみじみ振り返ったものの、総集編の編集作業がまだ残っており、寂しさに浸る余裕はまだないとのこと。

このドラマの集大成でもある『光る君へ』総集編の放送は12月29日です。また、その総集編に続いて、本イベントの模様をまとめたスペシャル番組も放送される予定です(12月29日、午後4時3分〜23分、NHK総合)。

この総集編と特番で『光る君へ』の世界とも、いよいよお別れ。みなさま、どうぞお楽しみに。

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