音楽ナタリー Power Push - 山下達郎

全国66公演ロングツアー終了 次の一歩につながる現在地

山下達郎がデビュー40周年記念ツアー「山下達郎 PERFORMANCE 2015-2016」を完遂した。2015年秋から半年間をかけて全国35都市64公演を予定していたこのツアーは、チケット販売の不備に伴う神奈川での追加公演と、岩手でのライブ中断を受けた振替公演を加え、最終的に計66公演の長丁場となった。

シュガー・ベイブでのデビューから40年を経て、今なお精力的な活動を続ける山下達郎。そのバイタリティの源泉はどこにあるのか。そして彼を支える信念とはどんなものなのか。1万3000字におよぶロングインタビューとWeb初公開のライブ写真からその姿を読み取ってもらいたい。

取材・文 / 大山卓也 撮影 / 菊地英二、浜田志野、釘野孝宏

キーを下げて歌うくらいだったら僕はやめると思う

──計66公演のロングツアーお疲れ様でした。

12月の岩手は途中までだったから、65.5公演ですけどね(笑)。

──長いツアーを終えた感想はいかがですか?

くたびれました(笑)。まあ、2008年にツアーを再開してから8年経って、だいぶ調子が戻ってきたとか、アンサンブルの密度が上がってきたとか、プラスの部分はたくさんあるんですけど、でもやっぱりこの歳なので、この本数で毎回3時間超えはさすがに疲れました。

──ステージを観ている限り疲れは感じませんでしたけど。

山下達郎

声はよく出てるんですよ。若い頃は声こそが衰えていくもんだと思ってたんだけど、そうでもなくて。でも首から下の体力はさすがにこのスケジュールだとね。30代のときは毎年ツアーと並行してレコーディングをやってたけど、今はそういうのはもう無理。ただあの頃は1日3箱ずつタバコ吸ってたし、酒も浴びるほど飲んでたからね。そういう部分で今は摂生してやってるし、ここんとこずっとライブを続けてきたおかげで声の調子がだんだん昔に戻ってきて、ヘタすりゃ30代より声が出てるときもある。ようやくライブでの高音がB♭までコンスタントに出るようになった。昔はBまで出てたのであともう一息。

──加齢とともに声が出にくくなってライブでキーを下げて歌う人もいますけど、達郎さんは大丈夫そうですね。

自分もいずれはそうなるのではと思っていたけど、幸運なことにね。でも、キーを下げて歌うくらいだったら僕はやめると思う。「煙が目にしみる」の最後のG#のロングトーンが出なくなったら考えるっていうのが、自分の中での1つの基準ですかね。

──でも今回のツアーの岩手公演では声のトラブルでライブを中断しています。あれはどういう状況だったんですか?

あのときは高音が出なかったわけじゃないんですよ。下の地声から上の張る声への変わり目のところ、F#とかG、その辺だけ。そこだけがなぜか引っかかってね。上の裏声も下も全然普通に出るのに。

──スポーツ新聞の記事を見て「大丈夫なのかな」と思っていたんですけど……。

スポーツ紙とかが飛びついて、針小棒大に騒いだだけ。当日のリハーサルはすべて普段と変わらなかったし翌日の青森も何も問題なかったのに、そういうのは書いてくれないんですよね(笑)。そのあと東京に帰って医者に行っても、声帯にはなんの異常もなかったし。今考えても、とてもストレンジ。PM2.5の影響という説も(笑)。

──それにしてもライブ中断とは思い切った判断でしたね。

出だしで声の調子がイマイチなことはときどきあって、それでもしばらく歌っていれば元に戻るので普通はそのまま押し切っちゃうんですけどね。あの晩は1時間やっても元に戻らなかった。僕にとってはライブは前半が命というか、アカペラまでの1時間半が生命線で。後半部分はお祭りといったら語弊があるけど、盛り上がりのパートなので。だけど前半のデキが悪いとお客さんに申し訳なくてね。特に今回のツアーはそれまでのデキがよかったので余計に気になっちゃった。ライブを途中でやめたのは人生で2回しかないんですけど。

若い世代のほうが価値観が近い

──2008年にライブツアーを再開した際に「今後は活動の軸足をライブに移していく」と話していましたが、それは時代の流れを見ての判断だったんですか?

そうです。CDの市場が縮小していく中、配信だけだと印税も大幅に減るし、レコーディングに大きな投資はできなくなる。「だったらライブで食っていこうかな」っていう発想です。でも今みたいになるとは思わなかったですけどね。

──というのは?

やっぱり歳をとるにつれて、だんだん動員は下がってくると思ってましたし、でも下がってきたら下がってきたなりに、まあ老後の楽しみというか、道楽みたいな形でやれればいいやってくらいの気持ちだったんです。まさか動員がさらに上がって新規参入まで増えるとは思わなかった。僕はテレビとかそういう大きなメディア展開をしないから、やっぱり新規の客層はそれほど期待できないだろうなって。

──新規ファン開拓のために特別なプロモーションをしたわけでもないですしね。

全然です。ただ、夏フェスに出てみたいなって思って「RISING SUN ROCK FESTIVAL」で演奏できたのはラッキーでしたね。幅広い年齢層が来るし、すごくロックオリエンテッドなイベントだから。そのあたりのポリシーがすごく僕に合ったんです。今ロックを聴いてる若い人のメンタリティが、自分が20代の頃のメンタリティとそんなに変わらないなっていうのも感じたし。

──そう思います。

変わんないんだったらおんなじようにやりゃいいなと思って。2010年と2014年で2回出たけど、またやりたいなって思ってます。

──2014年の「SWEET LOVE SHOWER」で初めて観てファンになったというリスナーも少なくないようですね。

あれも非常によかったですね。昔みたいに新譜出してツアーっていう流れのままだったら、やっぱり夏フェスとかそういう発想は出てこなかったから。

──若いファンに自分の音楽が伝わっているという実感はありますか?

面白いことに20代とか30代のお客さんが最近増えてるんです。僕が音楽を始めた時代と社会情勢が似てきてるのかもしれない。あの頃ベトナム戦争から冷戦の真っただ中で、今はその頃にちょっと似てきてるというか。そのせいかわからないけど、若い世代のほうが価値観が近い気がするんですよ。バブルを知ってる40歳前後よりも話が合うんだよね。

──育った時代の空気みたいなものが……。

似てる気がする。だから今は同世代と話すよりそういう若い連中と話してるほうが楽しいですね。誰かの葬式で同世代が集まると、しばしば後ろ向きな「あの頃はよかった」とかいう話題になる。僕はそんな話はまだしたくないので。

山下達郎「PERFORMANCE 2015-2016」

2015å¹´
10月9日(金)千葉県 市川市文化会館
10月13日(火)栃木県 宇都宮市文化会館
10月16日(金)群馬県 ベイシア文化ホール
10月19日(月)福島県 會津風雅堂
10月21日(水)山形県 南陽市文化会館
10月26日(月)神奈川県 よこすか芸術劇場
10月30日(金)大阪府 フェスティバルホール
10月31日(土)大阪府 フェスティバルホール
11月4日(水)福岡県 福岡サンパレスホテル&ホール
11月5日(木)福岡県 福岡サンパレスホテル&ホール
11月9日(月)岡山県 倉敷市民会館
11月11日(水)島根県 島根県民会館
11月15日(日)神奈川県 神奈川県民ホール
11月16日(月)神奈川県 神奈川県民ホール
11月22日(日)東京都 中野サンプラザホール
11月23日(月・祝)東京都 中野サンプラザホール
11月27日(金)北海道 帯広市民文化ホール
11月29日(日)北海道 北見市民会館
12月2日(水)北海道 ニトリ文化ホール
12月3日(木)北海道 ニトリ文化ホール
12月6日(日)北海道 釧路市民文化会館
12月10日(木)大阪府 フェスティバルホール
12月11日(金)大阪府 フェスティバルホール
12月16日(水)広島県 広島上野学園ホール
12月17日(木)広島県 広島上野学園ホール
12月21日(月)東京都 中野サンプラザホール
12月22日(火)東京都 中野サンプラザホール
12月25日(金)岩手県 岩手県民会館 大ホール
12月26日(土)青森県 青森市文化会館 リンクステーションホール青森
2016å¹´
1月6日(水)広島県 ふくやま芸術文化ホール・リーデンローズ
1月8日(金)山口県 周南市文化会館
1月11日(月・祝)岐阜県 長良川国際会議場
1月15日(金)埼玉県 大宮ソニックシティホール
1月16日(土)埼玉県 大宮ソニックシティホール
1月19日(火)香川県 香川県民ホール アルファあなぶきホール
1月22日(金)兵庫県 神戸国際会館
1月23日(土)兵庫県 神戸国際会館
1月27日(水)大阪府 フェスティバルホール
1月28日(木)大阪府 フェスティバルホール
2月1日(月)青森県 八戸市公会堂
2月5日(金)宮城県 東京エレクトロンホール宮城
2月6日(土)宮城県 東京エレクトロンホール宮城
2月11日(木・祝)長野県 キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)
2月16日(火)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
2月17日(水)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
2月21日(日)静岡県 静岡市民文化会館
2月22日(月)静岡県 アクトシティ浜松
2月26日(金)東京都 中野サンプラザホール
2月27日(土)東京都 中野サンプラザホール
3月2日(水)京都府 ロームシアター京都
3月4日(金)石川県 金沢歌劇座
3月8日(火)新潟県 新潟県民会館
3月9日(水)新潟県 新潟県民会館
3月14日(月)佐賀県 佐賀市文化会館
3月16日(水)大分県 iichikoグランシアタ
3月18日(金)三重県 三重県文化会館 大ホール
3月23日(水)東京都 NHKホール
3月24日(木)東京都 NHKホール
3月27日(日)高知県 高知県立県民文化ホール オレンジホール
3月29日(火)愛媛県 松山市民会館
4月2日(土)宮崎県 宮崎市民文化ホール
4月3日(日)鹿児島県 鹿児島市民文化ホール 第1ホール
4月9日(土)沖縄県 沖縄市民会館
4月10日(日)沖縄県 沖縄市民会館
4月17日(日)神奈川県 関内ホール
4月20日(水)岩手県 岩手県民会館 大ホール
山下達郎(ヤマシタタツロウ)
山下達郎

1953年東京出身の男性シンガーソングライター。シュガー・ベイブの中心人物として、1975年にシングル「DOWN TOWN」とアルバム「SONGS」にてデビュー。翌1976年のバンド解散を経て、アルバム「CIRCUS TOWN」でソロデビューを果たす。1980年に発表したアルバム「RIDE ON TIME」が大ヒットを記録し、以後日本を代表するアーティストとして数々の名作を発表。1982年には竹内まりやと結婚し、彼女のアルバムをプロデュースするほか、KinKi Kids「硝子の少年」、嵐「復活LOVE」など他アーティストへの楽曲提供も数多く手がける。また代表曲「クリスマス・イブ」は1987年から30年連続オリコンランキング100位以内を記録し、ギネスブックにも登録。2011年7月に通算13枚目のオリジナルフルアルバム「Ray Of Hope」を発表し、2012年9月には初のオールタイムベストアルバム「OPUS ~ALL TIME BEST 1975-2012~」をリリースした。2015年3月には「第65回 芸術選奨文部科学大臣賞」の大衆芸能部門・大臣賞に選出。同年10月から2016年4月にかけて35都市66公演の全国ホールツアーを実施した。