自走する組織の立ち上げで大事にしている12のこと
「自社にマーケティング組織がない」「オウンドメディアを立ち上げたいが、編集部がない」といった相談がしばしば寄せられます。その際に私は、それらを代行するのでなく、クライアントの組織立ち上げや教育の支援に回ることがよくあります。
そういったプロジェクトでは、常に自分が関わり続けるのではなく、コンサルタントがいらない状態、すなわち自走する組織をどうつくっていくかを重要視して取り組んできました。実際に、記事として公開しているものとそうでないものも含めて、関わりが離れた今でも成長していく組織が生まれています。
そこで、私自身が自走する組織の立ち上げプロジェクトに関わる際に、大事にしていることをまとめてみました。
はじめに|自走する組織が持つ5つの共通項
これまでにさまざまなクライアントのインハウス支援に携わらせていただき、一概に言えない側面もありますが、自走する組織にある共通点をまとめました。
1. 共通の目的、成果目標がある
そもそも組織とは何なのかと考えた時に、アメリカの経営学者であるC.I. バーナード氏は著書『経営者の役割』の中で、組織とは「意識的で、計画的で、目的を持つような人々相互間の協働」であり、「二人以上の人々の意識的に調整された活動や諸力のシステム」だと述べています。
つまり、組織というのは目標に向かって協働体制を組んでいくものであり、共通の目標がなければ、それは組織ではなくただのグループ、人の集まりでしかないということ。
そのため、新たに組織をつくるという際には、何よりもメンバー間の中で「共通の目的、目標」となるものを設定することが大切であり、指標を定める必要があります。
2. リーダーがいる
次に、自走する組織に共通して必要なのが「リーダー」です。目標に対して行動を起こしていくことは意思決定の連続です。リーダーというのは、目標に向かって周りのメンバーを導く存在であり、リーダーが意思決定をしなければ、組織はまとまらなくなってしまいます。どんなに小さなプロジェクトでも、責任を背負い、意思決定を行い、メンバーを誘導するリーダーは必要です。
3. 判断軸を持っている
また、組織に共通の目標があり、リーダーがいたとしても、「判断軸」が定まっていなければさまざまな意思決定にブレが生じます。
基本的には目的、目標から垂直に判断を行うことがシンプルだと思いますが、施策ごとにはまた別の判断が求められることもありますので、どう判断するべきか、リーダーが、またはチーム全体が、迷った時の判断軸を持ち続ける必要があります。
4. 目標につながる打ち手を使いこなせる
どれほど優れたリーダーがいて、目標があって、判断軸があっても、目標につながる打ち手が分からなければ前に進めませんし、特に我々外部が介入する価値がありません。
また「知っている」と「できる」はまったく別の話です。リーダーが手探りで打ち手を探すことも大事ですが、ビジネスですので、求められる期限と成果は大抵の場合決まっています。そのため、目標につながる打ち手をしっかりと使いこなせる状態にあることが大事です。
5. 成果を出している
最後に、自走する組織の共通項として挙げられるのが、(最終的に)成果を出していることです。アクションして成果が出ることで、チーム、またリーダー、メンバーの自信につながります。すると周囲からも評価されて見える景色も変わり、責任範囲が明確になったり増えたりすることで、ようやく自走するチームとして機能していきます。
一挙に書き出してみましたが、自走する組織を外部から作る際には、ミッション(チームの使命・目標)を定め、リーダーを育て、判断軸を養い、打ち手を教育し、成果を出させることで自走し始めると思っています。
その上で、具体的に大事にしていることが今回ご紹介する12のことです。
立ち上げ初期に大事にしていること
1. 責任感の強い人をリーダーに(明言せずとも)定める
目標を達成する戦略や手段、また意思決定の方法などは教えることができますが、難しい状況下でも手を抜かずにやりきれるかどうかは、その人の責任感次第であり、リーダーには責任感を持ってやりきることが求められると思っています。
そして、責任感といった人としての特性はなかなか教えて身につくものではないからこそ、リーダーにアサインしたい人が、責任感のある人なのかどうかを見極めることを大事にしています。
私の見極め方は、抽象的な宿題を出した時にどこまでやり込んでくるかで見極めることが多いです。抽象的に与えられた宿題に対して「ここまでやれば十分だよね」と自分で判断して手を抜いてしまいがちですが、責任感の強い人はより深く宿題を考えて提出する傾向にあるとこれまでの経験で理解しています。
言われたことを最後までやれるかどうかで、その人の素直さと責任感の強さ、そしてセンスの度合いはある程度測れるなと思います。
2. 描いたゴールまでの道筋を徹底的に信じてもらう
組織が自走する前というのは、何が正解なのかが誰も分からないため、与えられた戦略に対しても疑心暗鬼になってしまいがちです。しかし、その組織にPDCAを回していくほどのデータもなければ知見もないような立ち上げ当初というのは、とにかく行動量を増やしていくしかない場合が多くあります。
そこでインハウス支援で私が入る時は、戦略設計から行い、ゴールまでの道筋を提示して、その道筋をとにかくメンバーのみなさんには信じてもらうようにしています。もちろん、ゴールまでの道筋はひとつとは限りません。いろいろな道筋があるだろうけれども、その時描いた道筋を全力で取り組むことが、結果的にゴールへの最短ルートとなっていくと思っています。
だからこそ、もしメンバーが自ら情報収集を行って「こんな道筋もあるのでは」と言ってきても、私は受け入れないようにしています。調べる時間があるなら、その時間で手を動かしたほうがゴールへ早くたどり着けるだろうと思っているからです。
3. 「信じるに値する人物」というポジションになる
組織の立ち上げ初期は、誰もがやったことないことをやるわけですから、リーダーもメンバーもみんな不安な気持ちを抱えていると思います。そうした中でゴールまでの道筋を信じてもらおうとしても、「本当にこの人の言うことを信じて大丈夫なのか」と思われてしまっては、なかなかメンバーは行動に移せないでしょう。
そのため、私自身がメンバーからいかに信じてもらえるかが重要で、これまでどんな実績があるのか、どういったことをやってきたのかというのをちゃんと伝え、この人を信じれば間違いないというポジションづくりを大事にしています。
また、実績がなかったとしても、誰よりも考え、誰よりもミッションにコミットすれば、人は言動や行動が変わってくるものだと思っています。役職というのも結果論であって、成果を出したから役職に就くのであり、成果に対して一番責任感を持っている人だと思ってもらえれば、メンバーはその人のことを信じて行動してくれるのだと思っています。
最初の成果が出るまでのプロセスで大事にしていること
4. 成果が出るまではとにかく褒め続ける
ゼロからのスタートの場合、最初の成果が出るまでに時間がかかることは非常に多くあります。成果が出ていない状態で、信じた道を突き進むことはとても難しいでしょう。
そこで私は、些細なことでもいいから、まずは褒めるということを大事にしています。たとえばメンバーがつくったコンテンツに修正すべきポイントがあったとしても、まずはいいポイントを探して褒めるんですね。その上で、代わりにここを直すともっと良くなるよといったコミュニケーションをとるようにしています。
逆に初期のフェーズでは、できていないことがあった時に叱るということは極力避けるべきです。メンバーが萎縮してしまって、手が動かなくなってしまいますし、「なんのためにやっているんだろう」とモチベーションの低下につながってしまうからです。
そしてお客様の声でいいコメントがあれば、みんなで喜び合ったりと、ポジティブなコミュニケーションをとることが初期フェーズでは非常に重要だと思います。
5. 正解とワンセットで考え方も教える
インハウス支援でプロジェクトに入る時に、どう行動すればいいか分からないメンバーに対して、「こうすればいい」という正解と合わせて、私はなぜそのアクションをするのかの考え方もワンセットで教えることを大事にしています。
それは自走する組織の共通項である「判断軸」をメンバー自らが持ち、「成果につながる打ち手」を自ら考えられるようにするためです。正解だけを伝えていては、メンバーが自ら考えて意思決定をするといった力が養われていきません。
また、時には同じことを言うシチュエーションもあるでしょうが、「前も言ったよね」といった具合に叱責するようなコミュニケーションはとらず、何度も伝えて、思考の型を身に着けてもらうことも大切です。
たとえば私がオウンドメディアマーケティングを行う組織づくりでは、「テクニック論禁止」「ユーザー目線で考える」というのを何度も何度も伝えています。
そして「こうすればSEO的にいいのではないですか?」と聞かれた時でも、それは「テクニック論でNGですね、ユーザー目線ではどうですか?」といったコミュニケーションが取れるわけですが、そうしたコミュニケーションを何度も繰り返していくことで、一本筋の通った考え方を身に着けていってもらえると思っています。
6. 不安や迷いを生み出すデータは見せない
行動し続けていく中で、コンテンツのPV数がどうなっただとか、ユーザーからの反応はどうだったかなど、さまざまなデータが出てきます。しかし、私はそうしたデータを極力見せないようにしています。
もしデータを見せてしまうと、「こうやったほうがいいのでは」と別の道筋を考え始めてしまい、目先の行動に不安や迷いが生まれてしまうからです。
最初の成果が出るまでのフェーズは、データを見て改善していくフェーズではなく、とにかく信じた道筋をたどって行動し続けることが大切であり、迷いの要素はなるべく排除していくことが大事だと思っています。
私はGoogleアナリティクスも指標をフェーズに応じて3つ以上の数字を見させないようにしたり、解析ツール自体を3〜6ヶ月は見せないこともあります。PDCAを回していくのは成果が出始めてから取り組めばいいことで、とにかく初期フェーズは行動量を担保することを重視しています。
7. とにかく行動させる
正しい戦略があって、正しいやり方があるなら、あとはどれだけ行動するかが、目標達成への一番の近道です。だからこそ行動量を担保するために、私はメンバーを褒め続け、迷わない環境づくりを意識します。
そしてメンバーとの信頼関係が構築できていれば、時には行動量が足りていないメンバーに対して叱ることもします。リソースが足りていないというのであれば、リソースを確保するために一緒に考えて社内調整まで踏み込んでやります。
時にはデータを見せて行動が少しずつ目標達成に近づいていることを伝え、進捗していることを示したりもしますし、支援の回数を減らして私の予算を削り予算を捻出、外部パートナーの発注代にしたりします。とにかく行動量を担保すること。それが何よりも初期フェーズは大切だと思っています。
8. 成功体験を創出する
これだけ行動量を担保するために動いてきて、成果が出ないというのは私の戦略がダメだったということであり、コンサルで入っている私の負けです。もちろん、そんなことにならないよう、誰よりも成果に(目線は)コミットして、誰よりも行動することを大事にしています。
そして成果がすべてを癒すと考えていて、自分たちの行動が成果を出したという成功体験が生まれ、みんなのモチベーションは上がっていきます。
また成果が生まれれば、上長や経営層含めて社内からも認められるようになり、「もっとマーケティングを伸ばしていこう」と投資予算が増えたり、リーダーの役職が上がったりといった意思決定にも繋がっていきます。
そうした社内からの承認というのは、メンバーの自信につながり、自信が生まれれば「もっとやってみよう」と、より前へと進んでいく自走する組織へと成長していくのです。
だからこそ、成果を出さないでノウハウだけを提供するのは馬鹿げているなと思いますし、結果や成果が組織をつくるからこそ、いかに成功体験を創出するかが大事であると思っています。
成果が出てからのフェーズで大事にしていること
9. 「質問」から徐々に「確認」にシフトさせる
右も左も分からない状態の初期フェーズでは、メンバーからの「どうすればいいんですか?」という質問に、正解と考え方をワンセットで伝えることを大事にしています。
しかし、成果が出るようになったフェーズでは、質問ではなく「こうしようと思っていますが、いいですか?」といった確認のコミュニケーションへとシフトさせていくことを意識しています。
成果を出せるようになるまでに、成果を出すための考え方を伝えていったからこそ、自走する組織を目指して、メンバーが自分たちで意思決定できるフェーズへと進んでいく必要があるからです。
そのため、私自身のポジションも、初期フェーズではコンサルタントの立ち位置でコミュニケーションを取り、成果が出てからのフェーズではアドバイザーの立ち位置へとシフトさせるようにしています。
10. リーダーのポジションを上げていく
はじめは私が描いた道筋をただ信じて行動してもらっていましたが、自走する組織を実現するためには、その役割を今度はリーダーが担わなければなりません。しかし初期フェーズでリーダーと二人三脚で一緒にプロジェクトを引っ張ってきたからこそ、成果が出てからのフェーズではすでにリーダーとして動ける人材になっています。
後は組織の中でリーダーがちゃんとリーダーであるということを認識してもらうことが重要で、そのために私はリーダーのポジションを上げていくことを大事にしています。
多くの場合は成果を出したら役職が上がっていきますが、それ以外にも経営層に個別でリーダーの活躍を伝えたり、他の部署を巻き込んで社内でのリーダーの存在感を醸成していったりといった行動もしています。
そしてリーダーの役職が上がれば、リーダー自身の責任感も増すでしょうし、権限も増えてできることが増え、よりリーダーとして成長していくことができます。
実際にこれまでもリーダーポジションからマネージャーに昇格したのは少なくとも10名以上いましたし、子会社の社長にまで上り詰めたリーダーは4名います。一緒に伴走していったリーダーたちが、いまそうして活躍されていることは私自身とても嬉しいなと思います。
11. 新しい(高めの)目標を設定する
はじめの目標を達成したら、より組織として成長していくために、新しい目標は少し高めに設定するということを大事にしています。たとえば月間100件のリード獲得数という目標を達成できたとして、翌年も同じようにやれば月間150件が見えている状況で、150件を目指すのは同じことの延長戦でしかなく、困難もなく、乗り越える経験もできず、新しい何かを考える余力が生まれません。
逆に少し背伸びをして、月間300件を設定するとしたら、既存の発想を超える何かを創造しなければいけません。
そうした思考が、組織成長をより加速させると思っていますし、予算を増やそうといった経営判断など、順当に進めていては出てこなかった意思決定が生まれていきます。
もちろん、無茶難題な目標設定は組織を疲弊させてしまうだけですから避けるべきですが、ギリギリ届くか届かないかというラインで目標を設定することで、組織としてのギアを一段上げられると思っています。
12. 外部である私の存在がボトルネックになる状態を目指す
リーダーが育ち、成果ベースでの意思決定ができるようになり、新たな高い目標に対してどうすべきかと考えることが増えていくフェーズでは、私はただ壁打ち相手としてプロジェクトに関わります。
むしろ、やるべきことが増えていく中で、外部の人間である私への確認プロセスを挟んでしまうと、アクションにブレーキをかけてしまうことになってしまいます。
このフェーズではリーダーは自分で意思決定しなければ回らなくなるでしょうし、スピード感を高めるためには社内でゴリゴリやっていったほうが早いよね、という状態になっていきます。
また、このフェーズはさまざまなデータから改善点を見出して、PDCAを回していくフェーズでもあるため、外部の私では分からないことも増えていきます。つまり、私の存在が組織のスピード感を高めるためのボトルネックになっているなと思えたら、それは自走する組織ができている証であり、そのタイミングで私は胸を張って離脱するのです。
おわりに
これまでにさまざまなクライアントでの組織の立ち上げに携わらせていただき、人がどう育っていくのか、組織としてどう成長させていけばいいのかを考えて取り組んできました。
もちろん、私のこのやり方がすべての組織立ち上げに正しいとは思いませんが、自分のやってきたことをフレームワーク化できないかなと思い、この記事を書いてみました。
あくまでも私のやり方ではありますが、少しでも参考になれば幸いです。
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