ソーシャルメディア(SNS)の利用と、睡眠の質が下がったり悪夢が増えたりすることとの関連を示した研究が、2024年3月に学術誌「BMC Psychology」に発表された。これまでもTikTok、Instagram、X(旧ツイッター)、FacebookなどのSNSの頻繁な利用は、うつ病、孤独感や孤立感の増加、ネットいじめや自殺のリスクの上昇など、メンタルヘルスへの気がかりな影響との関連が指摘されてきた。
「SNSが私たちの生活に深く浸透するにつれ、その影響は私たちの夢にまで及んでいる可能性があります。起きている間にSNSに多くの時間を費やす人ほど、悪夢を見やすいことが明らかになったのです」と、この論文の筆頭著者であるオーストラリア、フリンダース大学の心理学研究者レザ・シャバハン氏は言う。
SNSの利用が悪夢と結びついてしまう理由の1つとして、ユーザーがSNSで目にするいじめや政治的な対立、悲惨なニュース、他人との比較などに関するコンテンツが、感情的な苦痛を強めてしまうからだと指摘するのは、米アルバート・アインシュタイン医科大学の臨床心理学者で神経科学者のシェルビー・ハリス氏だ。氏はこの研究には参加していない。
今回の結果はSNSと睡眠の質との関係に関する他の研究とも一致しており、SNSの利用が健康全般に及ぼす悪影響がまた1つ明らかになった。ただし、SNSに関連した悪夢はまだまれである点や、今回の研究は自己申告に頼っているうえ、ある1つの時点で異なる個人を比べる研究デザイン(横断研究)であるため因果関係を明確にするものではない点に注意が必要だ。(参考記事:「増える大人のADHD、ネットのやりすぎによる「後天性」の恐れ」)
SNSが夢に影響を及ぼすしくみ
シャバハン氏らの研究では、「ソーシャルメディアに関連した悪夢の尺度」が作られ、595人の参加者が回答した。
この尺度は、悪夢の分類や、外的な要因が夢の質に及ぼす影響などに関する過去の研究に基づいて、被害者になる、無力になる、コントロール不能に陥るなどのテーマを含む悪夢の例を用意し、それぞれに当てはまる夢を見た頻度を参加者に答えてもらうものだ。(参考記事:「「悪夢障害」を知っていますか?」)
参加者はこのほか、SNSを利用する程度や、心の状態や睡眠などに関する質問に回答した。
比較的多く見られた悪夢の内容には、他のユーザーと対立する夢や、自分のアカウントにアクセスできなくなる夢などがあった。
こうしたSNSに関連した悪夢は、「不安の増大、心の平穏の喪失、睡眠の質の低下、悪夢に伴う苦痛と関連していました」と、オーストラリア、クイーンズランド大学保健リハビリテーション科学部の生物統計学者であるアサド・カーン氏は言う。氏は今回の研究には参加していないが、SNSと睡眠に関する別の論文を筆頭著者として書いている。
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