たった1発の対衛星兵器でも悪影響は1000年続く
2021年、ロシアの対衛星兵器の試験で、旧ソ連時代に打ち上げられた軍事衛星(コスモス-1408)が破壊されました。
重量1750kgの破壊された衛星は、10cmを超える大きなデブリを1500個以上うみだし、さらに小さなデブリ数十万個が、高度300キロから1100キロの範囲に雲のように広がったと推定されています。
ロシアが対衛星兵器をテストした理由は、現代の高度な軍事技術の全てが衛星を利用しているからです。
ミサイルの精密誘導、無人兵器やドローンの操縦、さらにあらゆる情報通信システムにとって衛星の存在は必要不可欠です。
近年になって米国やロシア、中国で宇宙軍の創設されたという報告があるのも、自国の衛星を守り敵国の衛星を破壊することが、戦争に勝つ最短ルートになっているからです。
一方で、宇宙空間の軍事化と兵器化は軌道上のゴミの増加と密接に関係しており、衛星や宇宙ステーションの安全性を脅かしています。
そこで今回、研究者たちは宇宙における戦争が軌道の安全性と衛星に与える影響について、精緻なシミュレーションを行うことにしました。
調査にあたっては2つの現実的なシナリオがシミュレートされました。
1つ目は単一の対衛星兵器が試験的に発射された場合の影響。
2つ目は大国間の戦争により、双方の衛星の10%が破壊された場合の影響です。
またシミュレーションではNASAの標準破壊モデルが利用されました。
この標準破壊モデルは既存の観測結果や実験室での測定結果をもとに作成されており、10cm以上の大きなデブリが1個できるとき、1~10cmの間の小さなデブリが50個できるとされています。
より具体的には10トンの衛星が1機破壊されると10cmを超えるデブリが5000~1万5000個、1~10cmのデブリが25万~75万個作成されます。
研究者たちがシミュレーションを行った結果、単一の衛星兵器のテストであっても1cmを超えるデブリが新たに10万2000個発生し、デブリの発生地点が高高度だった場合には、その悪影響が消えるのに1000年以上かかることが示されました。
より具体的には、対衛星兵器を1つテストするごとに、およそ4.5年に1個の割合で被害に合う衛星が増えることになりました。
4.5年に1個なら、テストの影響はあまり大きくないように思えます。
しかし影響が1000年続くため、最終的に破壊される無関係な衛星はずっと多くなります。
たった1回のテストにしては、その代償はあまりにも重すぎるでしょう。
ですが大国間の宇宙戦争では、より黙示録的な結果が得られました。