ナイキ、スターバックス、無印良品、資生堂は「ブランドの人格」をどうつくっているのか?

2024年8月13日(火)4時0分 JBpress

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「これでいい」ではなく「これがいい」と思ってもらうことが、これからのブランドには必要だ。現在、似たような商品・サービスが量産され市場に溢れている。それは、他社も同じ手法を取ってデータを集め、分析し、商品開発をしているからだ。だが、デザインの力を経営に取り入れることで、自社の強みや力を発揮した、より魅力的で長く愛される新しいブランドを生み出すことができるかもしれない。本連載では、『デザインを、経営のそばに。』(八木彩/かんき出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。元電通のアートディレクターが15年の経験と豊富な事例を基に、デザインの力でブランドの魅力を引き出すための考え方とプロセスを解説する。

 第3回は、八木氏流の「ブランド」の定義と、ブランドのデザインの仕方について、ナイキ、スターバックス、無印良品、資生堂の例で紹介する。

<連載ラインアップ>
■第1回 フェラーリ、ポルシェ、エルメスは、なぜ他のブランドに代替されないのか
■第2回 なぜ「いい感じにしてください」で「いい感じ」にならないのか? ブランドの独自性をデザイナーと発見する秘訣とは
■第3回 ナイキ、スターバックス、無印良品、資生堂は「ブランドの人格」をどうつくっているのか?(本稿) 
■第4回 スターバックスとユニクロは、なぜコーヒースタンドと普段着の常識を覆せたのか?
■第5回 ワークシートで分析、スターバックスの「サードプレイス」、ユニクロの「LifeWear」はどのように生まれたか?(8月27日公開)
■第6回 ブランドの「らしさ」を凝縮するネーミングのポイントと、ステートメントの開発法とは(9月3日公開)

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■ 「ブランド」はらしさ

「ブランド」と言うと、シャネルやルイ・ヴィトンなどのラグジュアリーブランドを想像される方も多いと思います。「ブランド品」という言葉などもありますが、実はブランドは「ラグジュアリーブランド」を指すわけではありません。

 ブランドの語源は、「焼印をつける」という言葉からきていて、もともとはワインの樽や家畜などに焼印をつけることを意味していたそうです。ブランドという言葉が本来指すのは、似たものが混在する中で、競合商品と間違えないための印であったと言うことができます。

「近代マーケティングの父」とも呼ばれるマーケティング界の第一人者、フィリップ・コトラー教授は、ブランドを次のように定義しています。

 アメリカ・マーケティング協会は、ブランドを、「個別の売り手もしくは売り手集団の商品やサービスを識別させ、競合会社の商品やサービスから差別化するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはそれらを組み合わせたもの」と定義している。ブランドは当該製品やサービスに、同じニーズを満たすために設計された他の製品やサービスから、何らかの形で差別化する特徴を加える。その差別化要因は、機能的、合理的、あるいは実体がある——つまりブランドの製品パフォーマンスに関連する場合もあれば、象徴的、情緒的、あるいは実体がない——ブランドが体現するものに関連している場合もある。

——フィリップ・コトラー+ケビン・レーン・ケラー
『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 基本編』
(ピアソン・エデュケーション、2008)

 この説明は難しく、直感的に理解しづらいので、私なりに再解釈したものが以下になります。

 ブランドとは、名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはこれらの組み合わせが一貫した思想と世界観のもとで開発されており、独自の価値(=らしさ)を持つもの。

 これが私の考えるブランドの定義です。ブランドの「らしさ」を可視化する時の例えとして、私は「ブランドの人格」という表現をよく使っています。ブランディングの用語として、「ブランドパーソナリティ」と呼ばれるものです。

 ブランドを人格として想像すると、直感的に「好き」かどうかを判断しやすくなるというメリットがあります。ブランドの人格を、有名な4つのブランドを例に考えてみましょう。「ナイキ」「スターバックス」「無印良品」「資生堂」の4つの人格を、私なりの解釈で表現してみると次のようにまとめることができます。

  • ナイキ‥‥スポーティでアクティブ、自分の主張をきちんと持っている人
  • スターバックス‥‥オシャレで都会的、自分の時間を大切にする人
  • 無印良品‥‥清楚でまじめ、丁寧に生活している人
  • 資生堂‥‥上品で美しく、自信に満ち溢れている人

 多少の差はあるかもしれませんが、これらのブランドを知るほとんどの方が、同じようなイメージを持っているのではないでしょうか。

 一貫した人格があり、イメージを管理できているブランドは、ブランディングがうまくいっていると言えるでしょう。

 このように、ブランドの人格が確立できていれば、「好きだな」「仲間になりたいな」と思う人たちが自然に集まってくる状況をつくることができます。

 しかし、イメージがバラバラで、言っていることがその都度変わるようなブランドの人格では、そもそも印象に残りませんし、信用もされません。

 多くの共感を得て長く愛されているブランドには、明確な人格があります。

 ブランドを「好き」だと思ってもらうためには、競合ブランドが簡単に真似できない、明確な「らしさ」を持つことが必要だ、と言うことができます。

■「ブランディングデザイン」はらしさの可視化

 ブランディングデザインとは、ブランドの思想と世界観(=らしさ)に独自性と一貫性をつくること。そして、ブランドに関わる全員が、ブランドの思想と世界観を理解し、共創できる状態をつくることです。

 ブランドの「らしさ」を可視化し、ブランドの機能的価値と情緒的価値を高め、お客様にブランドを「好き」になってもらうことを目指していきます。

 ブランディングデザインを成功させるためには、4つのポイントがあります。

【ブランディングデザインのポイント】

① トップが想いを持つ
 ブランディングデザインにおいて最も大切なのは、ブランドのトップ(=経営者や責任者)の想いです。「どういう人が、どういう想いでつくったブランドなのか」は共感をつくるうえで大切な要素です。

 また、「伝えたいこと」を可視化する技術がデザインだと前述しましたが、「伝えたいこと」は、トップの想いの中に眠っていることがよくあります。ブランディングデザインでは、ブランドの中心に立つ人の想いがブランドの核になっていくのです。

 トップの想いがあやふやなまま、ブランディングデザインに取り組むケースも何度か経験しましたが、このような場合は、プロジェクトが途中で終わってしまうことがよくありました。

 ブランディングデザインは、結果が目に見えるようになるまでに時間がかかるため、忍耐力も必要です。そのためには、トップの想いが絶対に必要なのです。

② 強みを発見し、世の中のニーズと照らし合わせる
 ①はとても大切な要素ですが、注意点もあります。それは独りよがりな商品・サービスをつくっても、多くの人に共感されるブランドにはならないという点です。

 特に、想いがとても強い時には、客観性が失われていることもあり、「想いはあるけれど、お客様から共感されない」という状況に陥る場合があります。そのような事態を避けるためには、もともと持っている魅力(=企業、商品やサービスの強みやトップの想い)と、世の中のニーズを照らし合わせて、重なり合う部分を見つけることが必要です。この重なりの部分が、オリジナリティがあり、共感を得られるブランドコンセプトの開発につながっていくのです。

③「らしさ」に一貫性をつくる 
 近年はメディアが増え、公式サイト、店舗、SNS、広告など、お客様との接点がとても多くなりました。

 接点ごとに思想や世界観がバラついていると、お客様はブランドを捉えにくくなります。例えば、「商品ごとにコンセプトが違っていて、思想がバラついている」「ツールによって色や雰囲気に一貫性がなく、世界観がバラついている」状態だと、同じブランドだと捉えることが難しくなってしまい、お客様はブランドを認識することが難しくなります。

 逆に、思想や世界観が統一されていると、どんな小さなツールからでも、そのブランドらしさを伝えることができるようになります。例えば、スターバックスを例にとって考えてみると、店舗、パッケージデザイン、季節ごとの新商品の広告、オリジナルグッズ、バリスタが使うエプロン…など、あらゆる接点が同じ思想と世界観で開発されています。全国各地に店舗があり、商品数の数も多いブランドですが、すべての接点から一貫した「らしさ」が感じられるはずです。

 このように、ブランドの「らしさ」をつくるためには、すべての接点に一貫性をつくることが必要になります。

 ファンになってもらうためには、ブランドの「らしさ」を見える化し、ブランドの「人格」をはっきりさせることが求められます。

④ 続けられる仕組みをつくる
 ブランディングデザインに、終わりはありません。ブランドを刷新した後は、お客様の声を聞いたり、時代の変化を取り入れたりしながら、ブランドを育てていく必要があります。

 ブランドは一人で運営することは少なく、ほとんどの場合はチームで運営しますが、その場合チームメンバー全員が、ブランドについて共通認識を持つ必要があります。

 つまり、誰が関わってもブランドの「らしさ」が意図せず変化しないように、仕組みをつくらなければなりません。そのために、ブランドをチームで共有し続けられる仕組みづくりにも取り組みます。一過性の施策ではなく、ブランドらしさを維持する仕組みも含めて、ブランディングデザインと本書では呼んでいます。

<連載ラインアップ>
■第1回 フェラーリ、ポルシェ、エルメスは、なぜ他のブランドに代替されないのか
■第2回 なぜ「いい感じにしてください」で「いい感じ」にならないのか? ブランドの独自性をデザイナーと発見する秘訣とは
■第3回 ナイキ、スターバックス、無印良品、資生堂は「ブランドの人格」をどうつくっているのか?(本稿) 
■第4回 スターバックスとユニクロは、なぜコーヒースタンドと普段着の常識を覆せたのか?
■第5回 ワークシートで分析、スターバックスの「サードプレイス」、ユニクロの「LifeWear」はどのように生まれたか?(8月27日公開)
■第6回 ブランドの「らしさ」を凝縮するネーミングのポイントと、ステートメントの開発法とは(9月3日公開)

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筆者:八木 彩

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