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「花園で笑う」
エピローグ

4 墓地の時雨 ~千草 -2- 

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 復活の日も、輪廻転生も、この墓地から見上げる灰色の空からは見えてこない。
 あの子の細い体は焼かれて煙になって、この世界に四散した。魂はどこにいったのだろう。教えてくれるものは、どこにもない。

 ずっと、昔。教室で聞かされた、十津見の退屈な授業を思い出す。
 液体、固体、気体。姿は変わっても物質の本質は変わらないとか、何だかそんな話だった。
 水が氷になったり、水蒸気になったりするのを例に挙げていたけれど。

 水と氷はともかく、蒸発して大気中に四散してしまったら。それも同じといえるのだろうか、なんてぼんやり考えていたら、質問に当てられて。うまく答えられなくて、さんざん厭味を言われた。さっさと忘れたい、そんな思い出である。
 忍の話では、専門の地学分野になるとヤツは星だの雲だの鉱物だのについて楽しそうに語ってくれるらしいが。正直、そんな姿を見たくもないし。それに付き合える妹の感性もどうなのかと思ってしまう、そんな今日この頃。

 浦上家の墓のある区画を出ると舗装された道路がある。この広大な霊園には区画ごとを結ぶ道路が敷地のいたるところに張り巡らされており、参拝者は車で来園するのが当たり前になっている。
 そこに、この場所には似合わない真赤な車が停まっていて。私を連れて来てくれた人が所在無げに車に寄りかかっていた。

「お待たせしました」
 声をかけると、彼は顔を上げて私を見て。
「気は済みましたか?」
 と物憂げに言った。

「はい。……いいえ」
 私は、曖昧な返事をする。
「改めて、もう薫はいないのだということが身に染みました」
 氷が気化して大気に四散するように。浦上薫という人間はただの有機物の塊になり。それすら焼かれて、灰になり煙になって。今は、その欠片だけが地下に残されている。
 それを確かめるために、きっと私はここまで来たのだろう。

「そうですね」
 克己さんは、相変わらず物憂い調子で続けた。
「生き続けるのにはエネルギーが必要ですが、死ぬ時は一瞬です。そして、後には思い出の他には何も残りません」
 その口調が、悲しげで。私はつい、彼の顔を見直してしまう。
「今回も、何も出来なかったなあ」
 彼は呟いた。

 そうして私は。この人が、こんな思いを何度もしている人なのだ、ということを思い出した。
 ズルいな。今日は甘えるつもりだったのに。
 その広い胸に、すがらせてもらってもいいかな、と思ったから。パパやママじゃなく、克己さんにここに連れて来てもらったのに。

 でも、仕方ないから。私はため息をついて、
「そうですね。今回は何も出来ませんでしたね」
 と言う。
「だから。次は、頑張りましょうね」
「次?」
 彼はきょとんとして私を見る。

「だって、見えてしまうんでしょう? 誰かの悲しい結末が」
 私は言った。
「前におっしゃったじゃないですか。ひとりの時はほとんど何も出来なかったけれど、十津見先生と組むようになって、少しはマシになったって。それなら、三人になればもっと出来ることが増えるんじゃないですか」
 ちょっと間をおいて、付け加える。
「十津見先生がいるなら、妹も加わりたがるかもしれませんし。そうしたら、これで四人。あら、葉桜さんもいましたね。五人でした。それに私にも、力を借りられそうな友人もいますし」

 小百合の腕っぷしだの撫子の情報網だのは、今回のような事態に対処する時に、きっと使えるだろうし。
 妹をまきこむのは不本意だが、十津見がいるならあの子はきっと勝手に首を突っ込んでくる。

 克己さんはしばらく私の顔を見て。
 それから笑った。
「君は。本当に強い人ですね」
 そう言って。私の頭を大きな手で撫でた。何だか子供扱いされている気がして、ムッとする。
 私が強くいられるとするなら。それは、この人のおかげなのに。

 文句を言おうと顔を上げたら、頬に大粒の雨が当たった。
「降って来ましたね。車に入りましょう」
 克己さんに促されて、赤い車の助手席に乗った。

                        =続く=
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~ Comment ~

NoTitle

焼かれて灰になって、
実際にそれを見たら改めていなくなったと実感するものなのでしょうね。
少し前までは話していた人が亡くなっていなくなるというのは、
なかなか実感も難しいですしね……。

そして、克己がやっている事に千草も手を貸すようですね!
今までは克己達3人でやってきた事に、
千草や忍も加わったらどうなるか、
変えられるのなら変えてみたいと、
この事件を通してそういう考えに至ったのかもしれませんね(´∀`)

Re: ツバサさん

コメント&読んでくださってありがとうございます。

子供の頃は、墓地というものはただ石がたくさん並んでいる場所でしたけれど、
この年になって何人か親しい人を見送って、
その人を思い出すよすがが石だけになってしまうことにはいろいろと思うことがありますね……

濃いメンバーに更に濃いメンバーを足してどうするという気もしますが(^_^;)
もともと克己のやっていることは無理ゲーですが、
人が増えたことで、何か新しい未来が見えるといいなあと思ってます。

NoTitle

> 何だか子供扱いされている気がして、ムッとする。

エヘヘ(笑)

Re: ひゃくさん

コメント&読んでいただいてありがとうございます。

> エヘヘ(笑)

あはは(笑)

NoTitle

まあ、何もできないのが普通です。
どこぞの某小学生探偵のように、
サッカーボールで犯人ぶったおしたり、
へっぽこ探偵を名探偵にするのは無理なもんです。
(*´з`)

Re: L and M さん

コメントありがとうございます。

名探偵ならぬ凡人ですからね……
まあ、この子には自分が凡人と思い知る経験も必要だったと思います。
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