『光る君へ』ロスのあなたに、今だから話せる裏話。道長が左手を布団の外に出していたのは…。打毬の試合をまひろは見ていなかった?
2025年1月10日(金)8時0分 婦人公論.jp
平安神宮を訪れた主演の吉高さんと柄本さん(写真提供:NHK)
雅な平安絵巻で1年にわたって私たちを楽しませてくれた大河ドラマ『光る君へ』が、2024年の12月15日、ついに最終回を迎えました。『光る君へ』ゆかりの地や行事を紹介しつつ、平安文化に関するあれこれを綴ってきたこの連載も、いよいよラスト。締めくくりとして、『光る君へ』のスタッフやキャストが集合したファン垂涎のイベント「最終回パブリックビューイング&スペシャルトークショーin京都」の模様をレポートします。
今回は、吉高由里子さん、柄本佑さんらを迎えたスペシャルトークショーをお届けします。現在の心境、今だから明かせる撮影の裏側、最終回のシーンの解説など、12月29日のスペシャル番組でも放送されなかった部分を中心にまとめました。貴重な裏話をお楽しみください。
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前回「『光る君へ』はイチかバチかの賭けだった!脚本家・大石静と監督が明かすドラマの誕生秘話、月のシーンに込めた驚きのこだわりとは」はこちら
会場の熱気に驚く吉高さん
前半の「プレトーク」を終え、『光る君へ』最終回(BS放送)のパブリックビューイングに参加した脚本家の大石静さんは、最終回の放送を見届けたあと、万雷の拍手を浴びて再び登壇。司会のNHK京都放送局・岩槻里子アナウンサーに感想を問われると、「言葉にならないですね」とぽつり。「私たちのチームはよくがんばったなと思います」と、ドラマに関わったすべての人を称えました。
そして後方の扉が開き、聞き慣れたあのテーマ音楽に乗って、主演の二人が登場。会場全体が高揚感に包まれます。
盛大な拍手と歓声に応えながら、客席の中央をゆっくりと進む吉高さんと柄本さん。さっきまでスクリーンのなかにいた二人が目の前にいるとあって、観客のみなさんの熱量もマックスに。
大石さん、制作統括の内田ゆきさんに迎えられ、壇上に上がった二人は、まず大石さんとハグ。「びっくりしました!みなさんの熱気で、この空間の気温が高い!」と、吉高さんの笑顔が弾けました。
こうして並んでみると、脚本、制作統括、チーフ演出、そして主演俳優がすべて女性! 女性による、女性のための大河ドラマであったことを再認識させられます。(ただし、客席には男性の姿も目立ったことを付け加えておきます)
あのオープニングがもう流れない寂しさ
「いやあ、頭が真っ白になっています。最終回を観終わったばかりの人たちの前にいるのが、不思議な感じですね」。最終回を迎えた心境を問われた柄本さんからは、率直な感想が。「(撮影初日が)ついこのあいだのことのような感じがして……。長いなあと思ったときもあったのですが、やっぱり、あっという間でしたね」
吉高さんも、「撮影からこれまでの期間が、走馬灯のように頭のなかで巡って……」としみじみ。「でも、まだどこかで終わっていないような感じもするんです。あのオープニングが、もう流れないのかと思うと、寂しい気持ちでいっぱいです」
そして、この日、お礼のために参拝した平安神宮や上賀茂神社でのツーショット写真が会場のスクリーンに。
「クランクインのときにもお邪魔した場所なので、初日の気持ちがよみがえってきました。『大河ドラマとは、どういうものなのだろう……』なんて思いながら、よくわからずに平安神宮を歩いていたんですよ」と、吉高さんが思い出を語れば、柄本さんも「僕も、何がなんだかわからないまま歩いていました」などと応じるなど、息の合ったところを見せてくれました。
また、柄本さんは京都で初日を迎えたことに特別な想いを抱いていたとか。「16、17くらいのときから、京都の撮影所でお世話になっていて、長いときは4ヵ月くらい京都にいることもあったんです。それ以来、撮影で何度も来させていただいています。そんな場所で、こんなに大きな作品の初日を迎えられて、うれしかったですね」
最終回の放送日に、平安神宮を訪れた二人(写真提供:NHK)
縁結び社で「私たち結ばれないのに、大丈夫?」
上賀茂神社では、紫式部も参拝したと伝わる縁結びの神様「片山御子神社」(通称・片岡社、上賀茂神社の第1摂社)に足を運んだ二人。紫式部はこの神社を題材に、「ほととぎす 声まつほどは 片岡の もりのしずくに たちやぬれまし」という恋の歌を詠んだといわれています。
恋の成就を願って、片岡社には、この歌が書かれた「縁結び絵馬」がたくさん奉納されています。そこに吉高さんと柄本さんの写真が飾られていることに感謝しつつ、「縁結びの神社でしょう? 私たち(まひろと道長)は結ばれないのに大丈夫かなあ……」と、吉高さん。ユーモアを交えたチャーミングなコメントで、こうして場を和ませ、終始イベントを盛り立ててくれました。
上賀茂神社の境内にある「片山御子神社(片岡社)」で(写真提供:NHK)
また、大石さんのお母様は京都出身で、平安神宮の近くで生まれ育ったという、意外なつながりも。今回は京都を舞台とした作品ということで、とても緊張したそうです。
脚本を執筆するうえで、いちばん難しかったのは、『源氏物語』の誕生をどう描くか、ということだったとか。
「はっきりしたことはわからないから、学者の先生方は誰もそこを語っていないんです。でも、人間が動いて演じるドラマでは、自分たちの見解を出さなければならない。何度も何度も話し合いを重ねたので、脚本が1ヵ月くらい止まっちゃいましたね」
「当時は紙が高価だから、スポンサーなくして『源氏物語』の執筆はありえない。時代考証の倉本一宏先生もそうおっしゃっていたので、道長をスポンサーにすることは、早い段階から決まっていました。それで、越前の紙が好きだとか、ちょっとずつ前フリをして……。だって道長は、まひろの言ったことは全部覚えていますからね(笑)」
柄本さんも笑顔で同意。「そうそう!わざわざ『覚えておこう』なんてかっこつけてたけど、ほんとは全部覚えているんです」。
じれったい道長とまひろ、「妾でいいもん!」に大きな拍手
ドラマの名場面の映像を見ながら、トークはさらに盛り上がります。
物語の序盤、若かりし日のまひろが映し出されると、登壇者から「若い!」「ものすごく若い!」とツッコミが。「私、このドラマの現場で誕生日ケーキを2回いただいてますからね。若いかもしれない、ほんとに」。何気ないその一言から、吉高さんが2年以上の長きにわたって『光る君へ』に取り組んできたことがわかります。
柱にもたれて二人で月を見上げるシーン(36話)——この撮影は、吉高さんの記憶に鮮明に残っているとか。
二人の距離感をどのくらいにするか、座り位置や立ち位置は、その都度、話し合って決めることが多く、「このときも最初はもっと離れていたけど、『じゃあ、口説いちゃうみたいな感じにしちゃう?』と近づいたんだよね」と柄本さん。そんな掛け合いから、いい作品にしようと切磋琢磨する撮影現場の空気が伝わってきます。
隣にいるのに互いに背を向けている。まひろに話しかけているのに、決して目は合わさない——その演出には、中島由貴さん(チーフ演出)のこだわりが。「見つめ合う関係とはちょっと違うというか……。ズレているほうがあの二人らしいし、かえってドキドキするかなあ、と。だって、見つめ合ったら、終わっちゃうじゃないですか」
視聴者をじらすような演出だったと知った司会の岩槻アナは、「ず〜っとすれ違いで、ほんとにじれったいですよね!」と、視聴者目線で発言。「演じる側はじれったくないんですか?」との問いかけに、吉高さんは「もう、じれったいですよ!」と即答。「じれったいよね」と柄本さんも同意すると、「全然、妾でいいもん!ワタシ」と、吉高さんから“本音”が飛び出したのです。
『光る君へ』ファンのモヤモヤを代弁するような一言に、客席からは笑い声と大きな拍手が。記者席にいた私も、思わず拍手してしまったほど。ほんとに妾でよかったですよね。
続く、吉高さんの「道長もまひろも、惚れたハレたがヘタクソなんじゃない?」という核心を突く発言に、柄本さんも「ヘタクソですよ」と頷いたところで、大石さんが参戦。
「道長はず〜っと一途で、気持ちをまっすぐ伝えている。でも、まひろが気難しいんですよ。まひろがかわしてしまう。私としては、道長がずっとフラれている、フラれ続けているという気持ちで書いていました」。その言葉に柄本さんは苦笑い。「そうですね、確かに(道長は)フラれてます」。
まひろや倫子は打毬の試合を見ていなかった?!
もう一度見たい思い入れのあるシーンを選ぶコーナーで、柄本さんが取り上げたのは、7話に登場した打毬(だきゅう)の場面。撮影は2日間に及び、この日のために7ヵ月くらい前から練習を重ね、準備をしたそうです。
「みんなかっこよかった!ほんとうに暑かったのに、よくがんばったなあ……」と、ねぎらいの言葉をかける吉高さん。「試合の最中も、道長はまひろのことを見ていた」などとトークが盛り上がるなか、「でも、まひろたちは、試合しているところは見ていないんですよね」と中島さんがポロリ。打毬の試合の場面の撮影時、実は女性陣はその場におらず、観戦するまひろや倫子たちの様子は別撮りだったことを明かしたのです。
想定外(?)の暴露に、「言わないで!!見てたの!かっこいいと思ってたの!」と吉高さんが慌てて取り繕ったものの、客席は大爆笑。「(まひろの顔を指さして)ほら、うれしそうだよ。見てなかったら、こんなリアクションできないよ!」と言い張る吉高さんに、「見てなかったらできないよねぇ」と柄本さんも調子を合わせる。楽しいやりとりに会場が沸きました。
そして、話題は最終回のことに。
病身の道長を演じるため、柄本さんがかなり痩せたという話を受けて、柄本さんが裏話を披露。「道長が亡くなるシーンを撮る前に、『宇治川のほとりシーンもよかったけど、あのときはやつれたの?』と中島さんに聞かれたので、『はい、台本に〈やつれている〉と書いてあったので』と言ったんですよ。そしたら『じゃあ、もうちょっとね』と(笑)」。つまり、「中島さんは、宇治川のシーンのときよりも、もっとやつれてほしいのだな」と解釈し、さらに減量に努めたというのです。
もっとも中島さんの記憶では、「私、そんなこと言ってない!」とのこと。真実は神のみぞ知る、でしょうか。
最終回、倫子が涙を流さなかった理由とは
また、道長が亡くなるとき、左手を布団の外に出していたのは、脚本にはない演出だったとか。「倫子には申し訳ないけど、あの手はまひろを探していて、そこで息絶えたのかなあ、と。で、最後は私が納めますと、その手を倫子が布団に納めた」という中島さんの説明に、吉高さんは思わず、「怖いよね〜」。倫子は、あの左手がまひろを探していたことに、気づいていたのだそうです。
さらに興味深いのは、「倫子は涙を流さない」と脚本に明記されていたこと。その意図について、大石さんはこう語りました。
「倫子はあそこで、ある意味、すっきりしたというか、『自分の人生の第1章は終わり』だと考えたんです。だから涙は流さなかった。その後、倫子は80代まで生きますからね。(道長の死で)ひとつの時代の終わりを認識したという醒めた気持ちだったと思います」
そして、いよいよラストの場面。「嵐が来るわ……」というセリフのあとのまひろの表情が、「少しほほえんでいたように見えた」という岩槻アナに、中島さんが、「セリフを言うときは笑っていないんだけど、嵐が来るという暗い顔で終わりたくないというのもあって、歩き出すときに、ちょっとニュアンスが入っていた部分はあります」と解説。変化していく時代を「見届けるぞ」といった気持ちを含んだ表情だったことが明かされました。
翌日が柄本さんの38歳の誕生日ということで、最後は「ハッピーバースデー」の合唱でフィナーレに。約3時間の充実のイベントが終了しました。
トークショーでも何度も話に出たように、その日は美しい満月の夜。たくさんの人が空を見上げて、『光る君へ』の世界との名残を惜しむように、月の写真を撮っていたのが印象的でした。
会場の上空で輝く満月。みなさんにつられて、私も撮ってみました(撮影・筆者)
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