米国カリフォルニア州シエラネバダ山脈に、暗闇の中で体を発光させる盲目のヤスデが集団で生息している。最新の研究で、このヤスデがなぜ発光するよう進化したのか、その謎の一端が明らかとなった。
ホタルの場合、腹部にある特殊器官を自分で光らせるが、Motyxia属のヤスデは体全体が常に青緑色に光っている。特殊なタンパク質を持ち、それが体を覆っている硬い表皮の内側から発光する。
「ネオンライトのような光で、すぐそばまで近寄れば物を読むことも出来るほどの明るさです」。米ノースカロライナ州立自然科学博物館の名誉科学者ローランド・シェリー氏は説明する。同氏は今回の研究には参加していない。
これらの生物が体を発光させる理由は、敵への警告にあることはすでに知られていた。しかし、今回の研究により、バージニア工科大学の昆虫学者ポール・マレク氏とアリゾナ大学の昆虫学者ウェンディ・ムーア氏は、そもそもヤスデが生物発光をするように進化し始めたのは全く別の理由からであるという結論に達した。つまり、カリフォルニアの暑く乾燥した環境に適応するためであるという。
新たに見つかった発光種
過去の研究では、Motyxia属の発光する10種を観察したところ、それぞれの種で明るさが異なっていた。その種による明るさの違いを測れば、生物発光がどのようにして進化してきたのかが明らかになるかもしれない。これは進化生物学者にとっては重要な問題だ。
そこで研究チームは、Motyxia属の数種の野生サンプルを採集し、さらに対照群として、近縁だが発光しないXystocheir属のサンプルを集めた。研究室内で実験を行い、それぞれの種について発光の度合いを測った。
ナショナル ジオグラフィックのエクスペディションズ・カウンシルの支援を受けたことのあるマレク氏はある日、いつもと同じように観察を行っていると、驚くべき発見をした。これまで発光しないと考えられていた種(学名:Xystocheir bistipita)が、微かに体を発光させていたのである。この結果は、5月4日付で学術誌「Proceedings of the National Academy of Sciences」(PNAS)に発表された。
次に研究チームは、すべてのサンプルについていくつかの遺伝子の配列を決定し、それぞれの類縁関係を分析した。
その結果と、X. bistipitaが発光していたという事実を合わせて検討した末、X. bistipitaが実はMotyxia属だったという結論に達し、これを Motyxia bistipita と改名した。(参考記事:「最多750本足のヤスデ、米国で再発見」)
光あれ
研究ではさらに、M. bistipita がMotyxia属の他の種よりも早い時期に光る進化を遂げていたことも明らかとなり、それによってヤスデがいかにして発光するようになったかについてある仮説が立てられた。
M. bistipita のようにシエラネバダの低地に生息する種は、他のMotyxiaよりもはるかに暑く乾燥した気候に適応しなければならない。そして、その光は他の種と比較して弱く、天敵も少ない。(参考写真:「光る生き物の世界」)
つまり光が弱いのは、それが警告のためではなく、厳しい暑さに対して体が反応した結果ではないかと研究チームは考えた。
例えば、気温が高すぎるとヤスデは酸素を代謝するのが困難になり、過酸化物などの副産物ができてしまう。発光タンパク質には、こうした副産物の生成を中和させ、ヤスデの体を保護する働きがある。
Motyxia属は後に、天敵の多い高地にもコロニーを形成するようになり、そこで初めて毒があるという警告として発光が進化した。
その証拠に、研究チームは、最も強い光を発するヤスデが、猛毒のシアン化物を最も多く持っていることもつきとめた。
「とても優れた研究と論文です。フィールドワークと分子的手法を実に上手く組み合わせた、きわめてまれな例です」とスロバキア科学アカデミーの科学者ピーテル・ヴルサンスキー氏は述べた。同氏は、研究には加わっていない。
一方マレク氏はこの結果を、「予想だにしていなかったユニークな進化の物語」と称している。