野生のカメが群れで行動する、初の証拠、定説覆す驚きの報告

繁殖期や甲羅干しのような「資源の共有」ではなく、メキシコカワガメ

2023.09.28
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ベリーズに生息する野生のメキシコカワガメのオス。近絶滅種に指定されているこのカメは、ベリーズでは珍味として人気が高い。(PHOTOGRAPH BY DONALD MCKNIGHT)
ベリーズに生息する野生のメキシコカワガメのオス。近絶滅種に指定されているこのカメは、ベリーズでは珍味として人気が高い。(PHOTOGRAPH BY DONALD MCKNIGHT)
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 ベリーズの濁った川で夜明けにカヌーを漕ぎながら、ドン・マクナイト氏とジャレン・セラノ氏はメキシコカワガメ(Dermatemys mawii)の音に耳を傾けていた。彼らの甲羅には音波発信器が取り付けられており、水中マイクでカメたちの動きを追いかけていたのだ。

 データを解析した結果は驚くべきものだった。「まるでクジラの群れを追っているようでした」と、オーストラリア、ラトローブ大学とベリーズ・カメ生態研究所の生態学者であるマクナイト氏は言う。カメたちは一緒に川を泳ぎ回り、場合によっては仲間のカメから約1メートル以上離れないこともあった。論文は2023年9月15日付けで学術誌「Animal Behaviour」に掲載された。

 このような社会的なカメは、一般的に単独行動をすると考えられてきた動物たちへの私たちの思い込みをひっくり返すかもしれないと、氏は述べる。これまで、カメは繁殖期や日当たりの良い岩など同じ資源を求めているときは集まるが、通常は互いに関わり合うことはないと考えられていた。(参考記事:「カメは夜も「日なたぼっこ」、初の世界調査で明らかに」

 しかし、今回の研究では、メキシコカワガメが仲間を求めているように思えたという。「見ていてほっこりしました」と、フロリダ大学野生生物生態保全学科の修士課程に在籍するセラノ氏は言う。

 研究結果は、メキシコカワガメの保護にも役立つかもしれない。ベリーズやメキシコ、グアテマラの生息域全域でメキシコカワガメは減っており、国際自然保護連合(IUCN)の近絶滅種(critically endangered)に指定されている。密猟が多く信頼できる個体数のデータはないが、1万匹にも満たないかもしれない。

 メキシコカワガメの肉は、中央アメリカでは珍味とされ、闇市場でよく売られている。

「ベリーズはメキシコカワガメの最後の拠点となっていますが、家庭で消費される以上の肉や卵を求めて密猟が続けられているため、今後30年で絶滅する可能性があります」と、米フロリダ大学の野生生物生態学者で、今回の研究には参加していないベネチア・S・ブリッグス・ゴンザレス氏は言う。(参考記事:「世界の巨大淡水生物、40年間で約9割も減っていた」

研究と環境教育のためのベリーズ財団の屋外の囲いで集まるメキシコカワガメの赤ちゃん。(PHOTOGRAPH BY DONALD MCKNIGHT)
研究と環境教育のためのベリーズ財団の屋外の囲いで集まるメキシコカワガメの赤ちゃん。(PHOTOGRAPH BY DONALD MCKNIGHT)
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数カ月間、毎日カメを追いかけて

 2020年春、マクナイト氏とセラノ氏がメキシコカワガメについて別の研究をおこなっていたところ、このカメが一斉に動くことを発見した。

 そこで研究チームは、カメに本当に社会性があるのかを調べるため、丸太や岩、植物など、カメを引きつける要素が全くない区域を探し出した。また、音波発信器を雌雄19匹ずつの子どもの甲羅にも取り付けて、交尾行動も除外できた。

 その後、科学者たちは数カ月間毎日、カヌーに乗ってタグを取り付けたカメを追跡し、川を上り下りしながら2匹以上のカメの集団を見つけ、個体間の距離を測定した。

次ページ:密猟者に対しては裏目に、新たな規制が必要か

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