「歩きやすい」を基準に靴を選んではいけない…ひざの名医が教える「ヨボヨボ老人」にならないために履くべき靴

2024年12月21日(土)6時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JackF

健康のためにはどんな靴を選ぶべきなのか。整形外科医の杉本和隆さんは「ひざに優しい靴を選ぶべきだ。かかとが平らな靴は歩きやすそうだが、ひざに負担がかかる姿勢になりやすく、おすすめしない」という——。(第2回)

※本稿は、杉本和隆『痛みがすーっと消える 魔法のひざ体操』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/JackF
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■ヒアルロン酸のサプリメントはひざに効くのか


ヒアルロン酸を注射器でひざ関節に直接注入する方法で、ひざ関節の痛みが軽減するというお話を第2章でしました。今や多くの方がサプリメントを栄養補助に利用していることもあり、「ヒアルロン酸のサプリメントはひざに効くのですか?」という質問をいただきます。これは正直、YESとはお答えできない質問です。


なぜなら、1日ボウルに2杯分のヒアルロン酸を食べたら軟骨が少し再生したという報告がありますが、これはあくまで研究データであり、普通の生活を送る方が、現実にそんな大量のヒアルロン酸を口から摂取することはできないからです。


昔、ある健康雑誌で「キクラゲを食べてひざ痛が治った」という記事を読んで驚いたことがあります。たしかにキクラゲはヒアルロン酸の含有量が多い食品です。しかし、過去のデータからも、キクラゲを多少多めに毎日食べたくらいでは、軟骨が再生するほどの量には至りません。


何人もの体験談が掲載されたその記事はもしかすると、キクラゲを食べつつ、筋肉をきたえる運動をした方々の体験談を、さも“キクラゲだけで治った”ように誇張して書かれたものだったのかもしれません。


いずれにしてもキクラゲを食べるだけでひざ痛が治るというのは、科学的根拠のない話です。サプリメントも一時のブーム的に摂取するのでは、まったく意味がありません。


そしてダイエットと同じようにひざ痛も、口から摂取するものだけに頼っては治りません。サプリメントや食事でひざに負担をかけない体づくりを心がけながら、並行して運動を行う。これこそが、ひざ痛を緩和する一番の方法だと私は思います。


■ハイヒールとフラットシューズ、ひざに悪いのは…


「そんなかかとの高い靴を履いていると、ひざを痛めるよ」。こんなことを言われたことはありませんか?


これは大きなお世話、いや間違いです。実はほどほどのハイヒールは、ひざによい履き物なのです。


電車の中で吊り革につかまっているとき、ヒールの高い靴を履いている女性はひざをまっすぐ伸ばして立っているはずです。そしてフラットな靴を履いている女性はというと、どちらか片方のひざが曲がっていることが多いはずで、前者の女性のほうが圧倒的にひざに負担がかからない立ち方をしています。


実はほどほどのハイヒールは、足の3つのアーチをしっかり支えることができるのです。3つのアーチとは、かかとから親指の付け根を結んだ「内側縦アーチ」、かかとから小指の付け根を結んだ「外側縦アーチ」、そして5本の指の付け根を結んだ「横アーチ」のこと。ここをしっかり支える作りなら(あまり安価ではない靴ブランドのもの)、ひざを痛めることはありません。


■理想的なヒールの高さ


でもひと口にハイヒールといっても、ひざによいものには条件があります。それはヒールの高さです。3.3センチ未満のヒールはひざによくありません。一方で、6センチを超えるヒールは腰を痛める原因になりやすいので、これもお勧めできません。


写真=iStock.com/Bilanol
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理想的なヒールの高さは、3.3センチ以上6センチ未満です。3.3センチ未満の低ヒールは足が安定せず、横にグラグラ動きます。こうした靴を履いていると、かかとの外側が減ってきます。フラットな靴でも、横にグラグラする場合は同じことがいえます。


一方で3.3センチ以上6センチ未満のヒールなら、かかとをヒールの点で支えるので、足が横にグラグラ動くことはありません。ただしヒールが細いピンヒールは安定性に欠けるので、ある程度太さがあるヒールを選ぶべきでしょう。


またあまり安価な靴はソールの部分が3つのアーチを支えるように作られていないものが多いので、こちらもあまりお勧めできません。でも正しいヒールの高さの靴を選べば、むしろひざに負担なく一日を過ごせるのです。


■フラットシューズはお勧めしない


ひざに優しい靴とは、どんな靴でしょうか。歩行が楽なのは断然、かかとが低い靴やフラットな靴です。でも靴底が平らだと、体重が母趾球(足の親指の付け根)にのらないので、後ろのほうに荷重がかかることになります。


そうなると倒れないようにと、体は無意識にバランスをとろうとしてひざを曲げます。このひざを曲げた体勢が、ひざ小僧(膝蓋骨)によくないのです。


つねにひざを曲げた体勢を続けていると、それだけひざにはストレスがかかります。しかもひざを曲げた状態が続くと、ひざの裏側から足の裏にかけての筋肉のスプリング効果が失われてしまい、すべての衝撃がひざにダイレクトにくるのです。


階段を下りるときフラットな靴だと、さらに大きな衝撃が加わります。たとえば5センチの段差をかかとで強く着地すると、実に体重の20倍の荷重がかかります。でも前の項でご説明した足の3つのアーチをしっかり支える靴なら、足元で衝撃を吸収できるので、ひざへの負担は少なくなります。


この点でも、かかとにはフラットより、3.3センチ以上6センチ未満のヒールが好ましいのです。


■ひざの名医が教える正しい歩き方


平らなところを歩くときは、かかとから足をつくのがひざに最も負担をかけない歩き方です。ハイヒールの場合も、実はかかとから着地しています。そうしないとバランスがとれないからです。歩くときの足の運び方を、かかとから着地するよう意識してください。


ひざによい靴は、かかとが平らなものより少し丸みがあるものです。着地するときに足全体に力が入るような構造になっているので、ひざにダイレクトに衝撃がきません。靴を選ぶときは、ぜひかかとをチェックして買うようにしてください。


また、女性に多い外反母趾が直接ひざ痛の原因になることはありませんが、外反母趾が進行して足の骨の変形が進むと、足のアーチがなくなり扁平足になってしまいます。こうした症状を持つ方も、履いたときに足のアーチを作る靴を選ぶことが大切です。


変形性ひざ関節症などの疾患があれば、保険適用でオーダーメイドの中敷(足底板)を作れます。今はシューフィッターといった足の専門家が常駐する靴屋さんがあるので、ぜひ利用して、ひざを壊さない対策をとりましょう。


■ひざは痛くても運動したほうがいい


「ひざが痛いときは安静に」と信じている方が、実はかなりいらっしゃるのではないでしょうか。第2章でも「動かさないとひざ痛はよくならない」とお話ししましたが、もう一度お伝えします。ひざ痛は動かさないと治りません。痛くても動かしたほうがよいのです。


痛みを我慢したり、こらえたりするのはとてもつらい。でも痛みをあまり感じない動かし方があります。私が患者さんにお勧めしているのは水中ウォーキングです。ひざ痛の方には、プールまで行かなければならないというリスクが多少生じますが、ぜひご家族などに協力してもらって、プールに出かけてみてください。


水中ウォーキングは水の浮力によって、ひざに負担をかけずに足を動かせるので、ほとんど痛みを感じないはずです。そして有酸素運動と無酸素運動が同時にできることも、水中ウォーキングをお勧めする理由のひとつです。


有酸素運動は酸素を取り込みながら行う運動で、体脂肪を燃やす効果があります。肥満はひざ痛の直接的な原因ではありませんが、筋肉が少なく体脂肪が多い肥満の方は、ひざ関節が体重を支えきれていない可能性が大なので、ダイエットの必要があります。


■一石二鳥の水中ウォーキング


体脂肪を減らすには有酸素運動が不可欠で、その点、水中ウォーキングはひざに負担をかけず、さらに水の抵抗を受けながら歩くことで、陸上でのウォーキング以上に短時間で効率よく体脂肪を減らすことができるのです。



杉本和隆『痛みがすーっと消える 魔法のひざ体操』(幻冬舎)

一方で無酸素運動は、短時間に強い力を出して筋肉をつける運動です。陸上でいえば短距離走やバーベルを使った筋力トレーニングで、酸素を使わずに筋肉を収縮させるエネルギーを作ることから、こう呼ばれています。


水中を歩くときは、水の抵抗があるために、ももを上げないで歩くことは不可能です。骨盤から脚のすべての筋肉を使って足を持ち上げないと、前に進むことができません。とくにももを上げる動きが大腿四頭筋に強い負荷をかけます。


市区町村やスポーツクラブなどのプールでも、ひざ痛の方が多く水中ウォーキングを行っており、場所によっては専用レーンが設けられています。


同じ仲間ができれば運動も楽しくなり、継続につながります。そういった意味も含め、私はひざ痛の方には水中ウォーキングをお勧めしています。


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杉本 和隆(すぎもと・かずたか)
整形外科医、苑田会人工関節センター病院病院長
人工関節移植手術において全国トップレベルの症例数を持ち、日本人に合わせた人工関節の開発にも携わる。従来の半分ほどの切開で人工関節を移植する手術法【MIS】を用い術後の回復を格段に早めることに成功。患者さんの夢に耳を傾けそれに応える人工関節手術を行うことを信念としている。東京都立大学客員教授、アジア整形外科学会理事、日本人工関節学会評議員など
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(整形外科医、苑田会人工関節センター病院病院長 杉本 和隆)

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