- 複数ポート使用時に最大出力が変わる『多ポートUSB PD充電器』は曲者
- 『再ネゴシエーション』による全USBポート一斉の“瞬間停止”が超厄介
- この手のUSB PD充電器にバッテリー非搭載機器は接続してはいけない
複数のUSB Type-Cが搭載された『多ポートUSB PD充電器』の中には、『再ネゴシエーション』により、すべてのUSB PD対応ポートが瞬断される場合があります。説明されれば「なるほど!」なのですが、注意すべき厄介な仕様なのです。
どうしても、1つのACコンセントから電源を取りたい場合は、電源タップでタコ足配線するしかないですわね。
……うーん、ややこしそうな予感。
目次
はじめに
『多ポートUSB PD充電器』の概要
『多ポートUSB PD充電器』とは、USB PDに対応したUSB Type-Cポートが複数個搭載されているUSB充電器のことです。
なお、実際にはこういう名称があるわけではないのですが、分かりやすくするために便宜的に命名しております。複数ポート搭載USB PD充電器、と呼んでもよいかもしれません。このあたりはお好みで。
USB PD『ネゴシエーション』の概要
USB PDには、接続されたデバイスに適した電力を給電および受電するために『ネゴシエーション』というものが行われております。
本稿では、このネゴシエーションがメインテーマとなっているので、簡単ではありますが、ネゴシエーションの仕組みについて解説をしておきます。
このネゴシエーションで注目してほしいのが、USB Type-Cケーブルを接続した瞬間に給電開始…とはならないこと。
給電をする際にUSB PDプロトコルでは、“どの電力ルールで充電するのが適切なのか”を確認してから給電開始となります。つまり、一瞬ではありますが、ネゴシエーションに至るまでの間、給電が停止した状態というのが存在しているわけです。
ここがミソなので、よーく覚えておくとよろし!
多ポートUSB PD充電器の『再ネゴシエーション』
ここからがいよいよ本題。
通常、USB PDのネゴシエーションというのは初回接続時の1回限りなのですが、多ポートUSB PD充電器の場合、『再ネゴシエーション』が行われる場合があるのです。
えーと、どういうことなん!?
それをこれから説明するのであーる。
前述したとおり、USB PDで給電する際には、ソース/シンク間でのネゴシエーションが行われることになっております。
例えば、ソース側が「5V⎓3A、9V⎓3A、15V⎓3A、というPDOに対応してるよ!」と通知し、シンク側が「15V⎓3Aで頼む!」と通知し返せば、15V⎓3Aで給電されるわけです。
もちろん、再ネゴシエーションされることはありません。
ところが、デバイスを給電している最中に、突然ソース側が「5V⎓3A、9V⎓3A、15V⎓3A、というPDOだったんだけど、5V⎓3A、だけに変更になったよ!」とシンク側に通知してきたらどうでしょうか。シンク側は15V⎓3Aを希望していたのに、選択肢から消失してしまったわけです。
なので、そのソース側の新たな通知を受けて、シンク側は「じゃあ、5V⎓3Aで!」と通知し返す必要が出てきます。
これが、再ネゴシエーションのロジックというわけです。
追加オーダーを頼もうとしたら、「売り切れちゃったのです」と言われちゃう飲食店ですな。
そういうこと…なん!?
分かりづらい喩えですわね。
「そんな、突然PDOが変わることってあるの?」とお思いになるかもしれませんが、それが案外あるあるなのです。
巷に出回っている『多ポートUSB PD充電器』の大半は、USB Type-CにおけるUSB PDのPDOが、単ポート利用時と複数ポート利用時で変わってきます。分かりやすく言えば、複数ポート利用するとUSB Type-C 1ポートあたりの最大出力が下がってしまうあの現象です。
したがって、多ポートUSB PD充電器において、デバイスAを充電中に、デバイスBを充電しようとすると、ネゴシエーション済みのデバイスAにおいて、PDOが変わってしまったために再ネゴシエーションが行われる場合があるというわけなのです。
少しずつ見えてきましたわね。
再ネゴシエーションで生じる“瞬間停止”が厄介
この多ポートUSB PD充電器における『再ネゴシエーション』ですが、ネゴシエーションの特性上、(すぐに再開されるが)一瞬だけ電力供給が停止されてしまいます。
この再ネゴシエーションで生じる電力の“瞬間停止”。実のところ、かなり厄介な仕様でして。
バッテリーが搭載されているデバイス(スマートフォンなど)であれば、再ネゴシエーションのたびに「ピコン」と充電開始アラートが鳴って耳障りだ、という程度で済む話。しかし、バッテリーを搭載していないデバイスの場合、この再ネゴシエーションのタイミングで、一瞬だけ電源が落ちてしまうのです。
これはネゴシエーション(というか、再ネゴシエーション)の仕様なので諦めるほかないわけですが、ここを理解しておかないと、常時通電しておかなければならないデバイスにおいて、電力の“瞬間停止”によるトラブルの原因となってしまいます。
これって、意外とクリティカルな問題じゃない?
そうなんだよねー。
あまりこの点を触れる人はいないけど、ネゴシエーションの構造を分かってないと、解決しないクレームが出てきそうな予感がするあーる。
再ネゴシエーションの影響を受けるデバイス
再ネゴシエーションの影響を受けるデバイスとして、上記のようなものが挙げられます。
簡単に言ってしまえば、“USB駆動”でかつ“バッテリー非搭載”で“連続駆動”する必要があるデバイスすべて。
多ポートUSB PD充電器によっては、今回のような再ネゴシエーションが生じない製品もあるため、一概には言えません。ただ、これらの連続駆動が求められるデバイスについては、USBポートが1つしか搭載されていないシンプルな充電器で運用することをおすすめします。
仮に、ACコンセントに1ポートぶんしか空きがないのであれば、一般的な電源タップを用いて、ACコンセント自体をタコ足配線してあげましょう。もちろん、タコ足配線はしすぎないように。
最近の多ポートUSB PD充電器は再ネゴシエーションしちゃう製品が多いけど、ちょっと前のタイプの製品だと、PDOがポートごとに完全固定されてて、再ネゴシエーションしないのもあるんだよねー。
製品によりけり、ということですね。
複数ポート使用時における各ポートの最大出力が記載されている多ポートUSB PD充電器については、再ネゴシエーションがあるタイプと思っておくのが無難ですな。
まとめ「再ネゴシエーションが厄介」
『多ポートUSB PD充電器』の中には、デバイスAを接続したあとにデバイスBを接続すると、ネゴシエーション済みのデバイスAにおいて『再ネゴシエーション』されることがある。…というわけです。
余談ですが、『Chromecast with Google TV』を使っている最中に、この再ネゴシエーションに遭遇して大変な目に遭いました。多ポートUSB PD充電器も、決して万能ではないというわけなのです。ですなの。
詳細なUSB PDの仕様については、この記事をどんぞい!
おまけ
USB PDは奥が深いのであーる。
単純にややこしいだけですがね。
これでも“ユニバーサル”なんやけどね。
仕様書をたまに読むんだけど、電子工学に精通してないと難しいとこだらけですからな。
おわり
結論から言うと、
「常時通電の必要があるデバイスだけ、USB PD充電器を分けてあげるのが正解」
…なのであーるっ!