毎年、オクトーバーフェストなどの秋の祭事が盛り上がる時期には、ビールが脚光を浴びる。近年、この飲料には科学者からの注目も集まっている。なぜなら、ビールの原料のひとつであるホップには、健康を促すさまざまな性質があることがわかってきたからだ。(参考記事:「9月なのになぜオクトーバーフェスト? 世界最大のビールの祭典」)
ビールの健康効果では「ホップこそが主役です」と、米カリフォルニア大学デービス校のビール醸造科学教授グレン・フォックス氏は言う。実験室内での数多くの研究や、少人数ながらヒトを対象にした小規模研究からは、ホップに含まれる物質には抗菌、抗腫瘍、抗炎症、血糖値の調整といった幅広い特長があることがわかっており、専門家らは、この植物が心血管疾患、糖尿病、胃腸障害、さらにはがんに対する効能を持つ可能性を探っている。
ホップ(Humulus lupulus、アサ科)が持つ有益な性質の大半は、雌株の毬花(まりばな)に豊富に含まれる抗酸化物質に由来する。毬花は、ビールの製造に使われる部位だ。抗酸化物質は炎症を抑えたり、細胞を損傷から保護したりする働きを持ち、ホップの14%を占めている。
ホップに含まれる有望な抗酸化物質である苦味酸(くみさん、苦み成分)とポリフェノールはまた、ビールの風味や香りのもとにもなっている。研究者らが特に注目しているのは「キサントフモール」と呼ばれるポリフェノールで、これはホップだけに含まれる強力な抗酸化物質だ。
「適度にビールをたしなむ人たちは、自分は健康にいいことをしていると自負していいでしょう」とフォックス氏は言う。「ノンアルコールビールは健康飲料とみなされるべきだと私は考えています」
ただし、知っておいてほしいのは、多くのビールに含まれるキサントフモールはごく微量であること、また、心臓病やがん、肝臓障害、免疫機能不全といったアルコールのさまざまな健康リスクを無視してはならないということだ。(参考記事:「お酒の害で知るべきこと8選、女性のがんから「不安」まで」)
ホップとビールの長い歴史
ビール造りは農業とともに始まった。およそ1万2000年前、人間は狩猟採集の移動生活から農耕社会へと移行し、地域に応じて、小麦、ソルガム、大麦、トウモロコシなどの、ビールのもととなる穀物の栽培を始めた。
人々はごく早い時期から、穀物が雨に濡れると、残された液体に変化が起こることに気づいていた。「当時の人々は、野生の酵母が液体に定着して発酵プロセスを引き起こし、糖分をアルコールに変えているとは理解していませんでした」とフォックス氏は言う。しかし彼らにも、「これを飲むと楽しい気分になる」ことだけはわかっていた。(参考記事:「天然のアルコールで、日常的に酔っぱらっている野生動物たち」)
発酵を制御する方法が人類によって解明されると、ビールはたちまち世界で最も人気の高い飲料のひとつとなった。それでも、穀物、酵母、水だけでは風味や香りが乏しいうえ、飲料が腐らないようにする方法も必要だった。(参考記事:「インカ以前、ワリ帝国「ビール外交」の謎を解明」)
この問題に対処するため、各地で多種多様な植物素材がビールに加えられるようになった。こうした素材のことをまとめて「グルート」と呼ぶ。1000年ほど前のローマ帝国では、食品の腐敗を遅らせるためにすでにホップが使われており、主要なグルートとしても利用していた。
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