先日、一般社団法人日本動画協会様より「日本でアニメーション制作を行うクリエイターの労働等に関する現状報告」の発表がございました。(以下リンク)
https://aja.gr.jp/wp-content/uploads/2024/12/8cdd91040d7677b62bdd196d420400bd.pdf
上記の発表には、私たちNAFCAが実施したアンケート調査の結果が一部引用されております。
しかしNAFCAが2023年12月から2024年1月にかけて実施した調査結果と比較すると、特に「労働時間」と「収入面」において数値の解釈に一部乖離が見られますので、ここにNAFCAとしての見解を改めて述べさせていただきます。
NAFCAによるアニメ業界実態調査概要
【調査概要】
・調査期間 :2023年12月4日 〜 2024年1月31日
・調査主体:一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)https://nafca.jp/
・調査対象:NAFCA会員のうちアニメ業界従事者のみに送付
・有効回答数:323件
・調査方法:Webアンケートツールを用いたオンライン調査
まず、日本動画協会様の発表において引用された年間労働時間2,623時間という数値について述べます。この数値はNAFCA調査における労働時間の「平均値」を基に算出されています。
一方、極端な値の影響を受けにくい「中央値」を基に休日の日数を加味して算出すると、年間労働時間は2,745時間に上ります。
これは労使協定で定められる上限値である2,805時間に迫る数字となっており、やはり「アニメ業界従事者は長時間労働ではない」とは決して言えないのではないでしょうか。
次に、収入面についてですが、NAFCAの調査によれば、全体の37.7%がアニメ関連の仕事における月収20万円以下、すなわち年収240万円以下と回答しています。
NAFCAの調査でもたしかに年齢が上がるにつれて収入が増加する傾向はあります。
しかし会社員・フリーランスの別なく集計した数字では、20代の13%が月収10万円未満という深刻な状況です。
また、20代の67%は20万円未満の収入しかありません。
物価が上昇する中でこの収入では、やはり生活は苦しいと言わざるを得ないでしょう。
【参考:アニメ業界の半数が月間225時間以上の長時間労働。NAFCAが調査結果を報告】
さらに、NAFCAの労働時間データを基に、日本アニメーター・演出協会(JAniCA)様による各年代の平均年収を活用して平均時給を算出したところ、20代および65〜69歳のアニメーターの時給は東京都の最低賃金を下回っている現状が確認されました。
他産業と比較した場合、20代のアニメーターの時給は同世代の平均より800円も低いという厳しい状況が浮き彫りになっています。
(出典)JAniCA「アニメーション制作者実態調査 報告書2023」、NAFCA「第1回 NAFCAアニメ業界実態調査」、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」より、七夕研究所が算出
一方で、NAFCA調査においても、年収1,000万円を超える回答者の割合は11%と一般業界に比べて高いものの、特に若年層においては、最低賃金すら下回る時給水準で働いており、これはアニメ業界の深刻な課題であると考えます。
たしかに、雇用契約と業務委託契約では働き方に違いがあり、出来高制の収入形態が含まれるため、収入の平均が低い水準に引っ張られる場合もあります。しかしながら、アニメ業界全体の視点に立ったとき、若年層が低収入で働かざるを得ない現状は見過ごすことのできない問題です。
その点においては、日本動画協会様がご指摘されている通り、アニメ業界全体で現状を正確に把握し、雇用契約であれ業務委託契約であれ、誰もが十分な収入を得られる環境の整備を目指すことが急務であると考えます。
しかしいずれにしても、2023年には3兆3千億円を突破したと言われる日本のアニメ産業ですが、それを支える現場のクリエイターたちがこのような状況では、今後も質の高い日本アニメを作り続けることは難しいかもしません。
NAFCAとしては、クールジャパン開始後にもメディアに定期的に取り上げられ続けている「アニメーターの窮状」について、その実態を正確に把握することは今後の業界のためになると確信しています。
なお近年、特に業界へ新たに参入するアニメーターに向けての支援を中心に、様々な環境を改善しようという動きが活発になっています。
これらの動きを加速させるためにアニメーターが置かれている厳しい労働環境をしっかりと見つめ、根本的に改善するための対策に業界一丸となって取り組むことは、今後も引き続き必要であると考えます。
NAFCAでは、アニメ業界の労働環境を改善するための提案を行いながら、人材育成にも並行して取り組んでおります。
1. 業界・政府に対する提案
(1)アニメスタジオに対し、制作物の知的財産権(IP)の1〜3割を付与する。
(2)テレビシリーズ1話あたりの最低受注額を設定する。
(3)新人の育成支援のための補助金や助成金、税制優遇措置をスタジオに提供する。
※詳しくはNAFCAの提出したパブリックコメント「新たなクールジャパン戦略の策定に向けた意見」に記載しています
2. NAFCAの行う業界改善施策
(1)アニメータースキル検定用の教材を作成し、定期的に検定を実施する。
(2)異業種交流の機会を増やし、作業フローの理解を深めることで制作効率を向上させる。
(3)スタジオとクリエイター間で結ぶ標準契約書を作成・公開する。
※NAFCAでは試験的に標準契約書を作成しており、近日中に公開予定です
NAFCAではアニメーターをはじめとする業界従事者の労働環境を抜本的に改善し、日本のアニメ産業の持続可能な成長を実現するために、これらの施策の実現を目指して引き続き邁進してまいります。